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■もくじ

前編
ーライトウエイトファンタジー
ーBMW、過去の過ち ライバルとの戦い
ーいよいよエンジンを始動してみよう
ー乗り心地 運転のしやすさは?
ー気づけば鳥肌が立っている

後編
ーM3 CSL 乗りこんでみると……(8月17日公開予定)
ーM3 CSL 気になるところだらけ(8月17日公開予定)
ー強化は、なんのためなのか?(8月17日公開予定)
ーシャシーのカリスマ的魅力(8月17日公開予定)
ー3.0CSLとM3 CSL どっち?(8月17日公開予定)

ライトウエイトファンタジー

時の経過とともにこの道は田舎道となり、クルマがめっきり減った。待避所にクルマを止め、フロントガラス越しに漫然と道を眺めたが、木漏れ日を浴びるターマック以外何も見るものがなかった。

73年型「バットモービル」のキャビンで聞こえるのは、刻々と時を告げる時計の音だけだった。

遠くから低いエグゾーストノートが聞こえてきたかと思うと、あっという間に音が大きくなってきた。反対車線からM3 CSLが姿を現し、減速しながら近づいてきた。

ステアリングホイールを握っているのは、本誌のグレッグ・マックリーマンのようだ。連続したギアチェンジによってキビキビと区切られた6気筒エンジンの旋律に耳を傾けていると、日の光をガラス面にきらめかせながらシルバーグレーの個体が素早く目の前を通り過ぎ、旋回して止まった。ライトウエイトスポーツクーペが2台揃った瞬間だった。

E46のBMWが好みだと公言していたマックリーマンは、どうだと言わんばかりににやりと微笑む。2003年に製造され、英国市場に出荷された422台のM3 CSLの中の1台、限定番号161のBMWに私も以前に乗ったことがあるのを奴も知っているのだから得意げに微笑むのは無理もない。

しかし思い出に浸っている時間はない。M3の後継モデルはどうあるべきかが、今回のテーマだ。

優れた製造品質も重要だが、それよりも先祖にあたるモデルからどれほど良くなっているかが重要なのだ。他のモデルが不評だったがために、優秀に見えるのではだめ。1台のクルマが自立できるだけの実力を持ち合わせているかどうかが重要なのだ。

ホモロゲーションのためのスペシャルモデルである初代M3は、このクルマの熱烈な信奉者にとって触れてはならない神聖な存在であったし、いまでもそうだ。

しかし、すべての自動車メーカーと同じように、BMWも、性能を明確に改善しながら、利益拡大のためにM3の魅力を増幅しようとした。

BMW、過去の過ち ライバルとの戦い

実はそんなクルマが誕生しそうな兆しはそれ以前からあった。コンバーチブルのE30 M3が代表的な例だ。美しいシャシーがソフトトップという虚栄のために台無しになった代表といえるだろうが、売れ行きは良かった。また325i Sportの滑らかさを好む顧客もいた。

1992年型のE36 M3は気筒を2つ増やし、より洗練されたクルマになった。オリジナルよりパワフルだが運転のしやすいクルマでもあった。

だが、ボディがより大きく重いため、焦点がぼけ、路面との繋がりが希薄などこか妥協したクルマになってしまった。またパワーステアリングの採用によって官能的なマニュアルステアリングの良さも失われた。

BMWブランドオーナーの人口統計データや市場浸透度、カスタマークリニックのデータに基づいて開発されたため、E30のレースに勝利するという意気込みも失ってしまったのだった。

E36は、旧モデルの理想を裏切ったモデルという不評をぬぐい去ることは絶対にできないだろう。

1995年に加速性能強化のための軽量化や、クルマとドライバーの繋がりを強めるための大幅モデルチェンジが施されたが、オリジナルの、ひとを魅了する魂とフィーリングは欠けたままだった。

1994年にアウディがターボ装備のパワフルな320psのエンジンを搭載したRS2を発表し、またメルセデス・ベンツも加速に優れた190シリーズの後継モデルとして280psのC36 AMGを投入。

ドイツで高性能4シーターのせめぎ合いが起ころうとしていた時期だけに、BMWのこの有様は強く懸念された。また、WRCホモロゲーションのためのターボ搭載4輪駆動車を登場させることによって、極東からの圧力も強まりつつあった。

いよいよエンジンを始動してみよう

2代目M3の弱点の多くに対処したE46 M3が2000年に登場した際にも、高性能ロードカーとしてイメージは揺るがず、妥協を認めないひとびとはオリジナルのM3こそがM3だと主張した。

