比較されやしないか、失望されやしないか。

 カリスマ的なリーダーの後にバトンタッチを受ける人は大変だと、勝手な想像と、要らぬ心配をしてしまう。

 ビジネスの世界や一般社会のみならず、サッカーにもそんなリーダーの交代はある。

 今季から川崎フロンターレを率いるのが、昨季までコーチを務めた43歳の鬼木達(とおる)氏。5年間掛けて魅惑的な攻撃サッカーを築き上げ、昨季は年間勝ち点で2位に引き上げた風間八宏監督の後任としてコーチから昇格した。守備を整備して、攻守一体のチームづくりに着手。監督初経験ながら、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)で8年ぶりのベスト8進出を果たし、Jリーグでも優勝を狙って上位につけている。

 いかにして「カリスマ後のフロンターレ」をうまく導いているのか――

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経験ゼロの自分でいいのかな、と

――印象深いゲームが5月19日の鹿島アントラーズ戦でした。昨年、チャンピオンシップ準決勝、天皇杯決勝と大きな試合で勝てなかった試合巧者の王者に対して、3-0と圧勝しました。この試合は鹿島のお株を奪うような球際の強さが目立ちました。

「僕のなかでは、まだまだというか、3-0になってから押し込まれているんですよね。でも選手同士で『もっとこうできたでしょ』とか『押し込まれたところを何とかしないと』みたいな会話が出ていたんで、僕と同じ意識だから特に言う必要はないかなって」

――前線からのプレスがフロンターレの新たな持ち味になっていますよね。

「風間さんは言葉を選びながら、敢えて守備に触れないことで攻撃を意識させたりしていました。凄くカリスマ性を持っているし、ブレない人ですよね。逆に言ったら、僕は何もない(笑)。これを言ったら、ブレちゃうなとかも考えないし、自分としては今、守備が大事だと思ったら言います」

――風間さんの退任が発表され、クラブから監督就任の打診があったとき迷いはありましたか。

「風間さんの後うんぬんよりも、自分に監督経験がなかったので、果たして自分でいいのかな、と。自分としてもジュニアユースやユースの監督を経て、トップチームでやりたいと決めていましたから。ただ、クラブとすれば風間さんのサッカーをベースにしたいということで、僕がコーチ歴で一番長かったので。だけど全部は継承できない。だって風間さんのサッカーをどう発展させるかは風間さんしか分からないですし、継承しつつも自分のやり方にシフトチェンジしてやっていかないと、とは考えていました」

嘘をつかずに、素のままで

――そのカリスマ性の強い風間さんの後を引き継いだわけですが、どういうリーダーになっていくかイメージはありましたか。

「僕、コーチのときから選手に対して遠慮せず叱っていましたし、素のままの自分でいるようにはしました。自分を出す、自分に嘘をつかない、ですかね」

――素のまま、自分を出す、自分に嘘をつかない。何か具体例をいただければ。

「そうですね……風間さんって、すごく言葉を大事にする人じゃないですか」


 

――分かります。「どこまでこだわれるかも技術のうち」「体に限界はあっても頭のなかは限界がない」などいろいろな“風間語”がありますよね。

「それこそ風間さんが大事にしていた言葉を、僕もいい言葉だと思って大事にしてしまうと選手に伝わらないと思うんです。だから違う形で、それも自分の言葉で伝えていかないといけないなって」

「言い訳はするな」――鬼木の“本気の言葉”

――“鬼木語”だと、どんな言葉になりますか。

「いや、別に言葉をつくったりはしません。よくあるような言葉であってもいいと思うんです。でもとにかく僕としては本気で言う。素のまま、嘘をつかずに」


 

――本気の言葉とは。

「たとえばアウェイでサガン鳥栖と戦った試合(7月8日)で前半、0-2で折り返したんです。4-1で勝利した浦和レッズ戦から中2日だったので、試合前から『いろんな言い訳をするな』と言ってきました。今まで上位チームに勝った次の試合で負けたり、フロンターレはそういうのが多かった。だからまず『言い訳するな』と。とはいえ相手を分析したり、これまでのウチの出来を考えたりしてもここで負けるとは本気で思わなかった。だからハーフタイムに『ひっくり返す自信あるよ。俺は本気で思っているよ』って、そういう話をしたんです」

――そうしたら後半に3点奪っての逆転劇でした。

「後半始まってまだ0-2の段階ですけど、僕は終盤に入って2-2に追いつくことを想定して、コーチとどうやって3点目を取ろうかっていう話をしていたんです」

――確かに、本気中の本気ですね。

「そうしたら一気に6分間で3点取ってしまって。短時間で逆転まで持っていくとは思いませんでしたけど、選手たちも本気でそう思ってくれたんだと思います。ほかにも選手たちに『俺は自信がある』とはっきり言った試合がいくつかあります。相手を分析するために試合の映像を見ると、堅そうだなって最初は思うんです。それがイメージを持ちながら2度、3度と見ていくと、あれ、いけそうだな、自分たちが崩れなければ勝てるなって。ACLでもホームの広州恒大戦とか結果は0-0でしたけど、『俺は自信があるから、信じてほしい』と伝えています」

アントラーズらしさとフロンターレらしさの違い

――鬼木さんは現役時代、鹿島でキャリアをスタートさせ、中盤のユーティリティープレーヤーとして計6シーズン、プレーしました。勝利に徹する鹿島イズムというのも、染みついていますか?

「あると思います。鹿島は試合の内容が今ひとつでも最終的には勝ってるみたいな試合が少なくなくて。相手が『鹿島あんまり強くないな』と言ってても、鹿島としては『あいつら勘違いしてるな』っていう雰囲気なんですよ。だから最後のところは絶対にやらせない。鹿島のせめぎ合いの強さは、勝ってきた自信から生まれていたと思います」

――そしてフロンターレではJFL時代からプレーする古参のOB。現役で計8年、育成・普及コーチ3年、トップコーチ7年と、このクラブに20年近くいることになります。フロンターレらしさ、というのは?

「歴史を振り返っても1-0で勝つよりは4-3で勝つとか、昔からそういうチームだったとは思います。等々力劇場という言葉もありますけど、プロである以上、やっぱり面白いサッカーを見せたい。だけど一方では勝利をしっかりとくっつけていかなければいけないと思っています。隙を見せず、逆に相手の隙を突きたいですよね」


 

――フロンターレは、まだJ1でタイトルがありません。内容も結果も妥協なくこだわるように仕向けているように見えます。

「一番はいいサッカーをすれば勝てるというふうにはしていきたい。ただ、サッカーは相手もあることなんで、いいサッカーをやらせてもらえないことだってある。そうなったときに、じゃあ負けちゃっていいのかと言ったら、そうじゃないサッカーでも勝てるようにはしたい。やっぱり勝利することで、もっと勝利を求めていくようになると思うんです。面白いサッカーで勝つし、たとえそうじゃないサッカーになっても勝つ。選手にはずっと『勝っていけばもっと強くなる』と言い続けています。そうやって本気で伝えていくしかないと思っています」

#2に続く)

写真=鈴木七絵/文藝春秋

(二宮 寿朗)