またしても見事な手腕を見せつけたクリストファー・ノーラン監督
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 映画『ダークナイト』『インセプション』などのクリストファー・ノーラン監督が7月19日(現地時間)、最新作『ダンケルク』(9月9日〜日本公開)について、ニューヨークのリンカーン・センター内ウォルターリード・シアター開催のQ&Aで語った。

 1940年5月、ヒトラー率いるドイツ軍によってフランスの港町ダンケルクに追い詰められた40万人の英・仏連合軍を救出するため、イギリスから軍艦や漁船など900隻の船がドーバー海峡に向かい作戦に挑んだ実話を題材にした本作。陸海空3視点の映像は臨場感にあふれ、まさしく究極の体感型映画になっている。

 IMAXフォーマット(通常映画で使用するフィルムより大きなサイズの映像を記録・上映できる映写システム)を再び使用したというノーラン監督は「IMAXフィルムこそが、これまで発明されたフィルムの中で最も高い解像度だ。僕が生まれる前(1970年以前)に発明され、僕自身は子供の頃に博物館などでIMAXのプレゼンテーションを観ていたんだ。随分長い間存在しているにもかかわらず、僕らが『ダークナイト』(IMAXフィルムを使った初の劇場映画)を制作するまで、ハリウッドでは使われていなかったんだよ」と話す。今作では今までとは異なったアプローチをしたそうで「『ダークナイト』の続編でもIMAXカメラを使ったが、それ自体は重く、撮影中もとてもうるさかったんだ。そのため今回は70%をIMAXカメラで撮影し、残り30%のセリフがあって録音が必要なシーンは、『アラビアのロレンス』や『ヘイトフル・エイト』でも使われた Panavision 65 カメラで撮影したんだよ」と説明した。

 イギリス国民にとってダンケルク精神とはどんな意味を持つのだろうか。「逆境に直面した際に協調性を持って乗り越えていくということなんだけど、イギリスの歴史や文化においてダンケルクの救出劇はとても影響力の大きい出来事で、ある意味文化のコンセプトをもたらしたようにも思えるんだ。映画を観てもらえれば、その背景が理解できると思うよ。でもかなり前の出来事だから、僕らはそれを神秘的な童話のように簡素化して頭の中に入れている。だからイギリス人でさえも、実際に何が起きていたかという(今作の)リアリティーには驚かされたみたいだね」とノーラン監督。リアリティーを追求することで、犠牲者への敬意を示したそうだ。

 最初から最後までスリリングな感覚が残り、時間軸や音楽にもその一貫性を感じられる本作。ノーラン監督は脚本をわずか76ページに収めたそうだが、その理由について「肉(内容)をそぎ落とし、余分なものを排除することを僕自身が理解していたからだ。僕らは今作を“サスペンス”という言葉(映像)で伝えたかったんだ。サスペンスこそが、最も映画に適した言葉(映像)だからね。そのため、僕はサイレント映画やサスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコック、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーらの作品を観て研究したんだ。撮影クルーにも、クルーゾー監督の『恐怖の報酬』を観てもらったよ」と明かした。

 陸海空3視点で描いたことについては「『メメント』執筆時のように、緻密に頭の中で構成して脚本を書いたんだ。重要なのは、数学的な見地で描いたり、図式を描いて幾何学的アプローチをするなど複雑なことをするより、最終的に自分も観客(の視点)となって1ページから始め、一貫性のある体感型映画にする、ということだった。僕は今作を主観的に、人の尺度(体感時の判断)で伝えたかったけれど、ダンケルクのことを知らないような人たちにも大きなスケールで伝える必要があったんだ。だから、いかに政治家や軍の将官などを映像に含めずに、あくまで兵士の視点で描かれた一貫性のある体感型映画にするかが問題だったよ。そこで同じ時間軸に起きる出来事を、異なる観点で描くようにしたんだ」と語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)