川島永嗣は日本代表の楽勝ムードに警鐘を鳴らす【写真:成富紀之】

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「『次のオーストラリアに勝てばいい』はすごく危険」

 6月のイラク戦(テヘラン)で勝ち点1を獲得し、2018年ロシアW杯アジア最終予選突破に王手をかけた日本代表。8月31日のオーストラリア戦(埼玉)と9月5日のサウジアラビア戦(ジェッダ)のラスト2連戦のいずれかに勝利すれば6大会連続の世界切符を獲得できる。だが、3月のUAE戦(アルアイン)から正守護神の座を奪回した川島永嗣(メス)は「オーストラリアに勝てばいいという楽観的な考えは危険」と警鐘を鳴らす。2010年南アフリカ大会、2014年ブラジル大会と2度のW杯に参戦したベテランGKに今回の最終予選、そして代表への思いを改めて聞いた。(取材・文:元川悦子)

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 川島がスタメンに復帰してから、日本代表には新たな活力が生まれていた。

 3月シリーズはUAEとタイに連勝。6月のイラク戦も開始8分に大迫が先制点を奪い、勝ち点3を手にできるはずだった。ところが、後半25分に原口元気(ヘルタ・ベルリン)と倉田秋(G大阪)が交代した直後にアクシデントが続出。吉田麻也(サウサンプトン)と川島の判断にズレが生じ、手痛い失点を喫することになった。

「GKとしてはああいうシーンが出てきた時に芽を摘みたかった。過酷な条件下のゲームだったし、90分間で1〜2本(相手のチャンスが)来た時にしっかり対応するイメージを持っていたたので、失点はすごい悔しかった。後半は給水タイムがなくて、みんなの疲れが見えてきた時間帯だったし、麻也との連携の部分も簡単に言ってしまえばコミュニケーション不足だと思う。ゴール前はハッキリしなければいけないし、あのシーンまではホントにハッキリしていたので、それこそ悔いが残る失点でしたね」と川島は“勝ち点2”を落としたドロー劇を振り返った。

 6月のイランでは、久しぶりに「真のアウェイ」を実感したという。

「今は中東も環境が整っていて、UAEやカタールでやる時はピッチもよくなっているけど、前回のイランは『中東に来たな』と久々に感じました。そういう環境では、どんなに自分たちのリズムで進んでいても理屈でいかないことが多い。あのイラク戦も勝てば残り2試合は引き分け以上でW杯が決まるとわかっていたけど、計算できるものではなかった。ホントにタフじゃないとダメだなと強く思いましたね」と彼は言う。

 最終戦のサウジ戦も酷暑のジェッダであることを考えると、何とかホームのオーストラリア戦で勝負を決めておきたいところ。ただ、数々の修羅場をくぐってきた川島はその楽観的なムードに釘を刺した。

「『次のオーストラリアに勝てばいい』という考え方はすごく危険。周りの人たちがポジティブに考えるのはいいけど、僕ら自身は安易な気持ちでは絶対に臨めない。厳しい試合になることを前提に、どれだけ準備できるかが大事だと思います。欧州組はシーズンが始まったばかりだし、コンディションのばらつきがあるかもしれないけど、代表に来たら言い訳はできない。最高のパフォーマンスを出さなければいけないんです」

昌子、井手口、久保…頼もしい若手たちへの期待

 宿敵・オーストラリアは6〜7月にかけてロシアで行われたコンフェデレーションズカップでカメルーンとチリに引き分けるなど大善戦。チームの完成度が大幅にアップしている印象を残している。日本は過去のW杯最終予選で一度もオーストラリアに勝ったことがなく、極めて難易度の高いゲームになるのは間違いない。

「オーストラリアは2015年アジアカップに向けて新しいチームを作って以来、スタイルが確実に変わっている。ボールを動かしながら最後のところはクロスだったり、強さを生かすサッカーをしている印象があります。ユリッチ(ルツェルン)やケーヒル(メルボルン・シティ)など得点源も決まっている。体が大きくて足元もうまい選手が前にいて、空中戦も突破も止めなければいけないけど、逆にわかりやすい。その相手を自分たちがどれだけ止められるか、要所要所でしっかり押さえられるのかがポイントになってくると思います。

