馬に焼印する=シリンゴル盟・シリンホト市(2014年5月撮影)

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 日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。

 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。

 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。

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 遊牧民の彼らの一年は春から夏、秋そして冬という四季の移り変わりに伴って、営まれている。
 
 冬の終わりから春にかけて、モンゴル高原が家畜の出産で賑わう季節である。長い冬が終わりに近づくと、ある日突然、心地よい雪解け水の流れる音と共に、草や花が芽を出し始め、小鳥たちが鳴き始める。

 厳しい冬が終わり、暖かい春がそこまできている嬉しい知らせであり、無事に越冬した遊牧民たちはほっとする。そして、家畜の出産を迎える忙しい季節が始まる。

 この時期には家畜の出産以外に去勢、焼印や耳印(羊やヤギは耳を切って印にする)などの作業がある。特に馬の焼印や去勢というのは、春になると幾つかの家庭が一緒になり、助け合いながら行う作業であった。

 モンゴルの馬はほぼ野生に近い状況なので、慣れさせられていない暴れ馬が多い。そのため、馬を焼印する作業のときは、若者にとって楽しい集会でもあり、一種の祭りのようなものでもある。馬乗りがうまい人や力持ちの人の晴れ舞台でもある。彼は競い合いながら暴れ馬を次々とつかまえ、素手で倒し、焼印をする。

 馬の焼印はモンゴル語でタマガといい、鉄製である。各家庭によってその絵柄が異なる。例えば、桃の絵柄や山の絵柄などいろいろな種類がある。近年、馬の減少で、馬群を持たない家族が増え、その焼印が失われている。それに危機感を持つ学者が内モンゴル各地を歩き回り、焼印を集めて本まで出版している。

 そして、春から夏にかけて、だんだん天気が暑くなってくると羊やヤギの毛を短く切る作業があり、大切な現金収入にもなる。

 羊の場合はハサミで切るが、ヤギの場合は先端が尖っている数本の鉄線で作ったサムと呼ばれる鉄製の道具(直訳すると櫛であり、日本の熊手と似てる)でむしりとる。

 ヤギの毛が日本でもよく知られているカシミアである。一時期カシミアが高騰し、ヤギの数も爆発的に増えたことがあったが、最近は牧草地の負担を減らすためにその数が抑制されている。(つづく)

※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第2回」の一部を抜粋しました。

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アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA)
1977年 内モンゴル生まれ
2001年 来日
2013年 日本写真芸術専門学校卒業
国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。
主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。