寝つきが悪い、夜中に目が覚めてしまう……眠れない悩みをもつ人が増えています。「眠れないけれど、病院でもらう睡眠薬を使うのはちょっとコワイです。どうしたらいいでしょう?」と相談される方も増えてきました。処方箋でしか買うことができない睡眠剤・睡眠導入剤に対して、市販で買うことができるものは睡眠改善薬と言われています。病院に行って薬をもらうのはちょっと抵抗があると感じる人も、ドラッグストアで買える薬なら手に取りやすいし安心なのでしょう。

市販の睡眠剤の主成分はジフェンヒドラミン塩酸塩

たしかに市販の睡眠剤は、比較的副作用は少なく、安心な薬と言われていますが、飲みつづけていい薬でもありません。眠れない原因は自律神経の乱れにあり、その要因は今あなたの抱えているストレスにあります。眠れる・眠れないには「気持ち」という要素が大きく働きます。そこを改善しないかぎり根本的な解決にはならないでしょう。

ところでみなさんは市販の睡眠改善薬の有効分をご存知ですか?たとえば「ドリエル」はジフェンヒドラミン塩酸というものです。「グ・スリーP」「ネオデイ」などほかの市販薬の多くも、有効成分はジフェンヒドラミン塩酸塩です。

 「睡眠改善薬」だから効くという安心感

ジフェンヒドラミン塩酸塩は、かゆみ止めに配合されている抗ヒスタミン薬の成分としてよく知られています。虫刺されやじんましん、アレルギーによるかゆみを抑える作用や鼻水・くしゃみを抑える効果があります。その副作用が「眠くなる」こと。よく、かゆみ止めや風邪薬を飲んだ後はクルマの運転をしないようにといった注意をされますが、それはこうした副作用があるからです。市販の睡眠改善薬は、このジフェンヒドラミン塩酸塩の副作用を主作用に代えた薬というわけです。

実は、ジフェンヒドラミン塩酸塩もドラッグストアで売っています。120錠で1000円ぐらいです。もちろん「かゆみ止め」として売っているのですが、成分だけ見れば「ドリエル」などと変わらない上、価格はずっと安いです。

しかし、眠れなくて睡眠改善薬を買っている人が、「それならジフェンヒドラミン塩酸塩を飲もう」とは思わないでしょうね。理由は「安心感が違う」からです。

眠れない人が求めているものは何よりも安心感です。これは「睡眠改善薬」であり、コワイ薬でもないとわかって飲むからこそ、安心して眠れるのです。値段が高いことも悪いことではなくて、「こんなに高いのだから効くはず」という安心感を高めている作用があります。これが「はい、これ、かゆみ止めだけど眠くなるから」とジフェンヒドラミン塩酸塩の錠剤を渡されても、え、ほんと?と半信半疑になりますよね。そうすると安心感が得られず、結果として眠れません。

これはまさに、薬は「半分プラセボ」であることを示しています。自己暗示ほど効くものはないのです。睡眠にとってそれだけ気持ちは重要であり、それだけにデリケートでむずかしい問題であるとも言えます。

「お守り」にしておくとちょうどいい

ストレスによって神経が休めず、自律神経が乱れていることが眠れない理由の最たるものでしょう。そこに「眠れない」という事実が加わることで、さらにストレスが高まる。だから「これを飲めば眠れる」という薬は、効果があるのです。

しかし、はじめにも書きましたが、飲みつづけても眠れないという症状が治るわけではありません。そしてどんなに副作用が少ないと言われる薬でも、副作用は必ずあります。また、どんな薬にも耐性というものがあり、飲みつづけていると、身体がどんどんその薬に慣れてしまうので、だんだん効かなくなっていきます。

その結果、やがて、飲んでもよく眠れない→薬の量を増やす→それでも眠れない→ストレス増幅→さらに眠れないという負のスパイラルに引き込まれていってしまいます。

私は、市販の薬は「お守り」として持っているぐらいがちょうどいいのでは、と思います。たとえば、旅先で眠れない、枕が変わると眠れないという人がいますね。せっかくの旅行なのに眠れないのが不安という人は、「お守り」として持って行けばいいと思います。あるいは何日も眠れなくて仕事のパフォーマンスが落ちるなど、明らかに弊害が出ている時に1日飲んでグッスリ眠る。お守りというものはイザというときにだけ使うもので、毎日必ず使うものではないですよね。睡眠改善薬もイザという時のために、安心材料として持っているという使い方ができるといいですね。

次回は病院でもらう薬についてお話しします。

眠れない人間が増えてるってにゃあ?



■賢人のまとめ
市販の睡眠改善薬は比較的安全とされていますが、日常的に飲みつづけていると、体に薬の耐性ができて、だんだん効力が薄れ、眠れなくなります。旅先で眠れない、枕が変わると眠れない、眠れない日々が続いて心身ともにつらい、そんなイザという時のために「お守り」として持っているぐらいがちょうどいいと思います。

■プロフィール

薬の賢人 宇多川久美子

薬剤師、栄養学博士。(一社)国際感食協会理事長。明治薬科大学を卒業後、薬剤師として総合病院に勤務。46歳のときデューク更家の弟子に入り、ウォーキングをマスター。今は、オリジナルの「ハッピーウォーク」の主宰、栄養学と運動生理学の知識を取り入れた五感で食べる「感食」、オリジナルエクササイズ「ベジタサイズ」などを通じて薬に頼らない生き方を提案中。「食を断つことが最大の治療」と考え、ファスティング断食合宿も定期開催。著書に『薬剤師は薬を飲まない』(廣済堂出版)など。