あり得ないことが現実となった、ネイマールのパリSG入り。超大物が大金で移籍するのは当然であり、夢のある話でもあるが、それがサッカー界全体に悪影響を及ぼすとなると、話は別である。 (C) Getty Images

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 サッカーは、プロスポーツとしての経済活動の側面を持っている。

「人に夢を与える」という綺麗事だけでは成り立たない。集客に励み、マーケティングに切り込み、放映権を商品にするということができなかったら、いずれ経営は立ちゆかなくなる。

 それゆえ、サッカーで大金が流れるのは必然と言える。大きなお金が発生するところに、スペクタクルもあるのだろう。
 
 例えば、年俸6億円でヴィッセル神戸が獲得したルーカス・ポドルスキはマスコミを呼び寄せ、ファンの関心を集めている。世界王者のブランドが求心力になっているのだ。
 
 しかし、支出には際限があり、ある一線を越えた途端、危うさに直面することとなる。
 
 チャイナマネーはそのひとつだろう。中国スーパーリーグの各クラブは、「爆買い」といわれる選手獲得に奔走。オスカールがチェルシーから上海上港に移籍した際には、6000万ユーロ(約77億円)もの金が動いた。上海申花がカルロス・テベスに支払う年俸は、50億円近くともいわれる。
 
 そして、選手の実力やリーグのレベルで、明らかな不均衡が生じるようになった。
 
 1人の選手に対して法外な金額を払えば、各所でバランスは崩れる。他の選手も高い年俸を求めるようになり、各クラブによる主力選手の奪い合いが始まる。その価格高騰によって一時的にリーグは華やかなものに映るだろうが、クラブ財政は逼迫し、いつか必ずバブルは弾ける。
 
 この夏、サッカー史上最高額の移籍金2億2200万ユーロ(約284億円)で、ネイマールがバルセロナからパリ・サンジェルマンへ移籍した。
 
 これまでの移籍金額トップ3は、ポール・ポグバ、ガレス・ベイル、クリスチアーノ・ロナウドだったが、いずれも1億ユーロ前後。それと比較しても、ネイマールの移籍金額は“あり得ない”数字である。
 
「ネイマールの契約に関しては、怖さを感じるし、落ち着かない」
 
 セビージャでSDとして名声を高め、今年からローマで強化を担当している“目利き”モンチは警鐘を鳴らす。
 
「サッカー界はどこに向かうのだろうか? と危惧している。バブル経済は必ず破裂するからね。事実、不動産業界は、それで世界的損失を出しているじゃないか。私は(セビージャ時代に)法外な契約をしたことはない。大きなお金が動くのはスペクタクルなニュースだろうが、心配な流れだ」
“風雲児”のように扱われるパリSGだが、年俸3000万ユーロ(約38億円)といわれるネイマールに飽き足らず、モナコのFWキリアン・エムバペにも1億8000万ユーロ(約230億円)というオファーを送っている。
 
 ビッグマネーで全てを買い占める――。それは、資本主義社会の自由経済では真っ当な行為なのだが、危険な流れでもある。
 
 プロの世界は弱肉強食だが、仁義がないわけではない。
 
 例えば、バルサはネイマールを失ったことで、アトレティコ・マドリーのアントワーヌ・グリエーズマン獲得に動くという噂もあったが、バルサ関係者は「この夏、補強禁止処分になっているチームの選手には手を出さない」と否定するとともに、敵に塩を送った。
 
 そもそも、それ以前にはグリエーズマン自身が、プレミアリーグのクラブからの好条件のオファーを受けながらも、「チームをこのままにして、自分だけ去ることはできない」と残留を決意しているのだ。
 
 この件では、クラブも選手も、「越えるべきではない一線」があることを理解していた。
 
 しかし、ひとつのクラブが一線を越えることで、仁義なき戦いが勃発する可能性もある。その“戦争”が忌むべきものと承知していても、ドンパチに挑まざるを得ない。面子もあるし、自身の大切な財産を奪われる危険があるからだ。
 
 札束が物を言う――。
 
 それはひとつの真理ではあるが、深刻な事態と隣り合わせのものでもある。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、今年3月にはヘスス・スアレス氏との共著『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』(東邦出版)を上梓した。