「順張り投資」のパフォーマンス低下が示唆するもの

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モメンタム投資の有効性

株式や為替(通貨)などの「資産価格」には、いくつかの「アノマリー」が存在することが知られている。「アノマリー」とは「資産価格の理論では説明できない不思議な現象」を指す。その代表例が「モメンタム(順張り)投資の有効性」である。

「モメンタム(順張り)投資」とは、過去(通常は過去1年間の平均)の好パフォーマンスを上げた投資対象(株式ではあれば銘柄、為替であれば通貨)を投資対象とする戦略である。多くの投資家が用いている比較的単純なチャート分析(例えば、実際の価格が移動平均線を下から上に抜けていくと買いのシグナルになるという「ゴールデンクロス」など)は、その代表例であろう。

標準的な資産価格の理論である「効率的市場仮説」では、過去の価格が現在、及び将来の価格に影響を与えないはずだが、現実には、多くの資産で、「モメンタム投資」は、市場インデックス(米国株でいえば、ニューヨークダウやS&P500など)を上回るパフォーマンスを上げてきたことが広く知られている。

米国のクオンツ系ヘッジファンドAQRの創業者で、かつ、ファイナンスの分野での優れた研究者として知られるクリフォード・アスネス氏らが2013年に発表した論文「Value and Momentum Everywhere」では、この「モメンタム投資」の有効性は、株式、為替(通貨)、債券、商品と幅広い投資対象で観察されることが指摘されている。

この「モメンタム投資の有効性」については、「行動経済学」の側面など、様々な角度から理論的な研究が続けられてきたが、現時点で、これといった決め手はない。

また、リーマンショック後、特に米国では、これまで有効であった「モメンタム投資」は必ずしも市場平均を上回るパフォーマンスを出せなくなっており、「モメンタム投資」に対する関心も薄れてきたのが現状である。チャート分析に基づく投資戦略も以前と比較して必ずしも有効に機能しているとは言い難い。

米、日、アジアのパフォーマンス

この「モメンタム(順張り)投資」のパフォーマンスについてのデータは、米ダートマス大学のケネス・フレンチ氏が集計して、自身のホームページで公開している。彼は、主要地域の全上場銘柄の株価から収益率を計算し、過去1年間の累積収益率の実績を用いて、全上場銘柄を5つのグループに分類している。

以下に紹介する米、日、アジアの3地域の「モメンタム投資」のパフォーマンスは、その5つのグループのうち、最もパフォーマンスの良かったグループの収益率から最も悪かったグループの収益率を控除して算出したものである(すなわち、投資戦略的には、最良パフォーマンス銘柄のポートフォリオを買うと同時に、同金額の最悪パフォーマンス銘柄のポートフォリオを売る「順張りのゼロコストのロング・ショート戦略」を採っていることを意味する)。

図表1は、米国株を対象としたもので、1991年1月を起点として、月次の収益率を積み上げて算出した「モメンタム投資」のパフォーマンスである。

「モメンタム投資戦略」は、ITブーム終了後の2001年以降、リーマンショック直前までは、市場平均(これは全上場銘柄の平均収益率を用いて算出)を大きく上回っていたが、リーマンショック後、市場平均を下回るパフォーマンスとなり、2013年以降は、累積収益率でも市場平均を下回るパフォーマンスになってしまっている。

図表2は日本株を対象とした同様のデータをグラフ化したものである。

日本株の場合、1990年代終盤から2000年にかけてのITブーム期に「モメンタム投資」が市場平均を大きく上回るパフォーマンスを上げ、その後のITバブル崩壊局面で、市場平均ほど下落しなかったことから、累積収益率では、1997年以降、市場平均を上回るパフォーマンスを示してきた。

だが、リーマンショックによる大幅下落後は、「モメンタム投資」のパフォーマンスは総じて市場平均を下回っており、累積収益率ベースでも2017年に市場平均に追いつかれてしまった。

