頭で飲むワイン「法律とワインの意外な共通性」

写真拡大 (全2枚)

「ワインのテイスティング」というと、感覚的・直観的なものに思われるかもしれない。もちろん、それも大事だ。しかしワインにまつわる様々な理論を学び、知見を深めたうえで、考えながらグラスの中のワインと向き合っていると、頭の中の知識と目の前のワインが結びつく瞬間がある。

「ワイン」をロジカルに分析するのだ。

この作業は、弁護士として十数年勤める中で培ってきた法律実務の経験と重なるところがある。そう気づいて以来、ますますワインを「面白い」と思うようになった。

「なぜこのワインは美味しいのか。この香り・味わいはどういう特徴があって、どこから来るのか」。そんな素朴な、しかし難しい問題を自分なりに解いてみたいと思い、わたしはワインの勉強を始めた。

多種多様なブドウ品種の個性、産地の土壌や気候、さらにはその国の歴史や文化がワインづくりに関わってくる。学べば学ぶほど、奥が深く、終わりのない旅であることに気づく。

さらに、ワイン業界は日々変化し、新しい技術や産地が生まれ続けている。世界のトップに立つプロほど、常に学ぶ姿勢を崩さず、研鑽を積み重ね続ける姿を目の当たりにする。こういったプロの姿を見ていると、どれだけ努力を重ねても、ワインのことを「わかっている」と言える日は来ないのではないかと思う。

読者の中には、プライベートでワインを飲むのが好きな方もいれば、仕事の接待でワインを飲む機会が多い方もいるだろう。そこまで知識はないけれど、ワインを飲むのが好きだという方もいるだろう。自分はワインを飲まないけれど、ハマっている周囲の友人を見て、「なぜアルコール飲料ひとつにそこまで熱くなれるのか」と不思議に思っている方もいるかもしれない。

わたしもかつては、ただワインを飲むのが好きで、生活におけるワインの比重は今ほど高くはなかった。
今回は連載第1回目ということで、わたしがワイン好きになった経緯をお話したい。


シャンパーニュ地方アヴィーズ村のブドウ畑(2017年6月撮影)

わたしがワインを飲むようになったのは、今から10年ほど前、大学院への留学でカリフォルニアに住むようになったことがきっかけだった。ナパやソノマといったワインの名産地が身近にあり、気軽にワインを楽しむことができたのだ。

東京に戻ってから、ワインスクールへ通うようになった。さらに、ワイン好きの友人の影響で、カリフォルニア以外─特にフランス、イタリアのワインを飲む機会が増えた。

その後、再び海外転居の機会が訪れた。国際機関で働くため、パリに住むことになったのだ。友人たちには「ワインのためにフランスでの勤務を選んだ」と言われたものだ(笑)。実際、ヨーロッパ内は旅行がしやすい上、フランスにはバカンスの文化がある。夏は2〜4週間の休暇が当たり前だ。週末や長期休暇のたび、フランス国内だけでなく、イタリアやスペイン等のワイン産地へ足を運び、ますますワインを好きになった。

2014年の夏、アメリカのシリコンバレーへ移住した。少し時間ができたこともあり、「本格的にワインの勉強がしたい」という気持ちが蘇ってきた。

思い立ったが吉日。その日のうちに、WSET(Wine & Spirit Education Trust)へ電話で申し込みをした。WSETは、イギリスの団体が主宰している国際的なワイン資格だ。Level 1〜4までのランクがあるが、まずLevel 4に進むための条件であるLevel 3の取得に挑んだ。Level 3に合格したあとは、すぐに最高ランクであるLevel 4、Diploma資格へ進んだ。現在は、最低2〜3年かかると言われている、この資格の取得への道半ばにある。

その勉強の合間に、日本ソムリエ協会のワインエキスパートや、アメリカのソムリエ団体であるCourt of Master Sommeliersの入門資格も取得した。気が付けば、ここ2年ほど、本業の傍ら、日々の生活における「ワイン」の比重がどんどん増えている。

WSETをはじめとしたワインの資格試験や品評会では、「ブラインド・テイスティング」という方法をとることが多い。目隠しをして試飲を行うことで、先入観なくワインを評価することができるからだ。

目隠し状態で銘柄を当てることは大事だ。しかし、クイズのように銘柄を当てることよりも、香りや構成要素を基に、ワインを客観的・論理的に分析して評価する能力が求められる。

実際、世界のワイン業界の最高峰に位置する「マスター・オブ・ワイン協会」の試飲講習会に参加したときには、再三、「Think like a lawyer(弁護士のように考えて!)」と言われたものだ。

ワイン好きであれば誰にでも共感してもらえることだが、ワインは、わたしたちに刺激的な出会いをもたらしてくれる。わたしも、カリフォルニアに住み始めた頃はワイン関係者を誰一人知らなかったが、WSETの勉強を通じて、多くの友人・知人を得た。アメリカ、特に今住んでいる、シリコンバレーのオープンな空気も影響しているのだろう。

ワインを片手に、共通の趣味を持つ友人と楽しい時間を共有できることこそ、ワインの最大の楽しみだ。

この数年を振り返ると、ワインのお蔭で、文字通り、世界が広がったと感じる。

飲み手としてワインを楽しむとき、特別な知識はいらない。わたし自身、頭でっかちになりがちであるが、「美味しい、楽しい」と思うことが一番大事というのが信念だ。なぜならワインは、楽しむための飲み物なのだから。

ただ、少しでも知識があると、さらに興味がわくのもワインの面白いところ。これまで、わたしがワインのお蔭で生活が豊かになったように、周りの人にもワインの魅力を伝えたい、そしてワイン人生でお世話になっている方々に少しでもお返しできたら、という思いだ。

この連載では、読者の方々が、ワインを飲むときに少しでも面白いなと思えるような話題や、ワインを飲まない方にとっても、小話として興味がわくようなトピックを紹介していきたい。