ユニクロの店舗で1年以上も働き、ルポを『週刊文春』に連載した横田増生氏(52)。ジャーナリストとして初めて福島第一原発の作業員となり、『ヤクザと原発』(文春文庫)を上梓した鈴木智彦氏(51)。初対面対談の第1回は、「我々はなぜ、潜入取材に挑むのか」。その意義と醍醐味を語る。

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真夏にもかかわらずユニクロの秋物新品を着る横田氏(左)と、原発潜入時の作業着姿の鈴木氏(右)

きっかけは柳井さんからの招待状

鈴木 横田さんはいま、俺たち同業者が一番妬いている存在。

横田 そんなことないでしょう。

鈴木 いや、大方そうです。新宿のビックロでアルバイトとして働きながら、長時間労働やパワハラを実体験として報じたんですからね。みんな妬いているけど、自分にはできないから「はぁ〜」ってため息つくしかない。


連載をまとめた電子書籍『ユニクロ潜入一年』。秋には再構成した新刊を上梓する。

横田 柳井正社長が雑誌のインタビューで、「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」と語っていたんです。そのあと、オープンであるはずの決算発表会見に出ようとしたら、僕だけ拒否されたんですよ。それは理不尽だし、取材を断われば黙って引き下がると思わせるのも癪だし、「そういえば、柳井さんから招待状をもらってたな」と(笑)。

鈴木 なめんなよ、ってことですよね。驚嘆するのはそこからです。普通だったらそこで止めるのに、採算度外視で内部へ入って行ったことに拍手喝さい。

横田 ありがとうございます。1年2カ月は長かったけど、『週刊文春』が10週も連載させてくれたのと、電通の過労死や働き方改革が問題になったタイミングもよかったです。鈴木さんが福島第一原発で働いたのは、事故の直後でしたね。

原発はとにかくでかかった

鈴木 2011年の7月からひと月ちょっとでした。俺はもともと、暴力団ばかり書いているライターなんです。原発の潜入取材は、作業員の手配が暴力団の大きなシノギになっていると聞いたのと、暴力団と原発には誰もが嫌がる危険な取材先という共通点があるから。いろいろ伝手を頼って、取材を前提に5次請け業者に雇ってもらいました。仕事は主に、汚染水処理タンクの設置作業や掃除でした。


鈴木氏の潜入時の写真 ©鈴木智彦

横田 実際に働いてみて、一番わかったことは何ですか?

鈴木 原発がでかいことです。建屋の下へ行って見上げてみないと、あのでかさはわからない。もう科学的な根拠なしに、「これが壊れたら、ちょっと無理だよな」って本能的に感じさせるでかさです。

横田 映像は誰もが見てますけど、自分の目で見ないとわからないんですね。行ってみるというのは取材の初歩だけれども、やはり強い。

鈴木 潜入ルポって、読者にとっては疑似体験できる面白さがあるんだと思うんですよ。旅行記や紀行文みたいなもの。つまり横田さんの目になって、読んだ人がユニクロで働くのと同じ。

横田 そうですね。

鈴木 潜入取材には手間がかかりますけど、自分が経験するわけだから裏取りするまでもなくわかる、という言い方もできますよね。証言者から話を聞いて伝聞で書いていくより、一日働いてみたら一発でわかります。短期間の潜入だからにわかエキスパートですけど、当事者としてつかんだ知識は強いし、意図して取ろうと思っても取れない証言が得られます。

放射線よりパワハラが怖かった

横田 『ヤクザと原発』を読ませてもらって、偉そうなことを言っている政治家や研究者は絶対20キロ圏内に入ってこないとか、放射線を浴びるより熱中症で倒れたり交通事故のほうが作業員にとって危険だとか、確かに外から取材しているだけではわからない。見た人間にしか書けない面白さがあります。放射線の話も数字を言われたってよくわからないけど、被ばくした場合に備えて造血幹細胞を事前に採取しておくといった話になると、怖さが伝わりますよね。一番ヤバいと思ったのは、やっぱり放射線ですか?

鈴木 あの当時は自分だけでなく、社会全体のテンションがおかしかったじゃないですか。だからもう、恐怖はなかったんです。造血幹細胞を取るのも、正直に言うとネタだと思ってるんですよ。おっかなくて取りに行ったんじゃないけど、そう言うと不謹慎だから。


熱中症対策に着用していたクールベスト ©鈴木智彦

横田 そうすると、あまり怖いことはなかった?

鈴木 サラリーマン経験が少ないもので、上の人からギャンギャン言われるのがすごく怖かったです(笑)。パワハラって、しんどいものですね。サラリーマンは、これを耐えてるのかと思って。

横田 僕はユニクロの前にAmazonとヤマト運輸で潜入取材をしましたけど、作業系の現場にパワハラはつきものです。「何やってんだ、お前。なんでわからないんだよ」って怒られるけど、「だってそんな説明、受けてへんやん」みたいな感じ。

鈴木 わかります。理不尽に怒鳴るんですよね。

横田 でも言い返さないほうが面白いから、じっと我慢。

鈴木 あとで全部ネタに昇華してやる、と思うから耐えられるけど、ここで一生働いてたらメンタルが壊れるんじゃないかと思うくらい言葉の暴力がつらかった。

原発の最前線にいた強み

横田 潜入ルポは結局、自分の体験だから強いですよね。原発内の作業が終わるまでトイレに行けない決まりだから、鈴木さんが初仕事の日に失禁してしまう話とか(笑)。


©鈴木智彦

鈴木 やっぱり一人称のほうが面白いですもんね。

横田 そうですね。私が見た、こうした、こう思った、というところが無理なく書けるから、リアリティーが違うんです。初めてAmazonに潜入取材して本を書いたときは特にそういう考えはなかったけれども、いまは自覚的になりました。

