「Cambiare」

 試合後の記者会見で、サガン鳥栖のマッシモ・フィッカデンティ監督はその言葉を何度か用いている。イタリア語で「変える」を意味する。どこか表情が晴れないのは、必ずしもその変化がうまくいっていないからだろう。

 イタリア人指揮官が率いて2年目のサガン鳥栖はどう変化し、どこで迷い、どこへ活路を求めているのか?

 8月13日、J1リーグ第22節。サガン鳥栖は横浜F・マリノスの本拠地ニッパツ三ツ沢球技場に乗り込んでいる。鳥栖は最近9試合で4勝4分け1敗。勝ち点を着実に積み重ねて9位に浮上し、3位の横浜に勝てば上位グループの背中が見えるはずだった。


抜群のキープ力でチャンスを作っていたビクトル・イバルボ(サガン鳥栖)

 序盤、鳥栖はコロンビア代表FWビクトル・イバルボを中心に攻撃に出る。

「とにかくビクトルに預けて、という形」

 鳥栖の選手たちが語るように、イバルボが前線で抜群のキープ力を見せる。普通ならヘディングで競るはずのハイボールを胸でトラップし、収めてしまう。タコのような足さばきでボールを渡さない。いっせいに敵選手を集めると、自然に周りのスペースが空き、そこを味方が侵す。

 ところが、イバルボのシュートだけは一向に入る気配がない。

 一方、横浜はMF齋藤学が左サイドで完全に主導権を握る。齋藤はボールを握る力が強く、失わない。それを信頼した選手たちが動き出せる。また、相手が潰そうとして無理に間合いを詰めてくると、齋藤はそれをひらりとかわし、さらに選択肢を広げる。

 そして9分だった。齋藤が生み出した攻撃の渦が、鳥栖を飲み込んだ。攻撃を受けた後、自陣左サイドでボールを受けた齋藤は、2人をひきつけると前方に走った左サイドバックの山中亮輔にパス。山中はこれを難なくドリブルで持ち込むと、齋藤が外側を全速力で駆ける。マーカーが齋藤をケアせざるを得なくなったところで山中が左足を振り抜き、GKが弾いた瞬間、ウーゴ・ヴィエイラが押し込んだ。

「早い時間帯に失点したせいで、横浜は(守りを固めて)カウンター中心のゲーム運びをするようになってしまった」(鳥栖・フィッカデンティ監督)

 結局、後半途中まで鳥栖はほぼ攻め手がない状況が続いた。

 試合に動きが出たのは、残り20分にさしかかろうとしたあたりからだった。豊田陽平、池田圭という鳥栖を支えてきた2人のFWが交代で登場。豊田が力強く空中戦を制し、池田が献身的に走ってスペースを作り、ラインを下げた横浜を押し込む。左右からクロスの雨を降らせるも、あと一歩で陥落できなかった。

 鳥栖は1-0で完封負けを喫し、10位に順位を落とした。

「(2試合連続無得点も)チャンスを作っていなかったら、考え直さないといけない。しかし、前節の柏レイソル戦も含め、チャンスは作れていた。”サッカーではこういう日もある”と自分を納得させるしかない。(MF鎌田大地のフランクフルト移籍で)チームは再び根本的にやり方を変えている。単純に代わりを探すよりも、違った形を作るしかない。嘆いても仕方なく、より質を向上させるだけだ」

 そう語るイタリア人指揮官はそもそも変幻を得意とし、策士の匂いを強く放つ。例えば、システムも4-3-1-2を基調としながら、試合展開により4-4-2、5-4-1と目まぐるしく変える。横浜戦も4-3-3でスタートし、3-4-3、3-3-4とシステムを変更。4-3-3でも守備時は1人がサイドに落ち4-4-2になるなど、戦術色が強い。

 論理がうまくはまれば、勝ち点は稼げるのだろう。しかし変化が目的を達成する手段でなく、目的そのものになってしまったら、危うい。

「守備の制約が多く、そこばかりが求められる。攻撃は個人任せで、自由もないが、形もない」

 かつてフィッカデンティ監督が率いたFC東京の選手は、そう感じてしまったという。

 正念場の指揮官にとって、今後のキーマンはFC東京から獲得したMF河野広貴になるだろう。選手登録が間に合っていないにもかかわらず、前日の戦術練習ではトップ下でスタメンに入った。鎌田の穴が埋まっていない状況で、横浜戦もトップ下なしの3トップを編成していた。技術的に違いを見せられるトップ下は戦術的に不可欠なのだろう。

 ただ、新たな選手を迎えることで、指揮官はさらなるチェンジに挑むことになる。

 2年目のフィッカデンティ監督は、チームのてこ入れを続けてきた。今シーズンは大量に選手を補強。この日も先発6人が新加入選手だった。

「Cambiare」

 チームは絶えず、変化する必要があるのだろう。そのプロセスで、田川亨介(18歳)のような若手も台頭しつつある。ただ、変化する中で鳥栖が伝統的に持つ荒々しさやひたむきさまで消えてしまうなら――。それは迷走になりかねない。

 熱気に包まれていたスタジアムを冷やすように、地面を叩く激しい雨が降り始めた。

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