犬の『強迫性障害・常同行動』とは

犬が精神病に罹るというと、驚く人も少なくありません。犬はとても知能の高い動物であり、脳も高度に発達しています。それ故に、ストレスを溜め込んだりすることで心因性の精神病になることがあります。

ここでは、犬によく見られる精神疾患として、強迫性障害(強迫神経症)・常同行動を取り上げます。強迫性障害・常同行動では、同じ動作を繰り返し行うのが特徴です。犬では、同じ場所を行進し続けるや、脚や体の一部を舐め続ける、自分の尾を追う行動を繰り返す、散歩中に頻繁に後方を振り返り怯えているなどが挙げられます。

中でも体の一部を舐め続ける、尾を追うなどの行動では、体の組織を壊すほど繰り返されることもあり、舐め壊したり、尾を噛みちぎってしまったりすることもあります。このように症状が悪化すると、外科処置や、最悪の場合は断尾する必要もあります。

犬の『強迫性障害・常同行動』の症状

犬に見られる強迫性障害・常同行動の代表的な症状をあげてみます。以下のような行動が連続的、または断続的に見られる場合は、強迫性障害・常同行動が疑われます。

同じ場所をぐるぐると回る行動が数十分以上続く脚など、体の一部を舐め続ける行動が数十分以上続く自分の尾を吠えながら攻撃的に追う、または噛む行動が数十分以上続く外を歩いている時に、常に後方を気にして振り返る行動が数十分以上続く実際に存在しない、獲物を追い続ける行動が数十分以上続く

人間の場合では、何度も戸締りをしたり、手を洗い続けたり、皮膚を掻きむしったり、物を溜め込んでしまうなどの行動が見られます。犬の場合では、興奮時に発作が起こることが多くあります。また、一度発作が起こると、飼い主が何を言っても止められません。無理矢理に体を抑えても制御が効かず、水を掛けるなどの大胆な対処をしても、止まないことがほとんどです。

犬が『強迫性障害・常同行動』を発症する原因

人間での疾患を含めて、具体的な原因は未だ未解明ですが、強迫性障害・常同行動は、何らかのストレスに長期間に渡って晒させることで発症することが報告されています。犬の場合では、過度に行動を制限され過ぎる(ケージなどに長時間閉じ込める)や、何をやってもキツく叱られることによって得られる無力感、欲求不満が原因になります。この無力感から脱したい気持ちと、脱することが実現不可能な場合で起こる思考の対立が、同じ行動を繰り返す常同行動を引き起こし、これが悪化して生活に支障が出る場合では、強迫性障害となります。

動物園の飼育動物が檻の中をひたすらぐるぐると歩いているような無意味な行動も常同行動(ズーコシス)と言われ、強迫性障害の一部だとされています。動物園の動物の場合は、自然環境から引き離され、動物園という新たな環境に適応できずにストレスを溜めることで発症します。また、潜在的な欲求(運動や仲間たちとの接触)が満たされないことも発症要因となります。

上記にある症状で自虐行為となる行動では、こうした環境要因にストレスと、遺伝的な素因も大きく影響すると言われています。脳の中の大脳基底核や、辺縁系、また脳内の特定部位の障害や、セロトニンやドーパミンを神経伝達物質とする神経系の機能異常が推定されます。発症は、ストレスフルな出来事の後に発症することが多くあります。一方で何のきっかけもなく症状が現れて徐々に悪化することもあります。

もし、犬に強迫性障害の症状が見られたら

上記に挙げた行動が見られ、日々の生活に支障が出る場合は、強迫性障害の疑いが極めて高いです。直ちに、専門家に相談をしましょう。注意点として、一般の獣医診療では精神疾患は対象外となることです。動物病院の場合は、行動治療科が置かれている病院を探す必要があります。病院以外では、ドッグビヘイビアリストが犬の精神疾患の専門家です。一般のドッグトレーナーや訓練士では専門外ですので、依頼する際は注意しましょう。 
 

犬の『強迫性障害・常同行動』の治療法

うつ病や他の精神疾患と同じく、主な治療法は行動療法や認知行動療法が主流の治療法です。症状が悪化していて、外傷を伴う場合や、一日中発作が続いている場合では、薬物療法も並行して行う必要があります。薬物療法では抗うつ剤が使用されます。薬によって脳の興奮を和らげておき、発作を抑える必要があります。しかし、抗うつ剤には副作用もあるため、処方には行動治療科の診断が必要です。

軽度症状の対処法と予防法

生活上のストレスを低減するようにします。散歩や運動を十分に行い、適度に疲れる生活を送ることで興奮を抑制でき、発作を抑えることができます。症状が軽度な常同行動であれば、以下の方法で改善が見込めます。また、これらの対処法は、常同行動や強迫性障害の予防にもなります。

毎日十分に体を動かし、適度な疲労を与える(興奮の抑制)犬が興奮している時には、構わないようにする(発作誘発の抑制)宝探しゲームなどの嗅覚を刺激するイベントを行う(報酬系の刺激を与える)トリプトファンを含む質の良いフードを与える(セロトニンの増強)犬が楽しめるトレーニングを行う(決して叱ってはならない)ケージなどに長時間閉じ込めないようにする匂い嗅ぎ行動などをしっかりと行えるようにする午前中の日光浴を行う他の犬や人と楽しい時間を過ごす(社会化)

これらは予防として有効です。もし、軽度な症状が見られる場合は、上記の対処を試してみるのも良いかと思います。1~2週間程度で実施し、症状が改善されるか確認しましょう。症状が改善されない、または悪化する場合は、速やかに専門家に相談をしてください。

まとめ

犬の強迫性障害は、悪化すると1日で何時間も続き、日常の生活に支障がでます。一日中吠えて、尾を噛み続けていては散歩もままなりません。食事も摂れなくなることもあります。肝心なのは予防することです。犬をケージに閉じ込めたり、犬が本来持っている行動を制限しすぎたり、社会的接触の機会を減らすと犬は不安になり、その不安から脱するために葛藤することになります。こうしたストレスが精神障害を引き起こします。また、遺伝的な素因は分かりづらいため、予防策をしっかりと講じる必要があります。

犬が本来持つ行動の自由が保障され、飼い主や仲間から愛され、興奮を自ら制御できるように育てられることで、こうした精神疾患を防ぐことができます。これらは、犬の幸せにも直結します。犬が幸せに暮らすことができれば、こうした症状は発症しないでしょう。我々飼い主は、何が犬にとっての幸せなのかを考える必要もあります。もし、症状が見られる場合は、犬も辛い思いをしています。速やかに専門家に相談をして、治療を行いましょう。


(ドッグトレーナー提供:ドッグビヘイビアリスト 田中雅織)