阪神・伊藤隼太の代打成功率がすごい。8月10日現在の代打成績は38打数13安打2本塁打、打率.342。去る8月6日のヤクルト戦では7回裏の1点ビハインドの場面で代打起用され、劇的な逆転3ランを放った。代打として、あれ以上の結果はないだろう。

 そんな隼太の活躍は、虎党の私にとって本当に感慨深い。多くの阪神ファンから下の名前で呼ばれる2011年のドラフト1位。今季で大卒6年目、早いもので28歳になった。慶應義塾大学時代は4番打者として活躍し、大学日本代表でも4番を任された左打ちのエリート外野手。入団時は慶大の先輩である高橋由伸タイプと評されたこともあった。背番号が51に決まったときは、在阪マスコミが「虎のイチロー」と書き立てたこともあった。とにかく、入団当初の伊藤隼太は将来の主砲としておおいに期待されていたのである。


2011年にドラフト1位で入団した伊藤隼太 ©文藝春秋

慶大卒のエリート選手が歩んできた苦難の5年間

 しかし、その期待に反して伊藤は1年目から苦しんだ。12年の開幕戦は当時の外野のレギュラーだったマット・マートンの故障によって、ルーキーながら8番ライトのスタメンに抜擢されたものの、わずか2試合ノーヒットに終わると、マートンの復帰もあって早くも一軍登録を抹消された。その後、地道な二軍修行を重ね、夏ごろに再び一軍に復帰するとプロ初安打を放ち、さらにプロ初本塁打を満塁弾で飾るなど、派手な活躍もあったのだが、トータルでは好成績を残せず、オフの契約更改ではいきなり減額となった。

 二年目以降も苦難の道は続いた。毎年のように期待され、要所で派手な活躍をしたこともあった。15年にはMLBから日本球界に復帰したばかりの黒田博樹(当時、広島)からホームランを放ったり、同じく広島・前田健太には強かったり、いわゆる大物打ちの片鱗も見せた。しかし、故障や外野守備の問題、さらには当時の一軍首脳陣の起用傾向などもあって、なかなかスタメン出場が継続せず、レギュラーはつかめなかった。

 そして昨季、伊藤は早くもプロ5年目を迎えていた。阪神は新たに就任した金本知憲監督のもと、大胆な若返り策を断行。その代表格の一人はかつての伊藤と同じく東京六大学の明治大学からドラフト1位で入団した左の外野手・高山俊で、しかも彼はいきなり新人王に輝いた。一方の伊藤は故障もあってわずか29試合の出場に留まり、さらにタイミングの悪いことに週刊誌に女性問題をすっぱ抜かれるというスキャンダルにも見舞われた。

 脇の甘さか運の悪さか、それとも単に実力不足だったのか、とにかく伊藤の影は一気に薄くなり、プロ6年目の今季は春季キャンプからオープン戦、そして開幕戦も二軍で迎えた。かつてのドラフト1位も今や旬を過ぎた窓際の中堅選手、それが最近の印象だった。

驚異の代打成功率! かつてのドラフト1位の逆襲

 ところが、そんな伊藤がここにきて存在感を取り戻してきた。ただし、かつて期待されていたチームの主砲としてではなく、冒頭で触れた代打の切り札として、である。思えば伊藤は15年にもチームトップの代打成功率(.316)を記録し、その前年にも代打本塁打を放っている。もしかすると、彼は一打席に集中する代打に適しているのかもしれない。

 もちろん、28歳という年齢を考えると、伊藤本人はこのまま代打屋として生きていくつもりは毛頭なく、あくまでレギュラー奪取を目指しているのだろう。だから、まだまだ道の途中だとは思うが、それでも二年目の高山がパッとしない中、かつてのドラフト1位がじわじわと逆襲に転じているのだから、プロ野球はおもしろい。

 おもしろいと言えば、それはもう阪神の外野手争いそのものだ。最近はチームトップの12本塁打を放っている中谷将大が外野に固定され、ベテランの福留孝介もいれば、復帰が近い糸井嘉男もいる。もちろん昨季の新人王・高山俊もこのまま終わるわけにはいかないだろうし、ここにきて伊藤や俊介といった中堅組の逆襲もある。西岡剛の外野起用は個人的には反対だが、だからといって他に起用できるところも見当たらない。

 そんな混沌とした中で、金本監督が誰をどう起用していくのか。これだけ候補がいるのだから、どんな決断をしても多くの異論が飛び交うのは目に見えている。今季だけでなく将来的なチーム作りを考えるなら、福留と糸井を外して、オール若手から中堅でいくべきだという考え方もあるだろう。その場合、28歳の伊藤はどう扱われるのか。

 かつて代打の神様と呼ばれた八木裕や桧山進次郎は、若いころはレギュラーの中軸選手として活躍し、ベテランになってから代打稼業に活路を見出した。さらに古くは晩年の真弓明信もそうだった。レギュラー経験がないまま代打として活躍したといえば川藤幸三がそうだが、彼はいろんな意味で特別だからあまり参考にならない。
果たして、伊藤隼太はどこを目指すのか。この代打成功率の高さはレギュラー奪取への布石なのか、新・代打の神様につながる予兆なのか。彼の未来に興味が尽きない。

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(山田 隆道)