 圭佑(本田=パチューカ)のPKで引き分けに持ち込んだ前回最終予選(2013年6月)の時も苦労したけど、先に失点しないことが大切。向こうも勝たなければいけないし、ゲームが始まる時から駆け引きがある。僕らとしてはまずは失点しないことを考えながら、ホームの利を生かして勝ちを狙いに行けるかだと思いますね」と川島は冷静に分析している。

 失点をゼロに抑えるという意味では、イラク戦と同じ轍を踏むことだけは絶対に許されない。吉田と昌子源(鹿島)の新センターバックコンビとの連携強化は重要なカギになってくるだろう。

「昌子は1試合目(6月のシリア戦=東京)より2試合目(イラク戦)の方がよかった。十分やれると思います。井手口(陽介=G大阪)にしてもそうだけど、ハリルホジッチ監督も新陳代謝を求めているし、新しい選手が入ってくることでチームの可能性はどんどん広がるのかなと思います。

 若い世代の陽介や裕也(久保=ヘント)にしてもそんなには喋らないですけど、『やってやろう』という気持ちは強く感じます。彼らの戦う姿勢を目の当たりにするのは僕も嬉しい。代表に変化や進化をもたらすためにも、ホントに1人ひとりが自覚を持つことが大切だなと感じますね」と守護神は新戦力のさらなる台頭に大きな期待を寄せている。

川島が描くロシアの“先”。「1日1日悔いなく生きたい」

 W杯最終予選に入ってから代表の若返りは急激に進んでいるが、原口や久保、昌子らは次の2連戦で過去に体験したことのない壮絶な重圧を感じることだろう。仮にそこで勝てなければ、プレーオフという未知なる戦いに挑まなければならなくなる。そんな時こそ、ベテラン・川島にはチーム全体をけん引する重責が課せられる。2008年の初キャップから足掛け10年も日の丸を背負い続けた経験値を今こそ生かすしかないのだ。

「次の2試合のプレッシャーは大きいし、若い選手たちも今まで以上に重いものを背負ってプレーしなきゃいけない。グループ3位でプレーオフという可能性もありますよね。そうならないのが一番いいけど、シナリオはまだ何も決まっていない。すべてを乗り越えていかないとW杯はないんです。

自分も『どうすれば修羅場をくぐり抜けられるか』と考えることはありますし、『プレッシャーの中で勝ち取ってきたものがあるから大丈夫』と言い聞かせたりもしますけど、結局は修羅場をくぐるためのコツなんかない。一瞬一瞬、ワンプレーワンプレーを乗り越えてやることしかないんだと今は思います。

 南アフリカの時を振り返ってもそうだけど、むしろ若い時の方が何も考えずにプレーしていたのかなという気がします。1つひとつに集中していたし、練習の時の感覚をそのままゲームで出せたから。いい意味で考えずにプレーできたらいいですよね」と彼はしみじみ語る。

 いずれにせよ、目の前の関門を突破することでロシアという大舞台が見えてくる。今の日本代表には、本田のようにロシアW杯をキャリアの集大成と位置づける選手もいるが、川島の場合は「自分で終わりを決めるつもりはない」と言う。

「能活さん(川口=相模原)も、ナラさん(楢崎=名古屋)も4回W杯に出ているし、ブッフォン(ユベントス)も40歳になるのにまだ代表でやっている。自分としても『あと2回(W杯で)やれたらいいな』って考えたりはします。でも、代表というのは、どんなに自分が努力しても必要とされる時もあれば、そうじゃない時もある。年齢やタイミング的に今回が最後になるかもしれない。でも自分には『今回が最後になるかもしれないから悔いなくやろう』という気持ちはない。W杯だろうが何だろうが、1日1日悔いなく生きたいという思いは変わらない。とにかく今は全力でやることだけを心がけています」

 全身全霊を注いだ先にロシアW杯という道が開けることを信じて、川島永嗣は日本のゴールマウスをしっかりと守り続ける。

(取材・文:元川悦子)

text by 元川悦子