L’Ultimo Uomo 戦術用語辞典 屮蓮璽侫好據璽后

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従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で高い評価を得ているイタリアの新世代WEBメディア『ウルティモ・ウオモ』の戦術用語辞典は、急速に進歩するモダンサッカーのキーワードを紹介するコーナーだ。そのパート,蓮屮蓮璽侫好據璽后廖最近ヨーロッパの戦術アナリストの間で注目されている「ハーフスペース」はドイツ発の専門用語で、サッカー先進国のイタリアですら対応する単語がない新しい概念である。とはいえ、コンセプト自体は複雑ではない。ポイントはピッチを横ではなく縦に5分割する発想だ。

文 エミリアーノ・バッタッツィ
翻訳 片野道郎

 
 どんな業界、どんな職業にも、外部の人にはわからない独特の専門用語が存在するものだ。サッカーの世界もその例外ではない。監督たちが使う多くのボキャブラリーは、一般の観客には理解しがたい。ほとんど「隠語」、すなわち部外者に内容を悟らせないと同時に内部の参加意識を強調する符牒(ふちょう)の一種だと考えた方がいい。

 「ハーフスペース」というコンセプトも、このグループに属する。イタリア語にはまだそれに対応する単語は存在していない。このコンセプトは、ドイツサッカー連盟の技術部門において研究され確立されたものだ。ドイツ語では「ハルブラウム」という言葉が使われるが、これは明確な定義を持つ幾何学用語であり、英語にするとハーフスペースとなる。

 以下で詳しく見るように、サッカー用語への転用に当たっても「ハルブラウム」はプレーの幾何学的な側面に関連して使われている。イタリア語の訳語は、何を強調したいかという戦術的な文脈に応じて、「スパツィオ・ディ・メッゾ」(中間スペース)、あるいは「コリドイオ・インテルノ」(内側のレーン)というふうに変わってくる。最も多く使われているのは「メッゾ・スパツィオ」(半スペース)という言葉だ。しかしどの訳語が正しいかという議論は、本質的なことではない。

 そもそも、コンセプトそのものはまったく複雑ではない。理解するのに宇宙物理学の学士号が必要なたぐいの言葉ではないということだ。信号待ちの車列、そうでなければ渋滞した道路を想像してみてほしい。あなたのスクーターが両側に並ぶ車の間をすり抜けて交差点に、あるいは目的地に早く到達するための隙間、それがハーフスペースだ。大都市においては、このハーフスペースを活用することによって節約できる時間が、渋滞の混み具合に左右される。例えばローマでは、ほとんどゼロという時すらある。同様にサッカーのビッグマッチにおいても、このスペースを支配することによって勝利の確率を大幅に高めることが可能になる。

幾何学
Geometria

 
 ポジショニングを考える時、通常私たちは水平方向の線でピッチを区切って考える傾向がある。DFライン、中盤のライン、攻撃のラインという具合だ。いわゆるシステムの表記もこの3区分が基本になっており、私たちはすっかりそれに慣れている。しかし、ピッチは横ではなく縦、水平方向だけではなく垂直方向に分割することもできる。両サイドのレーンと中央のレーン、そしてその中間にあるレーンだ。

 

サッカーのピッチを縦に5つに区切る。それぞれのレーンを1人のプレーヤーがカバーする
(出典『Spielverlagerung』)

 
 イタリアにおいてハーフスペースの概念は、コリドイオ・インテルノ(内側のレーン)として知られてきた。中央とサイドの間にあるからだ。しかし、なぜこのスペースの切り分け方がこれだけ重要なものと考えられているのか?

 その理由は、プレーヤーの視野に始まって幾何学の三角法(この論点については、ドイツの戦術ブログ『シュピールフェルラゲルング』の長い論考 [http://spielverlagerung.com/2014/09/16/the-half-spaces/] を読むことをお勧めする)に至るまで多岐にわたる。最も簡単かつ強引にまとめれば、サッカーでは中央のレーンを支配した者が勝つ、という一点に尽きる。

 それゆえ、今では中央のレーンではっきりとしたパスコースや数的優位を許してくれるようなチームは皆無だ。となると、その次善の選択肢としてハーフスペースが重要性を帯びてくる。今や中央のレーンよりもむしろこちらの方が好まれるほどだ。というのも、このレーンからも中央と変わらぬ効率をもってゴールに到達することができるからだ。

 どのように、という問いへの答えには、パスの方向について考えるだけで十分だ。縦パスを試みようとするプレーヤーは、かなりの確率でゴールまでの距離を稼ぐだろうが、相手の守備に圧力をかける頻度はそれよりずっと少ないだろう。横パスを試みれば、相手を動かすことはできるが、その秩序を乱すことはできない。

