デジタル コンサルティング本部のマネジャー、板野愛さん。会社を辞めずに転居し、今は八丈島にてリモートワーク制度を利用して勤務している。

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恒常的に長時間労働、ハードワークなイメージが強いコンサルティング業界。アクセンチュアも例外ではなかったが、あるプロジェクト以降、社内の空気が大きく変わったという。八丈島でのリモートワーク、残業を減らしつつのアウトプット主義……アクセンチュアを変えた「Project PRIDE」とは。

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高い離職率、長時間労働……、コンサルが自社を「コンサル」すると?
▼アクセンチュアの現状
・「恒常的に長時間労働の会社」と社外から認識されていた。
・「人材がすべて」の業界だが、人が集まりにくく、また離職率も高かった。

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「以前は、都心でしか働けないという先入観があったんです」

デジタル コンサルティング本部マネジャーの板野愛さんが、仕事をしながら眺める光景は、林立するビルではなく優しい自然だ。

板野さんは、佐賀県庁の仕事を、福島県会津若松市のセンターで受けて、それを東京・八丈島から管理する管理職。上司はシアトルが拠点。今の仕事場は八丈島の自宅だが、オン・オフがはっきりしている。夕日を見に行くこともあれば、ウミガメが泳ぐきれいな海もすぐそこにある。

「実は夫婦で八丈島に住むことになって」と上司に告げたときは無念だった。夫が家業を継ぐので八丈島への引っ越しが決まり、ちょうど仕事がおもしろくなってきたところだが、退職するしかないと思っていた。ところが、上司からは意外な言葉が返ってきた。

「リモートで仕事が続けられるかもしれない。やってみれば?」

上司に背中を押され、始めたリモートワーク。やってみたら、リモートでつながるチームと、オフィスにいたころよりも効率的に一日を組み立てることができ、生産性も向上。

「地方創生プロジェクトでも、自分の体験から、自信を持って移住やリモートワークを提案できます」

特に全社的に「Project PRIDE(プロジェクト プライド)」(後述、以下PRIDE)という名の働き方改革が打ち出され、周囲の空気も変わりつつあった時期で、「こんな働き方もあるんだ」と発信してほしいという声も増えた。

「島の子どもたちは、周りの大人が一緒に育てるイメージ。都心部で周りにサポートがない状態よりは、島のほうが子育てしやすいのではないかと思います」

夫の転勤という理由で辞める人もいたが、「リモートワークする人は増えてくるのでは」と板野さんは話す。

PRIDEの効果を、独身で時間制約のない社員も実感している。公共サービス・医療健康本部で、入社4年目ながら、2年目から部下を持つ田中えみさんは、初めから、ガツガツ働く会社だと思って入社した。医療をITの力で変えたいという希望通りの仕事についており、「もともと“好きで働いている”派でした」と振り返る。

「結果を出すには時間を費やすしかないと思っていました。でも定時で価値を出すというアクションを促されると、じゃあどうするのか、とマインドも変わっていくんですね」

PRIDE以降、チームとしての生産性に、最大限の効果が出るように仕事を考えるようになった。朝10時、夕方4時、それぞれ20分以内で、ホワイトボードでチェックしながら、立ったままのミーティング。

「今誰が何をしているんだっけ?」「じゃあ、そこは私がやるよ」。全員の仕事を共有し、困っていることや、予定の業務が3時間から4時間になるかもしれないことなど、全員でブレーンストーミングする。合言葉は「生産性を上げる」だ。作業のオーナーはいても、誰が介入しても良いというルールもある。

「今は限られた中での最大の生産性を目指すようになりました。今まではオン・オフではなくハイ・ローで考えていた。でもPRIDEが始まってから、私もオン・オフで考えるように。そして自分だけでなく、チームも変わりました」

■「人材がすべて」という原点に立ち返る

みなが「変わった」というPRIDEとは何なのか? 江川昌史社長がPRIDEを推進する背景には、人材紹介会社からの率直な、しかしきつい一言があったからだ。

「アクセンチュアさんに人材を紹介しにくくて……」

どうやら長時間労働や働く環境があまりよくないと周囲に思われているようだった。そこで、2015年4月から取り組み始めたのが組織風土改革「Project PRIDE」だ。

