「旅行のスタイルが変わってきた」と肌で感じた経験が、2回ある。

ひとつは、かつて勤めていた旅行会社で、2011年に「長期滞在型ツアー」を大々的に打ち出して、会社の歴史に残る大ヒット商品となったときだ。アルプスに囲まれたオーストリアの古都インスブルックに滞在するツアーで、8日間、10日間、16日間、30日間の4種類を発表した。

「周遊型」から「体験型」へ

それまで30日間のツアー(しかも同じホテルに28連泊)なんて日本に存在しなかったから、「売れるのは8日間と10日間のツアー。せいぜい16日間が限界だろう」と思っていたのだが、予想は見事に外れ、30日間のツアーが一番人気で追加設定をするほどの勢いだった。

もちろん、30日間のツアーに参加されたお客様のほとんどはリタイアされたシニア世代だったが、「よくぞ企画してくれた」「こういうツアーを待っていた」というお声を多数いただいたとき、「周遊型」から「体験型」に旅行の需要が変化してきていることに気付いた。

幸運にもぼくは添乗員として、5年連続でこの長期滞在型のツアーに同行する機会に恵まれた。まず、ひとつの街に長く滞在することで、まるで「第二の故郷」になったかのような感覚を得られた。気に入ったカフェには馴染みの店員がいて、「元気かい?」なんて言われると、もうそれだけで居心地がいい。

そして、1〜2泊しかしないような忙しいツアーと異なり急ぐ必要はないから、その日の天候や体調に合わせて出かけることができる。小さなリュックを持って、鉄道で、バスで、様々な近郊の町や自然を楽しめる。

陶器の絵付け体験をしたり、農家訪問をしたり、運河沿いのサイクリングをしたり、ガイドブックには決して載っていない奥深い体験がたくさんできた。疲れたら、ホテルや街のカフェでゆっくりしていればいい。仕事ながら本当に思い出に残っていて、お客様の満足度も高かった。

深化する旅のカタチ

もうひとつ、「流れが変わった」と思ったのは、2016年にAirbnbが新サービスをローンチしたときだ。

また個人的な話になるが、ぼくは都内の老舗和菓子屋さんを巡るサイクリングツアー「ツール・ド・和菓子」を2014年頃に企画した。最初は友人を誘って遊びでやっていたのだが、「いつかこのツアーを、外国人観光客向けの仕事にしたい」と思うようになった。そうしたら昨年、Airbnbの方からお声がかかり、実際にコラボすることになった。

これが、昨年ローンチされたAirbnbの新サービス「トリップ」で、その街に「宿泊」するだけでなく、スペシャルな「体験」を提供する地元のホストと一緒に街を楽しもう、というコンセプトだった。何かしらの特技を持った様々なホストが、英語を使ってオリジナルの体験プログラムを提供する。現在ホストの数はどんどん増えていて、体験も多様化してきている。

これまでも「体験」ツアーのプラットフォームサイトは日本に存在したが、外国人観光客向けのものはほとんどなかったし、Airbnbほどの企業が乗り出してきた衝撃は大きかった。ガイドブックに載っている場所をスタンプラリーのように回るだけの旅行はもう時代遅れのものになりつつあり、どれだけその街を深く楽しめるかを意識する人が増えてきたように思う。

Airbnbの本社オフィスへ

ところで、ぼくが初めて外国人観光客を連れて都内を自転車で案内したとき、そのゲストのひとりが偶然にもAirbnbの本社社員だった。その縁で、先日サンフランシスコを訪ねた際、彼女が本社に招いてくれた。Airbnbの本社オフィスは、社員の案内がないと中に入ることはできないから、非常に貴重な機会となった。

社内の各エリアは、「Paris」「London」のように都市の名前が付けられていて、その土地らしい調度品で飾られている。たまらなくオシャレで、遊び心満載のクリエイティブな空間だった。

驚いたのは社員食堂。朝昼夜3食無料なのはGoogleやFacebookと変わらないが、ドリンクのエリアにたくさんの蛇口が横に並び、ジュースやお茶だけでなく様々なクラフトビールやカリフォルニアワインまで飲み放題になっていたのだ。さすがに昼から飲む社員はいないだろうが、夢のような世界だと思った。

「ポートランドならでは」の
体験

そして、その後に訪れたポートランドではAirbnbの宿に泊まった。ホストのOnderさんはトルコ出身で、話しているうちに仲良くなり、「Yotaも一緒に食べよう」と朝食を提供してくれた。

普通のホテルに泊まれば、このような交流は生まれない。そして街で感じたことや疑問に思ったことをぶつければ理解がさらに深まるし、宿泊もひとつの「体験」になっているというのが頷けた。

また、上で紹介した「トリップ」にもポートランド滞在中に参加してみた。選んだのは、「ヴィーガンチーズについて知り、味わう」という体験だった。

講師のSheaさんは5年前からヴィーガン(完全菜食主義)になったそう。もともとニューヨークに住んでいたが、ヴィーガンである自分にとってポートランドが住むのに適していると感じ、同じくヴィーガンの旦那さんとともに引っ越してきたという。

ポートランドは食に関して非常に先進的な場所で、「ヴィーガンの聖地」としても知られている。ヴィーガンのためのレストランは世界一多く、完全にヴィーガンのための食品しか扱わないスーパーまで存在する。

ぼくは去年まで、ヴィーガンという言葉さえ知らなかった。肉や魚だけではなく、乳製品や卵も食べない。植物性のものしか口に入れない人々だ。日本ではまだあまり一般的とは言えないかもしれないが、ポートランドではベジタリアンやヴィーガンの人は全く珍しくない。

この体験では、提供された4種類のチーズを味わったのだが、どれもヴィーガンチーズだった。

「このチーズは、何からできているの?」
「カシューナッツよ」

信じられなかった。何も知らずに食べたら、普通のチーズだと思ってしまう。が、いずれもカシューナッツからできていて、しかもそれぞれ味が異なる。あとから出てきたのは、アーモンドから作られたというチーズ。これもとてもおいしかった。

英語のワークショップだったため、理解できなかった部分も多少あったが、実際にヴィーガンチーズを味わえたことが何よりの体験になった。そしてこの体験がそのまま、街の特徴を知ることにも繋がった。

旅行会社としての立場と、ゲストとしての立場。両側から旅に関わってみて、これからの旅行は間違いなく「体験」がキーワードになると感じている。関連するビジネスの流れもさらに加速するだろう。

Licensed material used with permission by 中村洋太,(Facebook),(Twitter),(Instagram)