(左)三谷産業では問題点の指摘を改善に向けた提案として前向きに捉えていると話す三谷忠照常務。(右)一騎当千の社員が増え1人当たりの売上高もアップ※単体ベース

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■新入社員定着の秘訣「組織の風通し」

「月次成果管理といって、品質、コスト、時間のいわゆる『QCT』の観点から、自らの仕事振りを1カ月ごとに行うチェックに、全社員で取り組んでいます。その際に意識しているのが、饗庭達也社長がよくいう『理想の姿−現状の姿=課題』ということです。そして、明らかになった課題に対して、速やかに手を打っていきます」

こう語るのは、化学品、情報システム、住宅設備など幅広い分野に展開する総合商社の三谷産業で人事を担当する常務の三谷忠照さんだ。「1カ月ごとのチェック」といい、「理想の姿」といい、これらは先に見てきたリチーミングの手法と共通しているではないか。

それもそのはずで、同社は2009年に人事部で初めてリチーミングの研修を受けているのだ。その後はグループ会社でのリチーミングの展開を行い、「国内における研修は一巡したところです」と三谷さんは話す。

確かにリチーミングによる無形効果は数字で表すことが難しいのだが、効果は徐々に表れてきている。三谷さんは「月次成果管理でもそうですが、問題点を明らかにすることに抵抗感がありません。それも『誰が悪いから』ということではなく、改善に向けた提案として前向きに捉えています」という。

そうした風通しのいい組織だからなのだろう。「大卒新入社員の3割が3年以内に辞める」といわれるなかにあって、同社は毎年35人前後を採用しているが、辞めていくのは2人いるかいないか。一騎当千の社員が増え、単体ベースで見た1人当たりの売上高もアップしている。

そして、最近、同社がリチーミングを積極的に展開し始めたのが、約2500人いる全グループの社員のうち、半数以上を占めるようになったベトナム人社員である。昨年10月に設計の図面作成や見積もりなどを請け負うベトナムのオレオ・CSD社で、課長職以上の18人の幹部社員を対象にリチーミングの研修を実施した。「ベトナム人はメンタルな部分を大切にし、リチーミングの考えがフィットすると判断したからです。以前の人事評価は○×だけの評価で終わっていたのですが、『ここまでの成果をあげている』など、部下のプラスの面を自発的に評価するようになりました。その結果、280人いる社内スタッフのモチベーションがアップし、売上高も前年比20%以上の伸びを示しています」とオレオ・CSD社社長の三浦秀平さんは語る。

実は、日本の顧客とベトナムの現場とのつなぎ役として、ベトナム人社員が三谷産業の東京本社内にある日本支店に駐在しており、その一人が駐在歴6年になるヴォ・ティ・キン・ロックさんだ。ロックさんは進捗状況の報告や改善提案などキメの細かい仕事ぶりで、担当する主要顧客の建材会社からの信頼も厚い。

ロックさんはリチーミング研修を受けていないのだが、「現地スタッフが直接お客さまと日本語でやり取りできるのが理想の姿で、メールで伝える内容が形式的なものをテンプレート化したりしてサポートしています」と話す。どうやら日本支店で働くうちに、リチーミングの取り組みが自然と身に付いたようだ。三谷さんは「今後、8社あるベトナムの現地法人のすべてで、リチーミング研修を展開していく考えです」という。

(ジャーナリスト 伊藤 博之 撮影=加々美義人、宇佐見利明)