夏休みの練習では、普段できない遊び要素を多く取り入れたトレーニングをするなどの工夫が必要だ【写真:photolibrary】

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【連載コラム】ドイツ在住日本人コーチの「サッカーと子育て論」――日独で異なる夏休みの風景

 ツイッターやFacebookなどSNSを見ていると、こんなポストが次から次へと流れてくる。

「夏は追い込み期だ!」

「夏合宿で3部練習、頑張りました!」

「暑いなか、朝から晩まで練習試合を頑張りました!」

 やり抜いたことを指導者や保護者が絶賛し、子どもたちも誇らしげだ。日本では毎年恒例の画なのだろう。でも、僕にはどこか違和感がある。

 パソコンを前に腕組みをして「うーん」と首をかしげていると、9歳の長男が「どうしたの?」と聞いてきた。「日本の子は夏にいっぱい練習するんだよね」という話をしたら、びっくりして声を出した。

「え? それって、もう“休み”じゃないじゃない! なんでそんなことするの? 体をちゃんと休ませないと疲れ取れないし、それだと怪我とかもしちゃう」

 彼の驚きはもっともだ。なぜなら、ドイツでは夏休みにサッカーの練習も試合もしないからだ。そして、日本でお馴染みの宿題もない。

 理由はシンプルだ。夏休みは「休み」だからだ。僕が指導するU-15チームも、7月下旬から8月23日まで完全オフ。僕としても休みがあると、指導者としてインプットする時間も取りやすい。

ストレスからの回復能力には“個人差”がある

 7月下旬にドイツサッカー連盟(DFB)とドイツプロコーチ協会(BDFL)共催の国際コーチ会議に参加してきた。スポーツ学・心理学の大学教授やDFB専任指導者による講義・トレーニングデモンストレーションが行われるなか、ボーフム大学の心理学者ケルマン教授の講演が興味深かった。

「ストレスと休息のバランスに気をつけなければならない。選手に高い要求を課すこと自体は悪いことではない。ただし、心身の疲労を回復できる休息プロセスが準備されている限りにおいて、だ。

 ストレスや負荷が増えれば増えるほど、回復するための時間が求められる。しかし、トレーニングに関わる時間が増えれば増えるほど、休息に取れる時間は少なくなってきてしまう。するとストレスコントロールの機能が働かなくなり、心身のバランスがどんどん崩れていく。最終的には、これがバーンアウト(燃え尽き症候群)へと結びいてしまうのだ」

 忘れてはならない点として挙げられるのは、ストレスキャパシティ、ストレス耐性、ストレスからの回復能力には“個人差”があることだ。「あいつはやり遂げたぞ!」「俺が子どもの頃には……」が、万人に当てはまるわけではない。

家族や友だちとの時間が成長には欠かせない

 ケルマン教授は「夏休みを取ることは必須だ。休みを取ることがシーズンに向けての準備の一つ。日常生活のなかで知らずとストレスが積み重なっている。ストレスと向き合える環境が大切で、心身のコンディションコントロールに気を配るべきだ」と対策を挙げていた。選手、指導者、親と、みんなにとって大切なことではないだろうか。

 ドイツでの指導現場に立ち続けている僕は、夏休み明け最初の練習で会う子どもたちの、身体的だけではなく、精神的にも成熟した姿をたくさん見ている。夏休みに家族や友だちといっぱい遊んで、自分だけの時間を持てることが彼らの成長には欠かせない。

 せっかくの夏休み。練習をするにしても、普段できない遊び要素を多く取り入れたトレーニングをするなどの工夫がほしいし、サッカーの練習だけではなく、みんなで山登りや川遊び、キャンプファイヤーなど、いろんな体験をしてもらいたい。

中野吉之伴●文 text by Kichinosuke Nakamura

◇中野吉之伴(なかの・きちのすけ)

1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA?Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。