なぜ社会階層の上昇移動は、一部の人々の下降移動を意味するのか

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著:Geoff Payne(ニューカッスル大学 Associate Researcher)

 社会的移動に関して、英国政府は過去20年間に亘って問題に立ち向かうことが出来なかった、と結論付ける手厳しい報告があった。しかし、この分析をおこなった社会的移動委員会(以下、SMC)もこの問題に立ち向かえていない。過去20年間の考察のほとんどが実際には社会的移動についてなされていないのだ。

 これは驚くことではない。2012年に設置されて以来SMCは、「移動すること」の本質である、人々が自分の生まれ育った社会階層を抜け出し上昇移動する機会についてよりも、社会的不平等一般についてを主な関心としてきた。社会的移動は通常、低所得家庭がその社会階層を抜け出すことを意味する。そのような上昇移動が多く生じるほど、社会的移動に関して“より良い”状態であると言えるのだ。

 SMCの委員長であるアラン・ミルバーン氏によると、

 “社会的移動性が高いことは私達の暮らすような近代の資本主義経済がより良いもの、より公平なもの、より共生な社会を作りだすことが出来るということを証明する結集点であるかもしれない”

 この視点に立つと、社会的移動性はそれ自体が中心的課題というよりも、象徴的な重要性を持つ。もちろん“より良い、より公平な、より共生な社会“の状態に向けて取り組むのに悪いことはないし、SMCは政府の政策が社会の不平等問題に立ち向かうことに失敗したということを文書化する価値のある作業をおこなった。しかし、社会的移動性が向上したかどうかという、本当に問われなければいけない質問はSMCの報告の中では答えられていない。

 この最新の報告、「変革の時」は、1997年からの経済環境の変化を説明することから始まり、国内総生産(GDP)、雇用率、収入、公的支出や住宅供給について考察する。この報告には説明されていないが、社会的移動が生じる条件は常に変動していることを私達に気づかせてくれる。

 人々の生まれ育った家庭の所属する社会階層と大人になってからの社会階層への移動性(そして彼らの変化による利益と不利益)を計測するためには、それぞれの社会階層の社会に占める割合の変化をも考慮する必要があるのだ。この報告によると、

  “20年前は、専門職よりもより多くの肉体労働が存在した。現在では、その逆が現実である。【…】現在では、500万人近い人々が自営業を営み、150万人以上の人が短期契約の仕事に就き、約100万人もの人がゼロ時間契約(週当たりの労働時間数が保証されず、就労時間に応じて給与をもらう勤務形態)に就いているのだ”

 社会的移動性は社会階層(経済学的には収入の百分位数)で計測される。人々の社会階層を決定するために職業が使われるので、どんな職業が選択できるかということは社会的移動性を理解する上で中心的要因になるのだ。

 例えば、シニアマネージャーと専門職という職種を選択するとして、現在この職種の仕事は多く必要とされており、この階層の雇用の機会を作りだしている。1997年には働く男性の16%、働く女性の5%しかこの職種につけなかったが、現在では男性20%、女性12%にも及ぶ。

 しかし、このような“職業上の人口推移”は、労働者階級出身のより多くの人が自動的に上位に移動しているということを意味しない。このような新しい機会は、既に上流階級にいる家庭の子ども達によっても取り上げられているのだ。

 更に、中流階級が拡大し、中流階級の家庭の子ども達もこのような就業機会を求めている。中流階級の人達が新たな職種に占める割合を拡大し比較的うまくやっているとしても、更に“社会的移動に関する不安”は拡大しているのだ。つまり、移動に関する競争が激化しているのだ。

◆誰が上昇移動するのか
 専門職の選択肢が増え続けない限り、労働者階級の子ども達の上昇移動どころか、全ての中流階級の子ども達に割り当てるだけの仕事はない。また、専門職の選択肢があまり増えなかったとしたら、より多くの中流階級の子ども達は下降移動をせざるをえないだろう。

 社会的変動性に関する政治的議論はこの議論の都合の悪い要素を無視しがちである。しかし、この要素は避けられるべきではない。上方向の社会的移動性を高く保つことは、下降移動とも均衡を保たなければいけないということを意味するのだ。もし、私達が本当に社会的変動について関心を持つのであれば、この事実はSMC報告の一般的な社会的不平等への焦点(これもとても重要ではあるが)よりもより注目されるべきであろう。

 “変革の時”の章題である“幼少期”“学生期”“青年期”はその馬脚を現している。これらの章の中で、社会的変動によく関係のありそうな不平等や不平について触れている。しかし、最後の“働く人々”という章では社会的移動自体についてではなく、主に低賃金や技能の低さについて扱われている。

 今日の大人の4分の3以上が彼らの両親とは異なる社会階層にいることを一連の研究が一貫して示していることはどこにも述べられていない。確かに、このような社会階層の移動のほとんどは上昇方向のものではない。しかし、全てが上昇方向のものになることは出来ないのだ。そして、現在の政府の政策が、どのようにしてこれまでの20年間よりも多くの上昇移動を将来に生みだすのか、見てとることは難しい。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac