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●暗号のような「Aパン・Bパン・Cパン・Gパン・Jパン・Oパン・Tパン」

実は揚げ物が大好きな沖縄県民。おやつの定番と言えば、衣の分厚い「沖縄風てんぷら」や、沖縄版ドーナツとも言える「サーターアンダギー」、塩焼きが定番の秋の味覚「サンマ」でさえもフライとして食すなど、揚げ物に対する愛は尋常ではない。

そんな揚げ物天国・沖縄県にあって、地元の人々が愛してやまない揚げパンをご存知だろうか? 今回は、テレビや雑誌で引っ張りだこの人気店、「揚げパン工房アントシモ」を紹介したい。

○キャッチ―なネーミングも楽しい

自慢の揚げパンは全部で7種類。商品名が少し変わっており、「Aパン・Bパン・Cパン・Gパン・Jパン・Oパン・Tパン」という暗号のようなネーミングが面白い。北海道小豆とお餅が入ったAパンは、小豆の頭文字AをとってAパン、紅芋あんことお餅の入ったBパンは、紅芋の頭文字BをとってBパンといった具合に名付けられている。

お店にお邪魔すると、まずは店頭のショーケースで好みの揚げパンを物色。しかし、目の前にあるパンはどれも白っぽく、思い描いていたきつね色のパンとは何かビジュアルが異なるような……。それもそのはず、実はアントシモではお客からの注文の度に目の前でパンを揚げてくれるのだ。

これも「熱々の状態で食べてほしい」というお店側の心遣い。レジ横のチャーミングなPOPに癒やされつつ、"よんな〜よんな〜(沖縄の方言でゆっくりゆっくりという意味)"待つことに。今回はせっかくなので、7種の揚げパン全てをオーダーさせていただいた。揚げ時間はきっちり2分。ガラス越しにその様子を眺めるのも楽しい。

揚げ油は動物性のギトギト脂ではなく、不飽和脂肪酸のバランスが良い「日清キャノーラヘルシーライト」をぜいたくに使用。コレステロールゼロの植物油なので、べとつかずカラッと揚げられている。

完成した揚げパンは紙袋に入れて手渡される。外見はどれもよく似ているため、真ん中で切って撮影してみた。色鮮やかな紅芋あんこがたっぷり入っているが、もちろん天然の色合いだ。

紅芋あんこのおいしさはもちろんのこと、Bパン最大の特徴はなんといってもこれ! あんこの中には柔らかなお餅が顔を出してびよーんと伸びる。

生地の食感は外はカリッと、中はふっくらもっちもち。この違いが面白く、中のフィリングの組み合わせも全てパンの味わいに合わせて作られているので、全体のバランスが抜群に良い。

さらに、写真では分かりにくいと思うが、1個1個が想像以上に大きいので、小食の人であればひとつ食べればお腹いっぱいになるボリューム。それにも関わらずついつい手が伸びてしまうのは、サクサクとした衣と生地本来の柔らかさのおかげだろう。筆者も気付けば2個、あっという間に完食してしまった。

7種類全部切って並べてみると色鮮やかな揚げパンの花が咲いた。中心部の上が紅芋を使った前述のBパン、その下が小豆あんこの入ったAパン、そのすぐ右にはオリジナルカレーが入ったCパン。旅行者には圧倒的な人気のBパンだが、地元・うちなーんちゅ人気はAパン(あんこ&餅)やCパン(カレー)に軍配があがるのだとか。

○オリジナルボックスは手土産に

ちなみに、6個以上注文すれば、バスの形をしたオリジナルボックスに入れてくれるのもうれしいサービス。キュートなイラストで遊び心をくすぐるでき栄えに、自宅用はもちろん、お土産に利用する県民も多いのだとか。友人とのお茶会や部活動の差し入れなど、幅広い場所で親しまれている。

アントシモの揚げパンは、揚げたてはもちろんおいしいが、揚げてから少し寝かせた30分〜1時間程度が最もおいしいという。旅行で訪れた時は、観光の最終日に立ち寄って沖縄土産にするのもオススメ。イートインの他、テイクアウトしてホテルの客室やお気に入りのビーチなどで食べてみるのも良さそうだ。

取材当日もこのオリジナルボックスで持ち帰る人が多く、近所に住む親子や部活動帰りの中高生など、地元の人々の来店が目立っていた。新しく移転した場所は国際通りにも徒歩数分で行ける観光の中心地なのだが、実際に訪れるのは半分以上がうちなーんちゅだという。「また来たよー」、「こっちは何の具材ね? 」などなど、店内では緩やかな島言葉が聞こえてきて何とも微笑ましい。