 だが斜め方向のパスを試みれば、その2つの効果を同時に得ることができる。斜めのパスは攻撃に奥行きを作り出し、同時に向かって来る相手とは逆方向の動きをボールに与える。さらに、パスを出す側も受ける側も相手ゴールに体を向けており、そうでなくともゴールを部分的に視野に収められる体勢を取っている。受け手がしばしばゴールに背を向ける縦パスはもちろん、横パスでもこの状況を作り出すことは難しい。

 ハーフスペースの活用は、最もゴールに近いが有効に活用するのが難しい中央のレーンに次ぐ「セカンドベスト」な選択肢だ。いや、今やこれが徐々にゴールに近づくため、すなわち試合に勝つためにはベストの選択肢になりつつある。

 それではなぜ、今まで誰もそれに気がつかなかったのか。どうして今になって急にハーフスペースは脚光を浴び始めたのだろうか。

スペースを作り出す
Creare spazio

 
 実際のところ、ハーフスペースは今までも常に存在してきた。ただ、我われがそれを見ることができなかったのだ。大きな注意が払われるようになったのは、ポジショナルプレーの概念が発達したことにも関連している。ハーフスペースのコンセプトを、スペインの偉大な戦術理論家ファンマ・リージョの一言に集約するとこうなる。「サッカーのプレーは、敵守備ラインの背後で優位性を作り出すことを目的とする」。

 

ハーフスペース占有の理想的な事例

 
 アタッキングサードでこのポジショナルな優位を作り出すためには、5つのレーンすべてに少なくとも1人が位置することが根本的な重要性を持つ。ここでもう一度ピッチの区分の仕方について考えてみよう。よく言われるのは、2ライン(中盤とDFライン)の間でフリーになった選手にパスを送ること。テレビで試合を見ているとこの状況は視覚的に簡単に認識できる。しかしそれ以上に重要なのは、横のスペース区分ではなく縦のそれ、すなわちハーフスペースでフリーになることだ。

 ここでやっと、ハーフスペースという呼称が使われる理由が見えてくる。そう呼ばれるのは、そこが誰のものでもない中間的なスペースだからだ。ハーフスペースでパスを受ける敵を誰がマークするか。CB、それともSB? 何らかの選択と決断を下さなければならないというのは、守備側にとってはそれだけで一つの問題だ。その選択がどちらであろうと、飛び出したDFの背後にはスペースが生まれ、それを利用してポジショナルな優位性を作り出すことが可能になる。

拡大解釈
Estensioni

 
 自陣におけるハーフスペースの優位性についても語ることができる。とりわけ顕著なのが後方からのビルドアップにおける活用だ。これは本来の概念の拡大解釈だが、プレスをかけてくる敵の守備ラインの背後にポジショナルな優位性、すなわち敵に困難な選択を強いるような新しいパスコースを作り出すというコンセプトそのものは変わらない。

 このテーマは、ビルドアップ時に内に絞ったポジションを取るSB、いわゆる偽インテリオール(イタリアでは偽SBと呼ばれる)についての議論にも発展していく。

 しかし、ハーフスペースはポジショナルプレーとだけ結び付いた概念ではない。つまり、ダビド・シルバやイニエスタのためだけにある代物ではないということだ。

 セリエAにおいては、おそらくナポリがハーフスペースの活用に最も長けたチームだろう。とりわけ、ハムシクとインシーニェが絡む左のカテーナ(SB、インサイドMF、ウイングが作る縦の三角形)の連動性が秀逸だ。EURO2016を戦ったコンテのイタリア代表も、ハーフスペースから裏を狙うために敵最終ラインを横に広げることを好んでいた。

 試合の中で起こるダイナミズムや戦術的な動きを説明するために使われるこのコンセプトは、サッカーにおける戦略の重要性を再認識させてくれる。極めてシンプルだが、深く掘り下げた研究を必要とするテーマなのだ。

 チェスにおいてもそうであるように、目的にたどり着くためにはピッチ全体を戦術的に捉えるビジョンが必要だ。この場合、それはピッチを横にではなく縦に区切ることから始まる。そうやって、中央に到達するためには一つ脇から攻め込むことが有効だという筋道が見えてくるのだ。その筋道を伝っても火星にはたどり着かないだろうが、敵のゴールにたどり着き勝利を手に入れることはできる。

『ウルティモ・ウオモ』戦術用語辞典を一挙公開!

パート 8月16日(水)公開:「ハーフスペース」
パート 8月17日(木)公開:「マンツーマンとゾーン」
パート 8月18日(金)公開:「トランジション」
パート 8月19日(土)公開:「スイーパー=キーパー」

Photo: Getty Images