ヴォルフスブルクでスカウト部長を務めるピエール・リトバルスキー氏【写真:編集部】

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名前とお金でクラブを決めるな―リトバルスキー氏、「韓国の神童」に見る問題点とは?

 欧州サッカー界では若き才能の青田買いが進んでいる。国際サッカー連盟(FIFA)は未成年の国際移籍を規制しているが、各国クラブは若年層のスカウティングを強化。同リーグ間における若きタレントの移籍や引き抜きは増え、若年化も進んでおり、移籍金も高騰の一途を辿っている。

 一方で、日本人でも海外で高い評価を得ている神童がいる。スペインリーグ、レアル・マドリードの下部組織「カデーテB(U-15)」に新シーズンから昇格する「ピピ」こと中井卓大、バルセロナの下部組織で活躍していたU-17日本代表FW久保建英(FC東京U-18)は、すでに海外メディアから大きな注目を浴びている。

 名門クラブの下部組織でプレーし、やがてトップチームへ――。ファンにとっては夢が膨らむ話に思えるが、ドイツ・ブンデスリーガのヴォルフスブルクでスカウト部長を務めるピエール・リトバルスキー氏に話を聞くと、世界中の若き才能がクラブ名で進路を決めるリスクを説いた。
 
「若い選手が海外に行く。すごく勇気のいることです。19歳になった選手が海外に行く。そんなに簡単なことではありませんが、大きなチャンスでもあります。それでもリスクは否定できません。バルセロナの下部組織でプレーしていたイ・スンウ(韓国)がいい例です」

 U-20ワールドカップ(W杯)で韓国代表としてプレーしていたイ・スンウだが、現地でスカウティングしたリトバルスキー氏は厳しい視線を送っている。

「イよりいい選手がたくさん台頭」…大事なのは今ハッピーになることではない

「ビッグクラブの下部組織に所属し、彼のことは以前から見ています。ちょっとしたスーパースターのようなプレーをしていましたが、現在はキャリアで苦しみの時期と言えるかもしれません。テクニックは素晴らしい。しかし、ゴールに絡む決定的な推進力には欠けていました。彼自身も向上していますが、相対的な問題が彼の前に横たわっています。正直、同じような年代で彼よりもいい選手がたくさん台頭しているのです」

 バルセロナが未成年の外国人選手の移籍に関してFIFAの規定に抵触したため、イ・スンウは19歳まで公式戦でプレーすることができなかった。昨季はバルセロナの「フベニールA(U-19)」に所属したが、期待通りの活躍はできず。来季、バルセロナBでプレーできる保証もないため、ドルトムントなどに移籍する可能性が浮上している。

 リトバルスキー氏は現役時代、西ドイツ代表の一員として1990年イタリアW杯優勝に貢献し、ジェフユナイテッド市原(現・千葉)でもプレー。現役引退後もJ2横浜FCなどで監督経験を持つなど、親日家でもある。そんな元天才ドリブラーは、育成年代の才能豊かな子供たちに進路選択の重要性を説いている。

「クラブ選びは本当に大事になります。お金のことや、ただ単に海外でプレーするということではありません。欧州で自分のキャリアをどう描きたいかを考えます。今現在ハッピーになるではない。成長することです。試合で出番がないのに、メガクラブに移籍することはやめたほうがいいでしょう」

 目先の金銭などに心を動かされるのではなく、どんな成長曲線を描きたいのか、イメージすることが大事になると力説。リトバルスキー氏がスカウティング責任者を務めるヴォルフスブルクでも、若手選手に関する重要な方向転換があったという。

練習だけでは成長できない…「クボもバルサで出番を手にできるとは考えづらい」

「我々はセカンドチームの戦略を変更しました。若い選手の試合での出場時間が減っています。チームには25選手いる。一番いい選手から16番目までは試合でプレーするチャンスもありますが、それ以外の子供たちはプレーできません。トップチームから試合に出られない選手が流れてくれば、もっと出場時間は減ってしまいます。若い子供は試合でプレーすることが大事です。バルセロナやレアル・マドリードに行けば、誰もがハッピーかもしれませんが、練習だけでは成長できないのです」

 リトバルスキー氏はこう主張している。チーム名でクラブを選ぶことには成長を損なうリスクも存在するのだという。

「チームで出番がなければ、試合勘や試合におけるスピードというものを失うことになる。そうなると、本当に難しい。イ・スンウにもドルトムント移籍の噂がありますが、残念ながらドルトムントもビッグクラブです。彼はプレータイムを手にすることはできないかもしれません。シャルケもそうです。彼にも経験があるので、生き延びる可能性も多少あるかもしれませんが……」

 韓国のスター候補の将来を憂いたリトバルスキー氏だが、18歳でバルセロナ復帰の可能性が報じられている久保についても、慎重な選択を求めている。

 久保はバルセロナの下部組織でプレーしていたが、2015年1月にある重大な決断を下している。クラブに対するFIFAからのペナルティにより18歳まで公式戦出場を禁じられた久保は帰国し、実戦でプレーを磨くという選択をした。公式戦に出られないと承知しながらも、バルサに留まったイ・スンウとは180度異なる道を歩んだのだった。

「クボもバルセロナに戻ることになるのでしょうが、すぐに決断を迫られるでしょう。普通に考えれば、彼のポジションでバルセロナのファーストチームで出番を手にできることは考えづらい。いったん、バルセロナに戻って、他のチームに期限付き移籍することになる可能性が高いと思います。若い選手は試合に出ることが何よりも大事なのです」

 ブランドやお金で進路を選んではいけない。公式戦で出場機会を手にすることが、その後の成長に最も重要であると、リトバルスキー氏はサッカー界の若き才能に提言した。