「これはいかんと。会社を本当に変えないと、結局人材こそすべての会社なので、悪評がたてば、いい人もとれなくなってしまう。働き方改革だけでなくセクハラ、パワハラ防止、女性活躍を含めたダイバーシティの推進、人材のリクルートと、すべてを含めたチャレンジがPRIDEをスタートしたきっかけですね」

ただの時短ではないし、リモートワークだけでもない。PRIDEのミッションを、「アクセンチュアで働くすべての人々が、プロフェッショナルとしてのあり方に、自信と誇りをもてる未来を創造する全社員イノベーション活動」と掲げた。

PRIDEで江川社長が改革のために絶対にやらなければならないと考えたことは3つある。1つは「時間に依存しない評価」だ。

「かつては納期の追い込みの時期には、毎晩遅くまでいることが価値が高いように思われていた。最後まで体を張って頑張ってくれた人がえらいと。そこで完全にアウトプット主義にした。同じアウトプットの量なら、早く帰った人のほうが有能であるというルールを決めたんです。これは結構変えるのが大変で、まだまだ古い慣習は残っています」

残業についてもメスを入れた。特に、「残業を30時間ぐらいしないと生活が成り立たない」というような、いわゆる「生活残業」はなかなか減らなかった。「そこで、まず全体の給料を上げました。PRIDEの推進が自分にとって不利益ではないと実感してもらうためです」

2つめは、ダイバーシティを阻む「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」へのチャレンジだ。

「06年から取り組んでいる女性活躍もまだまだ改革の余地があった。今までは男社会の中で男性が甘やかされてきたので、トレーニングやマイノリティの体験をさせています。圧倒的に女性が多数のところに男性を送り込むなど」

毎年3月、国際女性デーのイベントがあるが、2017年は1000人規模の女性社員が参加する会場に、一部の男性社員を送り込み、自分たちがマイノリティになることを体験させた。無意識にかけているバイアスは、トレーニングしてもすぐになくなるものではない。今も100点満点中70点ぐらいだが、前よりはだいぶ変わった。

3つめは「お客さまの協力」だ。たとえば夜8時に、顧客から「明日の朝までにこの仕事をやっておいて」と依頼されることもある業界だ。全部の依頼に対応すると働き方改革は難しい。「『我々は働き方改革、PRIDEを推進している。国の働き方改革の流れもあるので、協力いただきながらやらせてほしい』と提案書に書いています」

■クライアントファーストからクライアントバリューへ

とはいえ、最初は社員の中でも戸惑う人が多かった。

「コンセプトに反対の人はいないのですが、実際にどうなのか……という戸惑いはあった。入社以来“クライアントファースト”で仕事をしてきて、それ以外の価値をどう出せばいいのか。特にマネジャークラスは悩みます」と戦略コンサルティング本部マネジャーの込山努さんは言う。

江川社長も「管理職がつらい思いをする」のは織り込み済みだったと話す。入社5、6年目までの若い人は「早く帰れ」と言えば素直に帰る。しかし会社が求めているのは、単に早く帰ることではない。10時間の仕事を8時間で終わらせる、つまり1.25倍の生産性である。若い社員が生産性はそのままに早く帰ればそのツケは管理職に回ってくるので、「つらいときはすぐに助ける」とトップからメッセージも発信した。

「PRIDEがきっかけで、顧客のみならず、キャリア、プライベートの3つのバリューを上げるというメッセージをもらったと思っています。戦略コンサルタントとして価値を出すことに最大限時間を使うために、プロセスを楽にしたい。もともと自動化ツールなどを独自で作っていたのですが、それがPRIDEの生産性アイデアコンテストで表彰されました」(込山さん)

効率は上がっても、ウエットな部分は必要だ。一体感を生むために込山さんのチームは、ランチは外で1時間一緒にとる。休日に、釣りやサバイバルゲームなど、だれかの趣味につきあう“アウティング”も行っている。

