日産をはじめキヤノンやネスレなど8社の共同プロジェクト(「ASOBIBA HP」より)

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 企業のPRスタイルが今、変化している。商品の魅力を直接消費者に訴求することで購入マインドを刺激するスタイルから、消費者自身がイベントに参加したり、企業が協賛するクリエーターの作品に触れたりすることでその企業の哲学やコンセプトを理解してもらい、自然なかたちで消費者に浸透を図ろうとするスタイルに変化しているからだ。

 日産自動車は8月下旬、他業態の企業やブランドとコラボして、夏休みの家族参加型イベント「SEA CASTLE」(シーキャッスル)を愛媛県今治市で開催する。

 このイベントは、日産をはじめキヤノンやネスレなど8社の共同プロジェクトで、「日本遺産」にも認定された「村上海賊」の本拠地である今治市を舞台に展開する1泊2日の家族旅行企画(応募型、参加無料)だ。本イベントの応募はすでに終了しているが、消費者からは大きな関心が寄せられた。

 この8社で構成する「ASOBO JAPAN」が開催する旅行イベントは、「日本まるごと家族で遊ぼう」をコンセプトに、家族が一体となった「遊び」を通して、そこでしかできない体験を盛り込んだ新感覚の企画となっている。これまで4回にわたって、同種のイベントを実施してきたが、5回目の今回は無人島で海賊体験を行うほか、新鮮な海の幸を味わったり、しまなみ海道のサイクリング、新型車によるドライブなど親子で楽しめる企画を数多く用意した。

 企業側のこうした取り組みに、今治市など地方自治体が賛同し、協力が得られたことも今回の大きな特徴だ。このツアーならではの親子でエンジョイできるオリジナルサバイバルゲームも計画されているという。
 
 日産のマーケティング担当者は、「旅先で過ごす家族の時間を通して、子どもの生きる力や家族の絆を一緒に育むことを、参加各ブランドがサポートすることを目指しています」と話す。こうしたコメントからも、イベントコンテンツの充実や、自治体の協力を取りつけることで、単なるマーケティング施策にとどまらない質の高いイベントを目指す意気込みが伺える。

●資生堂の取り組み

 一方、自社のコンセプトを協賛するスペシャリスト集団の作品に重ねて表現しているのが資生堂だ。デジタル時代のさまざまな分野のスペシャリストで構成するウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」(東京)は、佐賀県武雄市の御船山楽園で「自然が自然のままアートになる」というコンセプト展示を2015年から行っているが、資生堂は今夏、そのイベントに協賛。プロジェクションマッピングなどのテクノロジーを駆使したチームラボのアート作品と、自社の新スキンケア商品「WASO」(ワソウ)の「自然からくる美しさをストレートに伝える」というコンセプトを融合させて7月中旬からコラボ作品を展示している(イベントは10月9日まで。小学生以上は御船山楽園の入園料が必要)。企業として美を大切にする精神に革新的で拡散力のあるデジタルアートを結びつけて、新たな価値を消費者に提示するという取り組みだ。

 こうした試みは、企業と消費者の「新しいコミュニケーション」の場をつくり上げるという点で意義がある。さらに企業マーケティングに地方創生や地方発という観点を含めること、企業、地域、消費者が一体となった活動として融合し、最終的に企業イメージや製品・サービスに対する理解が深まる効果をもたらしている。

 近年、消費トレンドが「モノからコトへ」と意識されるようになり、消費者がモノを所有する目的だけでなく、体験や価値観の共有など「特別な時間」の過ごし方が重視されている。企業側が一方的に商品やサービスの良さをPRするのではなく、消費者にさまざまな体験の機会を提供し、それを企業側と共有することでエンゲージメント(関係性)を構築する。こうした発想は近年、企業のマーケティング戦略に欠かせない手法になりつつあるといえる。

 一見企業PRとしては迂遠な取り組みにも見えるが、真のファンをつくるためには実はそれが一番の近道なのかもしれない。
(文=編集部)