脳梗塞は、加齢に伴い罹患する可能性が高まる。世界では次々と治療デバイスが開発されている領域だ。

 前回は、新たな治療デバイス開発に挑むバイオメディカルソリューションズが、いかにして海外勢と肩を並べながら、脳梗塞患者に朗報となる画期的な治療法を実現し始めたかをご紹介した。

 今回は、同社が脳梗塞治療デバイスを手がけることになった背景と、苦労を重ねた資金繰りなど、ベンチャーを立ち上げれば避けては通れない壁をいかに乗り越えてきたかを紐解いていく。

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米国流の販売は大手に任せるモデル

 高度な医療機器の開発は億円単位の資金が必要と言われる。試作品を開発するにも多額の開発資金を準備しなければならない。

 脳血管内治療に求められる技術は極めて特殊であり、そこに特化した設立したてのベンチャーに投資や融資するファンドや金融機関はなく、創業当初は資金繰りを工面するのにかなり苦労した。バイオメディカルソリューションズの正林和也社長(31歳)は次のように振り返る。

7月3日、ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)が開催したネットワーキング・ナイトで登壇した正林和也さん(右)と大下創さん(左)


 「政府系の助成金・補助金の獲得を試みるもなかなか採択されないなか、唯一、経済産業省の『課題解決型医療機器等開発事業』に我々の開発案件が採択されました」

 「それもあって、銀行からも融資を取りつけることができ、大口の開発資金を確保することができました。これがなければ今の私たちはありません」

 それからも和也さんは、開発に協力してくれるパートナーを探すため、国内の医療機器メーカーや医療機器製造業者を回り、 ベンチャーキャピタルにも足を運び出資先を探し続けた。

 のちに同社を資金面と事業構想のアドバイスをすることになるメドベンチャーパートナーズ社長の大下創さん(48歳)に出会ったのもその時期だった。

 和也さんはこう振り返る。

 「脳内血管内治療用のステントの中でも、世界的に使われている最先端の製品を開発するシリコンバレーのベンチャーに、大下さんが投資されていたことは知っていました。その大下さんが日本でベンチャーキャピタルを始めたと聞いて、すぐに会いに行きました」

 「実際に私たちに投資してくれたのはその翌年でしたが、まだ投資をするには開発リスクが非常に高い段階だったので、ありがたかったです」

 一般的にベンチャーは出口戦略として上場するか売却する(バイアウト)かのゴールを決める必要がある。日本では上場を目指すのが一般的なため、バイアウトを選んだバイオメディカルソリューションズは、ベンチャーキャピタルとは意見が合わないこともあった。

 結果的に、同社は国内の大手医療系企業に買収されることになったが、当初からバイアウトを念頭に、単品の開発に注力したことも、ここまで開発が進んだ理由と言えよう。

 最初の資金調達を主導した後、同社の取締役になった大下さんは次のように話す。

 「ベンチャーの成功はどんな出口戦略を描くかにかかってくる」

 「日本では、買収と言うと吸収合併のようにネガティブに捉える傾向もあるが、アメリカの医療機器ベンチャーは、製品の開発が終了したら、会社ごと大手に売却して販売などを任せるほうが圧倒的に多い」

 「ヒトでの臨床試験などのリスクの高い開発をベンチャーが手がけ、大手企業に販売以降を任せることで、市場に速やかに投入していく。医療機器には販売、薬事、安全管理などにおいて、追加的な資金や人材が必要となるので、ベンチャーが単独で販売まで行うのは効率的とは言えません」

 「ですから、大手に売却することが合理的なわけです。米カリフォルニア州にあるシリコンバレーやミネソタ州にはこのような最先端の医療機器を生み出す環境、すなわち『エコシステム』ができています」

 また、シリコンバレーで医療機器に特化したベンチャーキャピタリストとして実績を積んだ経験から、日本で医療機器産業が育ちにくい理由を次のように分析する。

医師や患者が求める医療開発が促進される環境を

 「シリコンバレーはカテーテル、ミネソタは心臓のペースメーカー発祥の地。この地域では、医療機器開発のエコシステムが成熟しています。エグジットするベンチャーが毎年30件ほどあって、各々に数十人の社員がいれば、毎年数百人の成功経験者が輩出される」

 「それをすでに30〜40年近く繰り返しているので、ものすごい数の成功経験者がいる。求める人材が容易に知り合いの知り合いくらいで見つかるようなことも多い。これがシリコンバレーなど、エコシステムが確立した地域のパワーの源であり、日本で簡単に真似ができない理由です」

 国内でシリコンバレーのような環境を作るには、成功モデルを生み出すしかないという。

 「成功経験者がどんどん輩出されて新たなベンチャーを立ち上げてまた成功していく。そういう流れを作るほかにない。いくら補助金を出しても、成功事例が出てこない限り絶対にエコシステムは育ちません」

 「特に、医療機器の場合は単に投資家や創業者が利益を得たというだけではなく、実際に製品が患者さんの元に届き、多くの患者が助かって初めて本当の意味での成功と言えます」

 「そして、それらの医療機器を使う医師が『これが日本で開発できたのであれば、自分にも医療機器開発ができるのではないか』と思えるようなムードを日本でも作り上げる必要があります」

 大きくは診断機器と治療機器に分類される医療機器は、輸入超過が続いている。その原因の多くは治療機器の分野だと言われる。

 国内では、医療機器ベンチャーが少なく、治療機器開発がほとんど行われていないことが原因とも考えられる。治療機器の中には、臨床試験中に患者が命を落とす可能性があるものもあり、開発リスクが高いとみられる。

 実際に、国内の医療機器メーカーが日本発の脳血管内治療機器の臨床試験を実施するのは、約18年ぶりだ。

 さらに、医療機器として承認を受けるためのハードルが最も高いクラス4という分類の製品で、日本発のベンチャーが国内の臨床試験に挑むのは異例のこと。

 「成功事例がほとんどない中で、今回、バイオメディカルソリューションズが大手企業への売却に成功した。製品は現在、臨床試験中ですが、将来的に、海外の競合とも勝負できるような製品となることを期待しています」と大下さん。

 バイオメディカルソリューションズの開発品は臨床試験の真っ只中。日本の医療機器産業に新風を吹き込む同社の技術が立証される日が待ち望まれる。

筆者:柏野 裕美