「モメンタム投資」とは、「過去、株価が大きく上った銘柄の株価が今後も上がり続ける」ことを想定して投資を行うことを意味しているので、足元の上昇トレンドが今後も継続するという「期待」に裏打ちされた投資戦略である。これは、エコノミストの立場から考えると、「経済全体の高成長が中長期的に持続する」という投資家の楽観的な見通しを反映したものであるといえる。

米国のITブーム後の「モメンタム投資」の底堅さは、株価のバブル的な上昇局面は終わったものの、「IT革命」による米国経済の生産性上昇のトレンド自体は変わらないという成長期待を反映していた可能性もある。

また、その後、2005年から2007年頃にかけては、中国経済の台頭に代表されるような新興国台頭による「ゴルディロックス・エコノミー」による高成長持続期待が、「モメンタム投資」のパフォーマンスを拡大させたのではないかと考えている(これは、日本株の場合も同様であったのではないかと考える)。

一方、リーマンショックは、このような経済の高成長期待を剥落させるに十分な「ネガティブイベント」ではなかったと考える。その後は、「長期停滞論」に代表されるように、経済の累積的な悪化はどうにか回避したものの、リーマンショック以前と比較すると、成長率は大きく鈍化している。

例えば、米国では、戦後まもなくからローマンショック直前の2008年6月までの平均的な実質GDP成長率は3%弱であったが、リーマンショック後の回復局面の平均は、2%程度で、この低成長は現在も続いている。

リーマンショックのような「クラッシュ」をきっかけに「モメンタム投資」のパフォーマンスが急速に悪化していく現象は、「モメンタム・クラッシュ」といわれているが、この「モメンタム・クラッシュ」をマクロ経済の側面からとらえると、成長期待の剥落、及び、下方屈折ということになるのかもしれない。

一方、日本を除くアジア・太平洋地域(APAC)の「モメンタム投資」のパフォーマンスは、日米とは大きく異なる(図表3)。

APACの「モメンタム投資」は多くの局面で、市場平均を上回っている。また、同地域は比較的リーマンショックの影響は軽微であったこともあり、リーマンショック後も「モメンタム投資」のパフォーマンスは極めて良好であった。これは、アジア・太平洋地域の高成長期待は、リーマンショックによって後退しなかったことを示唆しているのではなかろうか(ちなみにリーマンショック直後は、中国の大型財政支出が、世界経済全体を下支えした)。

高成長期待が剥落した可能性

ところで、直近の状況だが、日本の「モメンタム投資」のパフォーマンスをみると、2012年後半から2013年半ば、及び、2015年半ばから2016年初めにかけて、収益率が上昇していることがわかる。これは、「アベノミクス」によるデフレ脱却期待によるところが大きいと考える。

だが、2016年1月をピークに、「モメンタム投資」のパフォーマンスは急落している。これは、2016年1月以降、日本におけるデフレ脱却期待が大きく後退した可能性を示唆していると考える。米国では、2015年半ば以降、一時的に上昇したものの、2016年以降、パフォーマンスは再び急落している。

これは、日米の金融政策が大きく作用した可能性がある。日本では、アベノミクスの第一の矢として大胆な「質的量的緩和」が実施され、それにともない、デフレ脱却期待の台頭がみられたが、2016年のマイナス金利政策導入以降、円高の進行からデフレ脱却の期待は大きく後退した。

米国においては、2016年から、マネタリーベースは減少局面に入った(それ以前は、「テーパリング」によって、マネタリーベースはほぼ横ばいで推移していた)。すなわち、日米の「モメンタム戦略」のパフォーマンスをみる限りにおいては、日米の金融政策が、インフレ期待だけではなく、成長期待にも大きな影響を与えている可能性が示唆される。

また、興味深いのは、2015年から上昇がほぼ止まったAPACのパフォーマンスである。これは、APAC地域の高成長期待が剥落した可能性を示唆している。東アジアの新興国の多くは、今後は高齢化の急速な進展より、成長率の大幅な減速が懸念されている。「モメンタム戦略」のパフォーマンスはそれを先取りしているのかもしれない。

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