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上司が犯罪を犯すよう業務命令してきた。そんな驚くような話が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに投稿されています。

相談者の男性はホテルで勤務していますが、自身の在庫管理ミスで備品の在庫が足りなくなり、次の納品日まで待っていると在庫切れしてしまうところでした。すると上司から「他のホテルから備品をとって、納品日に備品が届いたら分からないように戻せ」と業務命令を出されたそうです。

相談者は「窃盗を犯すことはできない」と訴えましたが、上司は「指示に従うことができず、在庫管理も不適切で無責任」と相談者の職位を下げたということです。

今回のような上司の指示は違法ではないのでしょうか。また慰謝料など請求できるのでしょうか。若月彰弁護士に聞きました。

●違法な業務命令による降格は無効となる

労働者はどんな命令でも従わなければいけないのでしょうか。

「労働契約とは、労働者が会社の業務命令に従って仕事をして、その対価として給料をもらう契約です。そうすると、会社から給料をもらっている立場の労働者としては、業務命令に従わなかった以上降格されるのもやむを得ないと思うかもしれません。

しかし、会社の業務命令なら何でも従わなければならないかというとそうではありません。

業務命令権の行使が権利の濫用にあたるなど強行法規に違反するような場合には業務命令自体が違法・無効なものとなり、従う必要がなくなります」

今回の相談者は、他のホテルから備品を盗んで来るよう言われています。

「『他のホテルから備品をとってこい』という業務命令は刑法235条(窃盗)で禁止されて行為をそそのかすものですから、違法・無効な命令ということになります。違法・無効な業務命令に従わなかったことを理由に降格させるということは、人事権の濫用にあたり、降格も無効となります」

指示に従わなかったという理由の降格は、受け入れなければならないのでしょうか。

「降格自体無効ですので受け入れる必要はありません。裁判所に降格前の役職あることを認めてもらう請求も可能です(地位確認請求といいます)。その上、相談者は、おそらく降格に伴い給料も減額されていると思います。降格に伴い給料も減額されていれば、給料をもとに戻せと請求することができます。それだけでなく、過去にさかのぼって減額分を払えという請求をすることもできます」

●慰謝料は認められる可能性が高い

慰謝料は請求できるのでしょうか。

「慰謝料については、日常的に窃盗行為を命じられていたという場合でなければ多くは望めないでしょう。裁判となった事件としては、介護事業を営んでいた会社から、市に提出すべき支援費受給に関する書類の改ざんを命じられた従業員のAさんが、会社に慰謝料を請求した事件がありました。

この事件では、書類の改ざんを命じられた従業員のAさんは、その作業のため10日以上もの長期間帰宅もままならないほどの長時間の時間外労働をさせられ、その上会社の不正受給が判明すると従業員のAさんが主導したかのような風聞を社内に流され、挙げ句の果てには解雇までされました。

このようなひどい事案ですので裁判所は慰謝料200万円の支払いを命じました。この事件との比較からも慰謝料が認められても20万円程度になるのではないでしょうか。以上は、降格が業務命令違反を理由に行われた場合です。日頃から在庫管理ができていないということであれば、能力不足により降格されることがありますので気をつけましょう」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
若月 彰(わかつき・あきら)弁護士
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。大学卒業後一般企業に就職。在職中に社会保険労務士試験に合格したのをきっかけに司法試験を目指す。旧司法試験に合格。司法修習を終了後、法律事務所テオリアに入所。着手金無料の完全成功報酬で残業代請求など多くの労働問題を手がける。野鳥観察とスカッシュが趣味。
事務所名:法律事務所テオリア
事務所URL:http://zangyo-bengo.jp