こんなにもうちなーんちゅに愛されているアントシモだが、何がそんなにうちなーんちゅを魅了しているのだろうか。その秘密を代表取締役・宮城博三(みやぎひろみつ)さんに聞いてみた。

●台湾の饅頭職人に倣った製法を融合! 一番の秘密はスタッフの温かさかも

○あまりの人気にクレームも

「アントシモのパンには複数の小麦粉を使用し、表面はパリッと、中はもちっとを表現しています。生地はとても繊細で水の分量や混ぜ方でも大きく食感は変わります。練った後は丸一日冷蔵庫で休ませ、翌日に使用するようにしていますが、この低温熟成の温度にもアントシモ独自の食感の秘密があるんです。そうそう、生地には老麺(発酵種の一種)を入れていて……」。

と、次々と秘密を明かしてくれる宮城さん。その熱弁に揚げパンに対する情熱と人柄の良さがひしひしと伝わってくる。市販のパンには硬さや食感を調整する増粘多糖類などが使われるが、アントシモでは薬品に頼らず手間暇をかけた製造技術で絶妙な食感を生み出しているという。

オープン当初から改良を続けてきた生地だが、実はこの数年で大幅なリニューアルを行った。台湾中部の饅頭職人の元に宮城さん自身が2年にわたって通いつめ、饅頭の製法と揚げパンのレシピを融合させた新たな食感が今年になって完成したのだとか。

またそれとともに、饅頭の技術を転用した蒸しパンも新たにメニューに加わり、2017年7月には石垣島にも新店舗がオープン。現在既に出店している香港でも多店舗展開を進めていく予定だ。

こうして書くと順風満帆な揚げパン人生に見えるが、宮城さんはゆっくりと首を横に振った。

「2009年5月のオープン時は夫婦ふたりで切り盛りする小さなお店でした。それがある日、沖縄で有名なタレントさんのブログで紹介され、その後にはご当地紹介番組でTV放映され、信じられない勢いでお店が変化していったのです。数えきれないお客さまの来店がありながら、手作りゆえの少量生産のためにご迷惑を掛けることも多く、お叱りの声をたくさんいただくことも。

そこでお客さまのリクエストやアドバイスにお応えするために、オペレーションを変えたり生地のレシピを改良したりと、試行錯誤の日々が続きました。今も悩んだり迷ったりすることはありますが、お客さまに喜んでいただけるように努力していきたいと思っています」。

○目指すは「町の揚げパン屋さん」

地元の人々との出会いを経て、ゆっくりと育てられてきたアントシモの揚げパン。このおやつが愛される理由は、こだわりのおいしさだけでなく、宮城さんを始めとするスタッフの皆さんの人柄にもよるのだろう。沖縄を代表する人気店でありながら丁寧で温和な雰囲気は、たどってきた苦労の数々が生み出したものなのかもしれない。

これからの目標をうかがうと、「自転車で10分、周囲1kmのお客さまに愛されるお店にしていきたい」と話す宮城さん。目指すのは小腹が空いたらふと寄りたくなる、町の揚げパン屋さん。お客一人ひとりに向き合い、地元に根差しながら納得のいく商品を届けていきたいのだという。

なお、お店のホームページには移転前の住所と地図がそのまま掲載されているので、訪れる際には下記の新しい店舗へ向かってほしい。そこらへんの緩い雰囲気もまた、沖縄らしさと感じてもらえるとさらに楽しめるかもしれない。うちなーんちゅが愛してやまない揚げパンを頬張れば、誰しもニンマリ笑顔になれる。気分もきっと"揚がる"はずだ。

●information

アントシモ那覇本店

住所: 沖縄県那覇市久茂地1丁目5-1

営業時間: 10:00〜21:00(日曜日は〜18:00、第2・4火曜日は〜19:00)

休日: 水曜日、年末年始

○筆者プロフィール: 阿久津彩子

東京都出身、沖縄在住。沖縄の編集プロダクション「WORD WORKS OKINAWA」の運営&ライターを務める。沖縄の島野菜と果物の力強さに驚き、週末はファーマーズマーケット巡りにいそしむ。入手した野菜は同量のお肉と一緒に食すのが基本だが、過剰摂取なのか全くやせない。旬の味覚を存分に楽しめるおいしいお店から、本当は秘密にしたいオススメの穴場スポットまで、沖縄の最新情報を幅広くご紹介します。