絶好調のNGT48で注目メンバーは角ゆりあ
今年も様々なサプライズをもたらしたAKB48選抜総選挙。その中でも一番のサプライズだったのはNGT48研究生・角ゆりあ(かど・ゆりあ/愛称:角ちゃん、ゆーりん)ではないだろうか。77位発表の際、NGT48メンバー全員は喜びと共に驚きのあまり飛びあがり、裏配信中の柏木由紀は大きな目をさらにひんむいた。何より当の角本人も名前を呼ばれた際の、「えっ!?」と唖然とした表情を浮かべ数秒間硬直した姿は印象的であった。
無理もない。柏木の言葉を借りると、角は「言い方は悪いけれど、日の目を浴びてこなかった」子だからだ。
筆者にとってデビュー間もない頃の角ゆりあの印象は一言、「掴みどころがない子」であった。ステージ上では静かに佇み、表情はいたってクール。トークテーマを振られても多くを語らず、時折「フフッ」と笑みを漏らすのみ。公演ではひたすらに静寂を保つ。恐らく一公演で発する言葉は、文字にすると100文字あるかないか。人前で話すことがトコトン苦手と自負するため、積極的に前に出ることもほぼなく、自己主張の対極を行く。ミステリアス、少々悪く言えば引っ込み思案が過ぎるマイペース少女……。たぶん多くの方にとって、角のファーストインプレッションは上記のようだったはずだ。しかし、それはほんの一面でしかない。角は深く知れば知るほど、その奥深くには輝く魅力が眠っている。
自己主張の対極と記したが、いざパフォーマンスとなれば、その存在感を強く訴えかけてくる。決して派手さはないが、基本に忠実で無駄と隙がない美しいダンスで魅了する。基本に忠実だからこそ、あらゆる楽曲の世界にシッカリと寄り添える。その表現力はまさに「多彩」の一言。山口真帆は「NGTで1番癖のない模範な綺麗なダンスをしているのは、ゆりあたんだと思ってます。ダンスの先生も角ちゃんを見て確認すると言ってるくらい」と、フォトログにて綴ったことが。キャプテン北原里英を筆頭に、他のメンバーも「覚えが早く、正確」だと絶賛する。しかも日を追うごとにダンスは美しくなり、ミスをした翌日には必ずそのミスを改善する。裏では相当な努力をしているのだろう。ただ、自らどれほど練習した!とは、もちろん口にすることはない。
個人的に角を語る上で外せないのは、歌声だ。甘く揺らぎのある声はピュアそのもの。その歌声を堪能できるのは、『青春時計』type-Aに収録された個人PV『かどとまぼろし』だ。浮遊感溢れるサウンドに、どこか切なさを感じさせるエレクトロポップ。その上を転がる角の歌声もあいまって、今年度上半期ベストアイドルソングの一つと言っても過言ではない仕上がりになっている。気鋭の映像作家・加藤マニが手がけた、ストップモーションアニメ調の淡く愛らしい世界観も併せて、彼女の不思議な人柄が見事この映像に込められている。
公演での印象とはうって変わり、SNSでの角は饒舌にもほどがある。
公式携帯サイトのフォトログ。ただ写真を載せるだけでなく、画像加工に加え、配置にもこだわりを見せるなど高い編集センスを見せている。そして、公式Twitterでは、超ドSなイタズラ動画、メンバー出演のヘンテコカワイイ動画を撮影する「角監督」として、その編集力をいかんなく発揮している(過去に「PARTYが始まるよ」公演の『佐渡へ渡る』導入VTR作成を担当したことも)。目で楽しませるための努力も惜しまない。
そしてSHOWROOMでは大好きなアニメの話題、ソフトボールの話題になると、途端に熱弁を振るいまくる。盟友・高橋真生、山田野絵との配信では常にキャッキャとはしゃぎ、イチイチ大きなリアクションをとり、突然なる携帯のアラームに合わせて鼻歌を歌いだすなど、公演でのクールな印象を180度返るほど、素の彼女はチャーミングがすぎる。
握手会では、満面の笑みでファンを出迎えては真摯な対応を見せる。一部では中井りか並の釣り師なのでは!?などと目されるほど。そのギャップに掴まれてしまうそうだ。
こうした経験が活きてきたのか、そして、少しずつだが自分を出すことに対する恐れや躊躇が薄れてきたように思える。6月半ばに開催された西潟茉莉奈チーム、荻野由佳チームに分かれ、ミニゲーム対決を繰り広げたイベント「にしおぎ合戦」ではリアクション対決で、初めて人前で変顔を披露。今までならば強く拒んでいただろう。振られた瞬間、散々ためらった。それでもしっかりリアクション。みごとやりきると、恥ずかしさのあまりか涙をポロリ。その初々しい姿に場内に巻き起こる大歓声。対戦相手の山田がこの盛り上がりを目の前に、怖気づいていたのが印象的であった。
先日開催された自身の生誕祭では、シッカリとメインとしての役割を果たし喋るようになるなど、喋りへの意識も改善されてきているようだ。昨日より今日、今日より明日が、角のベストになっている。
自らの真意を見せることは稀だが、時にNGT48の誰にも負けないほど熱い、内に秘めている想いを見せる。その想いが炸裂したのは、昨年の生誕祭でのできごと。角はこの1年の目標として、「研究生10人全員で昇格したい」と語った。どれだけ努力しても「研究生」という立場上、報われない時間が続いた。時に心が折れて辞めたいと思ったメンバーもいたそうだ。角も例外ではない。それでも、辛さを共有し支え合ってきた仲間と共にこれからも歩んでいきたいと、願いを込め角らしく簡潔に宣言した。ここまで自分の想いをストレートに人前で語らなかった角のこの一言。もちろん研究生全員が涙した(宮島亜弥に至っては嗚咽をもらすほどの号泣)。未だ昇格は適わないが、この日を境に角は研究生の気持ちをさらに一つにまとめて、上へと押し上げたのは間違いない。そして今年の生誕祭でも、再び研究生全員での昇格を目標に掲げた…昨年以上に声を大にして。
今なお成長を遂げている角、そこにはまだ見ぬ魅力が眠っているはずだ。より光が当たりることで角の魅力は、さらに大きく開花していくだろう。その瞬間に立ち会えるのはファンとしてはもちろんNGT48にとっても楽しみなはずだ。(田口俊輔) 写真(C)AKS