E46 M3のモデルとしてのライフサイクルが終わる前の2003年に、当時のBMW GmbHの副社長ゲルハルト・リヒターが、サーキット走行を見据えて軽量化したM3 CSLを発表した。

CSLにはE9のようなフロントウィングベントが装備され、価格もパワーも途方もなかったが、不要な装備をすべて取り去り、もうひとつのドイツ車メーカー、ポルシェの911との対決に備え、誇らしげにM3のエンブレムを頂いていた。当時のメディアはこれには驚き、このときばかりはオリジナルのM3に触れなかった。

エンジンを始動して少しすると、おどろおどろしいアイドリングに落ち着く。

華麗なエアロパーツを装備した排気量3153ccの「バットモービル」は、レーシングバージョンのM30エンジンの排気量拡大のためにストロークを84mmに拡大したエンジンを搭載し、ホモロゲーションを受けた。

艶やかなウッドでトリムされたインテリアで普通のE9クーペと違うのは、シールの快適なローバックバケットシートを装備していることだ。後方の視界は巨大なウイングによって遮られる。またストライプはフロントウィングにも施されている。

ヨッヘン・ニーアパッシュとマルチン・ブラウンガルトが開発したドラッグ低減と安定性強化のための「バットモービル」用ボディキットは、当時ドイツでは違法であったため、ショールームではバッグに入れてトランクに収められていた。

まるで薪を割る斧のようなこのボディキットのために、評論家の意見は真っぷたつに分かれたが、CSLという魔法の3文字を目にしたときに最初に頭に浮かぶのは、この巨大な翼を付けたライトウエイトバージョンのM3だ。

ハンス・スタックがプフランツガルテンを最高速で走り抜けてGP5に輝いたのも、このM3である。

乗り心地 運転のしやすさは?

「バットモービル」は事実上、アルピナに刺激されて開発が開始されたキャブレター装備のCSLのストロークを拡大し、巨大スポイラーを装備した最終形となった。

1972年のホモロゲーションに用いられたオリジナルのE9は、BMWモータースポーツGmbHの初期にニーアパッシュの指導の下で開発され、ウィルヘルム・ホムマイスターの新たな6気筒CSデザインによって強化されていた。

この最終進化形のバットモービルは、ヨーロッパツーリングカー選手権の宿敵、フォード・カプリRS3100に勝利するというたったひとつの目的のために、優雅さをすべて犠牲にして即戦力を強化したモデルだったのだ。

とても運転しやすいクルマだ。乗り心地はしなやかで、ドライビングポジションも極上。

明確なZFゲマーのステアリングボックスも適度な重さであるし(ただし下位のE9よりは高ギア)、4速のギアボックスはかなりなめらかで、ドライバーの心構えができていなくても排気量3153ccの筋肉質なボッシュのフューエルインジェクション式6気筒エンジンは3速で突っ走ろうとする。

エンジンはどうだろう?

「気づけば鳥肌が立っている」

3000rpm以下だと、シングルカムのM30エンジンは聴き心地のいいヴォーカルのように心地よいエグゾーストサウンドを響かせる。回転数を高めるとピッチや強烈さ、気質が変化する。タコメーターの針が急回転すると、心の浮き立つような轟音に切り替わり、気づけば鳥肌が立っている。

4200rpmで29.1kg-mのピークトルクに達し、5600rpmで209psの最大出力を発生する。6400rpmまで回転を高めても、息切れすることはない。

バットモービルは、エンジンが強大すぎるとは絶対に感じさせない。

アンチロールバーを使用せず、より高級なスプリングとガスダンパーを利用し、25%ののロッキングLSDを装備したシャシーは、ややロールし、そのプロセスでステアリングが若干重くなるが、郊外のA級路を法定速度で走る限りでは、滑らかに走り、最小限の慣性で手際よくコーナリングしてくれる。

直進安定性は揺るぎなく、全幅の信頼を寄せることができる。ステアリングのやや鈍いような軽さが直進時のマナーをやや損ねているが、それもコーナーに入れば消える。

リアが予想した通りに穏やかに動いてくれるため、オーバーステアを思いのままに抑えられる。オルガン式アクセルペダルを軽くつつくだけで、M30のミドルレンジの強烈なパワーをうまく逃して、195/70R14タイヤを簡単に使いこなせる。

バットモービルから降り、M3 CSLに向かった。

(後編につづく)