AIが製造業にもたらすのは吉か凶か

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 前回は、日本の製造業界のIoT化(モノのインターネット化)が出遅れた理由と、先行するアメリカやドイツのそれぞれの取り組みについて紹介した。こうして世界で急速に広がりを見せているIoTでのスマート化だが、現段階において、このスマート化をフル活用できるとされているのが、目下あらゆる分野で研究・開発が進んでいる「AI」だ。

 今回は、このAIの普及が、製造の現場にどのような影響をもたらすかを中心に綴っていきたい。

 AIとは、「Artificial Intelligence」の略で、日本語では「人工知能」と訳される。数年前からのブームにより、言葉自体はメディアで毎日のように見聞きするものの、映画などの影響からか、“近未来”的なイメージが先行していることに加え、その定義が研究者や開発者によって微妙に異なることから、本質の理解が曖昧になりやすいのだが、総合的には「人間がしている知的活動を、コンピューター上で人工的に実現させようとするもの」として捉えられる。

 1950年代の第1次、1980年代の第2次と、過去に起こった2回のブームでは、技術よりも期待が上回り、結局大きな成果は得られなかったが、2010年ごろから続く今回の第3次ブームでは、前回述べたようなIoT化によって、人間の頭脳では処理しきれないほどの膨大なデータ、いわゆる「ビッグデータ」を収集するインフラや技術が発展し、一気に“近未来”へ近づいたといえる。中でも、データを反復的に学習し、パターンを見出す「機械学習」や、ビッグデータを分類するためのルールを人間の力を借りずに見つけ出す「ディープラーニング」の進歩は、AI実用化への動きに多大な貢献をもたらした。

 とはいえ、我々の日常生活レベルで考えると、AIはまだまだ満足するほど活用されておらず、本格的な実用化には至っていないのが現状だ。筆者が日本に一時帰国した際、ソフトバンクで“接客”していた「Pepper君」が、筆者の年齢を26歳と予測したことに鑑みると、個人的には彼の「世辞」を大いに褒めてやりたいところ、実用化の面においては、やはりまだ「学習」が必要な時期なのかもしれないと思うに至る。

 こうしてAI実用化に向けた動きが活発化していくと、必然的に湧き上がってくるのは、「AIは我々の仕事を奪うのではないか」という不安だ。

 野村総合研究所(NRI)は2015年12月に、英オックスフォード大学のマイケル A. オズボーン准教授と、カール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究により、日本国内の601種類の職業における「人工知能やロボット等で代替される確率」を試算したところ、10〜20年後には、日本の労働人口の約49%が就いている職業で、代替が可能であるという推計結果が得られたと発表した。

 代替されやすい職業には、医療事務員、販売員、銀行受付係、警備員、タクシー・路線バス運転者などがあり、一方、代替されにくい職業には、理学療法士、プロデューサー、小学校教員、日本語教師、ネイルアーティスト、テレビカメラマンなどが挙げられている。

同研究所は、これは「49%の職業が奪われる」ということではなく、あくまでも「代替可能性」を表したものとしているが、やはり「代替されやすい職業」には、機械がプログラム化しやすい比較的単純な作業の多い職業が目立つ。

 そんな「代替されやすい職業」に多く分類されているのが、製造業界の職業だ。NC研削盤工やメッキ工、自動車組立工、プラスチック製品成形工、金属プレス工など。ニッチ(隙間)産業だと言われていた父の元職業「金属研磨工」も入っている。ただ、このことは、現在どの業種よりも機械と身近に接している製造業界の中では、かなり前から何となく「覚悟済み」だったりすることであるゆえ、業界内にそれほど大きな動揺などはない。むしろ工場経営者などからは、AIの導入を急ぎたいとする声も聞こえてくるのだ。