活版印刷というと、なんだか「昔の技術」という印象がありませんか?実は、伝統的な活版印刷技術も進化を遂げているんです。

アメリカでは2000年代前半からレタープレス(活版印刷)スタジオが数多く設立されて、グラフィカルなデザインのグリーティングカードや名刺が販売され、活版印刷が再び見直されています。

そして東京・あきる野市にも、そんな活版印刷のスタジオがあります。2011年に市倉郁倫さんと淑子さんご夫婦が立ち上げた、名刺やポストカードをデザインから印刷まで一貫して手がける活版印刷ブランド「Bird Design Letterpress」です。

Madu & Bird Design Letterpressの2017年レタープレスカレンダー(写真提供:Bird Design)。

500年前からある
活版印刷

そもそも「活版印刷」は、15世紀にヨハネス・グーテンベルグが発明した印刷技術(世界史の授業で「ルネサンス時代の三大発明のひとつ」って習いましたよね)。

これが、文字が彫られているハンコ状の金属(活字)です。Bird Design Letterpressでは「正楷書体」という書体の鉛活字を使用しています。

その活字を組み合わせて文章にした板(組版)を作り、その組版にインクを塗って印刷します。

英語であればアルファベットの活字だけで事足りますが、日本語の場合は平仮名と漢字両方の活字を揃えなければなりません。

漢字の活字は、いろは順ではなく、このように部首ごとに分類されています。

活字と共に受け継がれてきたノートには、どの漢字がどの部首に分類されているかが書かれています。

ちなみに、普段私たちが目にする書籍やチラシなどの印刷物の大半は「オフセット印刷」。パソコンのデータを忠実に再現できるため、カラフルな印刷や写真の印刷にも適しており、この技術によって大量印刷が可能になりました。

このオフセット印刷や家庭用のインクジェットプリンタが普及したことで、一色ずつしか印刷できず手間も時間もかかる活版印刷の需要は、次第に少なくなっていきました。

では最近になって、なぜ再び活版印刷が注目を集めているのでしょう?

ハイブリッドな活版印刷
「樹脂凸版」とは

実は、先ほどの鉛活字を使った伝統的な活版印刷以外にも、もうひとつ別の素材を使った印刷方法があります。それは、パソコンで制作したデザインを照射した樹脂凸版を使う方法です。

今回は活字と樹脂凸版両方の素材を使って、実際に活版印刷を体験させてもらいました。まず、このようにパソコン上のデータから出力したネガフィルムを、

感光性樹脂凸版に乗せます。

約3分半紫外線を当てると、

印刷をするための樹脂凸版が出来上がります。このように切り取って使います。

活字と樹脂凸版を組み合わせて並べ、組版を作ります。さて、どんなふうに印刷されるのでしょうか?

その間に郁倫さんが、ワークショップで使用している「手キン」という手動活版印刷機に、インキを塗って準備してくれています。

印刷機に組版をはめます。

取っ手を両手で持って「ガチャコン」とプレスすると、一枚刷り上がりました!

英語の部分は鉛活字、シマウマのイラストは樹脂凸版で印刷されたメッセージカード。細い線もインキがかすれたりつぶれたりすることなく、綺麗に印刷されました。

ちなみに普段Bird Designで使用されているのは、先ほどの手動印刷機ではなく、この大きな「ハイデルベルグプラテン印刷機」という活版印刷機。最大約40トンもの印圧をかけられるため、活版印刷特有の凹みがより深くくっきりと出て、立体感のある印刷物に仕上がるのだそう。

また、現在日本に流通している樹脂凸版のほとんどは0.95mmのものですが、Bird Designではその1.5倍の1.52mmのディープレリーフ樹脂凸版を採用しています。適度な硬度と弾力性があるため、より深くて柔らかい凹みができるのだそう。

理想的な印刷物を作るために、様々な工夫がされているのです。

金属活字での活版印刷は、使用できる書体やサイズ、レイアウトに制限があります。一方、パソコンのデータから作成する樹脂凸版での活版印刷は、書体やサイズ、レイアウトの自由度が高く、イラストやロゴも入れることが可能なのです。

イラストレーター・安西水丸さんの作品集『ON THE TABLE』のオンライン特典として配布されている活版印刷のオリジナルポストカード。ブックレーベル〈Baci〉より出版(写真提供:Bird Design)。

ディープレリーフ樹脂凸版によって、細かいドットまで綺麗に印刷されています(写真提供:Bird Design)。

Bird DesignのHPにあるレイアウト例から選んで、注文できる活版印刷名刺(50枚 ¥6,480〜)。こちらはディープレリーフ樹脂凸版で印刷されたもの。自身でデザインしたデータを送ってオーダーすることも可能。

樹脂凸版を利用した活版印刷は、伝統技術とテクノロジーを融合した「ハイブリッドな活版印刷」なのです。こうした進化があったからこそ、また活版印刷に魅力を感じる人が増えてきているのでしょう。

豆本作家・赤井都さんとのコラボレーションでできた活版印刷の豆本。

9月には、活版印刷のメッセージカードが作れるワークショップを予定しているそう。詳細はホームページをチェックしてみてください。

「そっと豆本、ふわっと活版 6」

日時:2017年9月26日(火)〜10月2日(月)
会場:神保町いちのいち 神保町店
東京都千代田区神田神保町1-1三省堂書店内

Photo by 田野英知