金正恩氏

北朝鮮が、米国領のグアム島周辺に向けて弾道ミサイルを発射する計画を検討していると明らかにしたことをきっかけに、米朝双方が過激な舌戦を繰り広げている。こうした中、北朝鮮の軍需工場が意外な外貨稼ぎに参入しているという。

軍紀の乱れ「性上納」

北朝鮮官営メディアはミサイル発射計画を報道するだけでなく、12日には全国で大学生や女性を含む347万5千人が北朝鮮軍への入隊を嘆願したと報道した。北朝鮮は緊張状態に入る度に、臨戦態勢を過剰演出する傾向にあり、万が一報道が事実だったとしても、北朝鮮の本気度が高まっているとはいえない。

そもそも、北朝鮮では社会全体の食糧事情が好転しているにもかかわらず、軍だけがこの波から取り残されている。

末端兵士の栄養失調も珍しくなく、劣化ぶりばかりが伝わってくる。食糧事情のみならず、軍隊内では人事などを巡ってワイロが乱れ飛び、女性兵士に対しては「マダラス」と呼ばれる性上納の強要が横行するなど、軍紀の乱れも甚だしい。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

しかし、核・ミサイルをはじめとする兵器を開発し製造する軍需工場だけは物品の供給や従業員の福利厚生において他を圧倒していた。金正恩党委員長は、野戦軍を強化することよりも核・ミサイルなどの大量破壊兵器や新兵器を開発することに余念がないようだ。

しかし、それも終わりを告げようとしているようだ。米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)の咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋が、軍需工場が外貨稼ぎに積極的に乗り出したと伝えてきた。

情報筋によると、軍需産業を司る第2経済委員会傘下の6局6号事業所。富潤(プユン)軍需品工場とも呼ばれるこの工場に、最近「外貨を稼げ」との指示が下された。

富潤軍需品工場工場が外貨を稼ぐために目を付けたのが「イカ」。まず、新岩(シナム)区域の新津(シンジン)港に、317基地という名称の漁業基地を設立。大慌てで確保した200馬力の大型漁船3隻に、22馬力、32馬力、40馬力などの小型漁船からなる大船団を率いて、大々的なイカ漁に乗り出したという。

年間ノルマは1隻あたり2000ドル(約22万円)。船団全体では50万ドル(約5490万円)に達する。

船団は100海里(185.2キロ)も離れた公海上で、1ヶ月間イカを獲り続ける。頻繁に戻らないのにはわけがある。

北朝鮮では、漁船が出港するためには毎回証明書や出港許可証が必要になる。頻繁に港に戻れば、そのたびに海岸警備哨所などにワイロを納めなくてはならず、出費がかさんでしまうのだ。

また、最近では北朝鮮の市場経済を牽引する女性たちが、漁に出て日本海で荒稼ぎしている。こうした手強い競争相手とやり合うためにも少々の無理をせざるをえないようだ。

このような外貨稼ぎの命令は、他の軍需工場にも下されたようで、清津(チョンジン)の沖は軍需工場所属の漁船でいっぱいだという。

今まで武器の生産に専念していた軍需工場に外貨稼ぎが命じられたことについて地域住民の間では、軍需品の生産が落ち込んだせいなのか、深刻な外貨不足に陥ったせいなのかなど、様々な憶測が飛び交っている。

いずれにせよ軍需工場の外貨稼ぎはうまくいかない可能性が高い。国連安全保障理事会が全会一致で採択した制裁決議2371号には、海産物の輸出の禁止が含まれている。仮に獲れたイカを国内向けに回しても大した儲けにはならない。中国への密輸という手があるが、これも経済制裁下では限界がある。

金正恩氏の兵器開発部隊の努力は水の泡に終わるだろう。