「僕はちょっと威圧感があるかもしれない。でも今は入社1、2年目の人が『込山さん、ここ間違ってます』と指摘してくれる。言いにくい空気がPRIDEのおかげでなくなった。仕事の手戻りも減り、この空気がクライアントバリューに直結するのです」

改革の進捗は数値化して共有し、生産性と時短への意識が浸透しているか、労働時間、女性の比率、離職率など、会社の“成績表”としてつきつけられる。

「売り上げは目標がある。でも早く帰れとも言われる。どっちですか? と聞かれますが、どっちもとるように言ってきました」。人事担当役員としてPRIDEを推進してきた武井章敏さんは言う。「コンサルたるものハードワークが当たり前」という風潮もあり、最初は逆風だった。

「とにかく毎日毎週毎月メッセージを出し続けた。8時間でお客さまの期待に応えられないのはプロフェッショナルではない。日本のプロ野球の選手ではなく、メジャーリーガーになってくれと」(武井さん)

 

この改革は社内のワーキングマザーの空気も変えた。

「制度は整っていたのですが、うまく使えるかどうかは、以前は上司やその人のコミュニケーション次第で個人差があった」と2児の母でもある公共サービス・医療健康本部のシニア・マネジャー、大河原久子さん。今は時短で働き、PRIDE以前から部署内で「女性活躍支援」のネットワーキングなどをリードしてきた。PRIDEで、午後6時以降の会議の原則禁止、短時間で成果を出すこと、短時間の会議がスタンダードになると、子どもがいる人の悩みだった長時間労働が解消される。

「ワーママだからと特別扱いされるのが居心地悪かった。復帰後1年で昇進したい人もいるし、夕方5時に帰りたい人もいて、ワーママも多様なんです。ワーママに限らず、全員のプライベートも大切にする多様性の風土の醸成へ、一気に会社が舵を切ってくれました。6時以降にメールは来ないし、男性マネジャーも在宅勤務で会議に参加したり、育休をとる男性も多いです。男性に保育園の相談をされることも」

PRIDEの進捗は、全社員に対して15項目のアンケートを定期的に行い、すべて社内で共有。以前はPRIDEにポジティブな回答は半数以下だったが、今では約7割になった。

大幅な残業の減少、離職率の低下、有給休暇取得率の向上など、数字にも表れ始めた。アクセンチュア日本法人の女性比率は世界全体で見ればまだ高くないが、新入社員の女性比率5割を目指した採用活動を行うなど、女性社員の比率も改善しつつある。

「まだまだ道半ばですが、2年かけてやっと外に言えるような成果が見えてきました」と江川社長は話す。

変化は企業文化にも及ぶ。

「もともとアクセンチュアは男臭いカルチャーの会社だったんですよ。それが、PRIDEの副産物として、みんなが優しくなった。クリスマスパーティーのときに『大切な人への“感謝”を伝えるキャンペーン』として、家族やお世話になった人へのビデオメッセージを募りました。奥さんに『ありがとう』とかね。当時約7000人の社員から1000通のビデオメッセージが届きました。以前なら考えられないことです」

業績を下げずに働き方改革を成功させることは非常に難しく、経営者には取り組みにくい課題だと江川社長は言う。

「日本は世界一労働者が足りない国で、女性や外国人を活用しないというのはあり得ない。それを理解した男性社員はPRIDEの意義を感じ、心が優しくなってくる。男性社会のぎすぎすした会社から、劇的に変わったと思っています。若手の中には“早く帰れる甘い会社”と勘違いするメンバーもいますが、実は時間内の成果を求められる厳しい働き方。甘いと優しいは違うんですよ」

2017年3月に国は「働き方改革実行計画」で「労働時間の罰則つきの上限規制」の導入を決めたばかりだ。「働き方改革」の追い風を利用して、改革に踏み切るかどうか、今、経営者の覚悟が問われている。

(少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授 白河 桃子 撮影=市来朋久、吉澤咲子)