選手へ激しく檄を飛ばしたり、サポーターへ声援を求めるような振る舞いをほとんど見せなかったコンテには、記者陣からも厳しい質問が飛んだ。 (C) Getty Images

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 昨シーズンのプレミアリーグ覇者であるチェルシーは、現地時間8月12日にホームで2017-18シーズンの開幕戦に臨んだ。

 
 しかし、わずか14分でキャプテンのガリー・ケイヒルが一発退場となるなど、攻守で歯車が嚙み合わず、昨シーズン16位と格下と言ってもいいバーンリーに2-3で敗れた。
 
 この波乱を見た本拠地スタンフォード・ブリッジでは、約4万人のチェルシー・サポーターがブーイングや、「何もわかっちゃいない」というチャントで、この日の主審だったクレイグ・ポーソンを責め続けた。
 
 たしかに、ケイヒル退場の場面は、悪質な故意のタックルには見えず、開始早々の出来事でもあったことから、審判によってはイエローで済ませていたかもしれない。

 だが、チェルシーの黒星スタートを招いたのは審判ではない。彼らが敗れたのは、自業自得である。
 
 試合後に指揮官のアントニオ・コンテも、「ハーフタイム中に注意して改善を求めた」と発言した通り、チェルシーは10人になった途端に我を見失い、前半で3点も失った。
 
 その最たる例が、終盤の81分に2枚目のイエローをもらって退場者に加わったセスク・ファブレガスだ。ケイヒル退場の2分後に受けた最初の警告は、皮肉を込めた拍手で判定に不服を示すという、全く不必要な行為だった。
 
 キャプテンマークこそケイヒルからセサル・アスピリクエタに渡っていたが、チームの中核を担うセスクは、リーダーシップを発揮して、試合への集中を周囲に促すべきだったというのに……。
 
 もちろん、その責任は指揮官にもある。
 
 選手たちがやるべきことを忘れ、ダビド・ルイスがシュートに背を向けて先制を許し、エヌゴロ・カンテも距離を詰めきれずに追加点を与え、さらにノーマークでのクロスとヘディングで3点目を失うなか、コンテは覚醒を促す指示の声量を増すどころか、ベンチ前で俯いて佇むだけになっていった。
 
 その姿は、テクニカルエリアで一緒に闘う姿が印象的だった昨シーズンとは別人のもののようだった。記者席では、選手の放出が先行し、駒不足のチーム事情に不満を唱えてきたコンテが、「うんざりしているように見える」との意見も聞こえた。
 
 試合後には、20歳の下部組織出身MFジェレミー・ボガがプレミア初出場を果たしたほか、ベンチにも若手5人を置いたメンバー選考に、「何かをフロントに訴えたかったのか?」との質問も飛んだ。それに対し、イタリア人指揮官は「私が選んだ11人に文句があるのか?」と、露骨に苛立ちを見せていた。
 ボガの先発起用は歓迎できる部分もあった。エデン・アザールとペドロ・ロドリゲスが故障中だったプレシーズンにアピールに成功した若手が、チェルシーでは珍しく機会を与えられたからだ。
 
 むしろ、筆者には、今夏の移籍市場の目玉としてR・マドリーから獲得したアルバロ・モラタのベンチスタートが解せなかった。
 
「コンディションは上がっているが、FWは適応に時間がかかる」という試合前のコンテの発言から、ベンチスタートは予想できていた。だが、59分に投入されて1ゴール・1アシストを記録したモラタは、状態も、周囲との連係も申し分なかった。
 
 その質は、数的不利となった時間帯にヒールでのバックパスに失敗してポゼッションを台無しにした他、相手DFを吊り出す動きも乏しかったミチ・バチュアイを明らかに上回っていた。
 
 にもかかわらず、バチュアイを先発で起用した采配は、層の薄さを訴えるコンテのメッセージと勘ぐれなくもない。補強不足による指揮官の不満は、同じ過ちを繰り返す経営陣が招いたもの。まさに自業自得である。
 
 プレミアリーグ優勝の次のシーズンにおける補強失敗は、今夏で3度目だ。7年前には、カルロ・アンチェロッティが無冠に終わって職を追われる運命を辿り、2年前にもジョゼ・モウリーニョが10位と不振を極めて解雇されていた。
 
 そして、昨シーズンの優勝監督とは思えないほど、暗く、険しい表情を浮かべ続けたコンテは、今シーズンのプレミアリーグ解任第1号の有力候補として開幕節を終えている。
 
 そうしたことを考えれば、チェルシーは悪夢を見るべくして見たと言える。今は自力で目を醒ますべく、フロントは残る移籍市場で最善にして最高の戦力補強を、指揮官は不満を飲み込んで現状最高の戦力を抽出することに、それぞれ一念発起するしかないだろう。
 
文:山中忍
 
【著者プロフィール】
やまなか・しのぶ/1966年生まれ、青山学院大学卒。94年渡欧。イングランドのサッカー文化に魅せられ、ライター&通訳・翻訳家として、プレミアリーグとイングランド代表から下部リーグとユースまで、本場のサッカーシーンを追う。西ロンドン在住で、ファンでもあるチェルシーの事情に明るい。