鈴木 自分は実話誌の出身です。真っ当なジャーナリズムではない、割り切った娯楽誌で書いてきた人間が、日本の危機に直面したとき、一流を自称してるジャーナリストや新聞記者よりダーンと前に行ったら爽快だよな、という思いはずっとあった。要するに「大マスコミは現場主義と言っているけど、原発の一番の現場にいたのは俺だよね」と出し抜きたかったんです。編集者から自分で言わないほうがいいとアドバイスもらっていたし、言わぬが花と思ったんで、黙ってましたけど(笑)。

横田 僕は物流の業界紙にいました。広告を出すのは日通などの物流企業で、取材相手も日通、購読者も日通ですから、悪いことなんかひと言も書けないし、ほとんど誰も読んでくれない。だけれどもその縁があって、Amazonやヤマトを書くことになったんです。鈴木さんの場合は、やくざがきっかけで原発の潜入につながっているのは面白いですね。

鈴木 やくざという題材から、あらゆるジャンルに派生していけると気付いたのはあります。日陰から、必ず日向に行ける。

横田 大きなメディアはやりませんからね。

鈴木 それがフリーの強みです。原発へ行きたいと思っている記者はいっぱいいたけど、作業員として潜り込んで働くなんてことは、社員の記者にはどうしたってできないですよね、会社を辞めない限り。

横田 しかもそれをやらせてくれるのは、雑誌だけです。表現することに関しては雑誌が一番、自由度が高い。

日常のエアポケットに潜入する

鈴木 自分のやっていることが超スタンドプレーで、みんなが「ウワッ」と驚くところへ行く面白さを求めているのは自覚してるんです。でもそういう目立つ場所だけじゃなくて、日常の中にもエアポケットがいっぱいありますよね。どこの街にもあるユニクロだって、中に入れば異世界なわけでしょう。

横田 そうなんですよ。社内で回覧される「部長会議ニュース」で、柳井社長のコメントとして「われわれは情報産業になろうとしてますから、情報の漏えいがあってはなりません。社員はもとより、下請けや関係会社の方もご注意願います」みたいなことが書いてあるわけです。

鈴木 外へ情報が漏れないようになっている。

横田 一種の脅しなんでしょうね。そんな情報統制が利いている企業へは、やっぱり潜入するのがひとつの手段になります。鈴木さんの本にも、東電が強いからしゃべったら怖いみたいな話が出てくるじゃないですか。潜入ルポは、そういった壁を突破できる。


 

クビになるのも面白い

鈴木 『週刊文春』の連載は、働き始める前に「取材の成果が上がったら記事にする」という約束があったんですよね?

横田 単行本にすることを前提に、3〜4回の予定でスタートしたんです。3つの店舗で働いたんですが、3店目の新宿ビックロがネタ的においしかった(笑)。圧倒的な人手不足で長時間労働あり、サービス残業あり、パワハラもあり。連載を始めたら情報提供がたくさんあって、結果的に10回に延びました。

鈴木 働いている最中に連載を始めたわけでしょう。どうオチがつくか楽しみでしたよ。

横田 どうやってクビになるのかも、面白いと思ってたんです。連載1回目の載った『週刊文春』が木曜に発売になって、何も連絡がないまま、翌々日の土曜が出勤日でした。出社すると本部の人事部長が待っていて、「退職する意思はないんでしょうか?」と聞くんです。「ありません」「では、解雇通知をさせていただきます」アルバイト就業規則に抵触しているというんですけど、理由は「記事を書いたこと自体がダメ。当社の信用を著しく傷つけた」というだけなんです。

鈴木 揚げ足を取られたくないから、具体的な理由を話さないんですか。


 

横田 いや、クビを告げる以外の権限を与えられてないんでしょう。トップがムカついたから「クビを切れ」ということで、彼は下命を受けてきただけでしょうからね。

鈴木 なるほど。辞めるところまで、物語として完成度が高いです。大きな企業って、人の入れ替わりが激しいですよね。一定人数の新しい人間が入ってくるのに、マスコミが潜り込んでくる事態を想定してなかったんですね。

横田 僕が言い渡されたのは、諭旨解雇でした。懲戒解雇というのはこっちに落ち度があるからクビになるわけですが、諭旨解雇はそうではなく、話し合いによって自主退職とほとんど変わらない形で辞める。何が言いたいかというと、ユニクロは僕を懲戒解雇にできへんかったわけです。この潜入ルポが単行本になったときユニクロが訴えてくるかもしれませんが、提訴の理由が弱くなりますよね。名誉毀損なりの理由をつけるなら、記事のどこがダメなのか具体的に挙げた上で、懲戒解雇にしておかなあかんかったわけです。

鈴木 ああ、提訴との整合性が取れなくなるわけですか。

横田 そうそう。「悪いことをしたとおっしゃるけど、僕は懲戒解雇になってないじゃないですか」と反論できる。

鈴木 怖いなぁ、ジャーナリストって(笑)。

ユニクロ×原発 潜入ジャーナリスト対談#2「僕らの潜入取材の方法と掟」につづく

構成=石井謙一郎 写真=白澤正/文藝春秋

よこた・ますお/1965年福岡県生まれ。ジャーナリスト。著書に『ユニクロ帝国の光と影』『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』など。ユニクロの店舗で一年働き、長時間勤務の実態やパワハラの存在を報じた「週刊文春」の連載が話題になる(電子書籍『ユニクロ潜入一年』として発売中)。10月に連載をもとに大幅加筆した新刊を発売予定。

すずき・ともひこ/1966年北海道生まれ。雑誌、広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーライターに。東日本大震災の直後に福島第一原発で2カ月間作業員として働き、『ヤクザと原発』(文春文庫)を上梓。

(「文春オンライン」編集部)