地味だけど見逃してはいけない新聞の記事といえば、朝刊各紙に載っている首相の1日の記録。

「首相動静」(朝日新聞)、「安倍首相の一日」(読売新聞)、「首相日々」(毎日新聞)など、タイトルはちがうが中身は同じ。

 ここを読むと意外な事実がわかって面白いのである。


「首相動静」(朝日新聞)、「安倍首相の一日」(読売新聞)、「首相日々」(毎日新聞)

「7月24日午後4時2分、桃の贈呈」という皮肉

 たとえば「7月24日」。安倍首相が加計学園問題を追及された国会の閉会中審査の初日。

 朝日新聞の「首相動静」によると「8時52分、国会。」「3時8分、官邸。」とあるから、この時間のあいだで審議がおこなわれたことがわかる。

 この日、首相は国会で、

《『李下に冠を正さず』という言葉がある。私の友人が関わることだから疑念の目が向けられるのはもっともなことだ。常に国民目線に立ち、丁寧な上にも丁寧に説明を続けたい》

 と強調した。

(〈速報〉衆院で集中審議始まる 安倍晋三首相「李下に冠を正さず」「疑念の目が向けられるのはもっともなことだ」 産経ニュース 7月24日)

「李下(りか)に冠(かんむり)を正さず」とは、

「《スモモの木の下で冠をかぶりなおそうとして手を上げると、実を盗むのかと疑われるから、そこでは直すべきではないという意の、古楽府「君子行」から》人から疑いをかけられるような行いは避けるべきであるということのたとえ。」(デジタル大辞泉)

 という意味。スモモの故事を引用して釈明したのだ。

 ところが翌日、私はとんでもない記事を見つけてしまった。

「桃に笑みを絶やさず」(読売新聞 7月25日)

 安倍首相が「李下に冠を正さず」と言ったあとに「桃」を食べているのである。ああ。なんというタイミング。


桃はおかわりしたという首相 ©時事通信社

 あらためて前日の「首相動静」で確認してみると、閉会中審査を終えて官邸に戻った直後に、

「4時2分、中村慎司和歌山県紀の川市長らによる桃の贈呈。」とある。

 なんという日程の皮肉だろうか。

 私は思うのだけど、これこそ周囲が「忖度」すべきでなかったか?

 首相にちがう故事を使うよう提案するか、もしくは桃の贈呈の日をずらすか……。首相の1日の記録を読んで気づいた大きなお世話でした。

 ちなみに桃を食べた首相は「甘くてジューシーでおいしい。疲れがとれる」と笑顔を見せたという。

《自らおかわりするなど甘い桃に癒やされた様子だった。》(読売新聞 7月25日)

 桃をおかわりした首相。国会閉会中審査がいかにプレッシャーだったか、行間が読み取れる一節である。

2016年8月10日午後6時21分、居酒屋「漁」の怪

 さて、「首相動静」をはじめとする各紙の首相の1日の記録を読むと、誰と会食したかまで克明に載っている。

 しかし、各紙同じ情報が載るはずのこの記事に「差」がある日を発見してしまった。それが昨年「8月10日」。

 この日の晩、安倍首相は山梨県鳴沢村でゴルフをしたあと、ある人と会食していた。

 まず「朝日新聞」。

「3時32分、別荘。6時21分、同県富士河口湖町の居酒屋「漁」。加計孝太郎学校法人加計学園理事長、秘書官らと食事。8時37分、同県鳴沢村の別荘。」(首相動静)

 では「読売新聞」を見てみよう。

「3時32分、同村の別荘。6時21分、同県富士河口湖町の居酒屋「漁」で秘書官らと食事。8時37分、別荘。」


まさか、忖度?

 あ……、読売では「加計孝太郎」の文字が抜けている。食事をしたのは「秘書官ら」になってる。

 これは一体、どういう意味なのだろう。「何時何分」まで各紙同一で克明なのに不思議な差である。

 まさか「忖度」が発生したのか、それともただの「手抜き」なのか。当時はこの差は誰も気にしなかったが、今となって考えると興味深い。

 この「2016年8月10日」の読み比べは、フジテレビの報道情報番組『ユアタイム』の新聞読み比べコーナーでも先週紹介したら、反響が大きかった。

 新聞の首相の1日の記録欄は地味だが、推理小説よりも面白かったりする。 

(プチ鹿島)