『疾風伝説 特攻の拓(1)』(講談社)

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「“ムカつき”が止まんねーよ…」

 なんだ、二日酔いか!? と思った方もいるかもしれませんが、違います。これは暴走族マンガのレジェンド『疾風伝説 特攻の拓』に出てくる名ゼリフのひとつです。

 このマンガのどのへんが“レジェンド”なのか? 次々と登場する、スーパーサイヤ人級の強さを持ったヤンキーたちのバトル、そして一度見たら忘れることができない、中二病丸出しの“セリフ回し”の数々……どこを切り取っても、レジェンドとしか言いようがないのです。今回はそんな『疾風伝説 特攻の拓』のすごさに迫りたいと思います。

 そもそもタイトルからして、普通じゃありません。普通の人なら「しっぷうでんせつ とっこうのたく」と読んでしまうところですが、正しくは「かぜでんせつ ぶっこみのたく」です。「疾風」と書いて「かぜ」、「特攻」と書いて「ぶっこみ」と読めなければ、立派なヤンキーにはなれませんよ!

 では、問題です。次の単語は、なんと読むでしょうか?

1 朧童幽霊
2 魔覇裸邪
3 麓沙亜鵺
4 妖艶童子

 答えは……

1 ロードスペクター
2 マハラジャ
3 ロクサーヌ
4 セクシー

 でした。ちなみにこれ、すべて作品中に登場する暴走族のチーム名です。

 本作の主人公は、高校1年生の浅川拓。マジメでチビでケンカが弱く、パシリに使われる、典型的ないじめられっ子です。しかし、鳴神秀人という転校生が現れたことで、運命がガラリと変わります。

 秀人は横浜の暴走族「外道」のリーダーで、ケンカが強いことで有名でした。そんな秀人に憧れ、自らもツッパリデビューする拓。その後、拓は神奈川県下一の不良高校・聖蘭高校に転校し、マー坊こと鮎川真里率いる「爆音小僧」という暴走族に所属することに。作中では爆音小僧のマー坊、朧童幽霊のリューヤ、魍魎(もうりょう)の武丸といった暴走族のヘッドを中心にさまざまなチームが登場してはケンカに明け暮れるのですが、なぜか拓は「いろいろな暴走族のヘッドに、やたらと気に入られる」「ここぞという時に、奇跡のラッキーパンチが飛び出す」という独自アビリティにより、数々のラッキーが積み重なって、ケンカが弱いまま、横浜・湘南・横須賀など県下の暴走族の中で一目置かれる存在となっていきます。しかし、本作が“レジェンド”たるゆえんは、実はこういった本筋とは違うところにあります。


■登場キャラがほぼ全員、一瞬にしてキレる!

 暴走族のマンガなので、ある意味、当然なのですが、登場キャラクターがとにかくすぐにキレます。登場キャラ全員、カルシウム不足なんでしょう。

 拓独特のキレ表現として「!?」という感嘆疑問符が多用されるんですが、セリフの後ではなく、単独使用で「!?」と使われるのがポイントで、だいたい相手にガンをつけてる時です。眉間にシワを寄せて、顔をユガめて、口を斜めに半開きにして「!?」。これが作品の至るところに出てきます。

 加えて、作品を特徴付ける、化け物じみたパワーを持つ登場キャラたち。体格とか関係ありません。チビだろうとガリだろうと、その瞬間に一番キレたヤツが強いのがこのマンガ。ジャッキー・チェンは酒を飲めば飲むほど強くなりますが、本作の登場キャラは、キレればキレるほど強くなるのです。

 その中でも魍魎の武丸は、作中1、2を争うヤバさ。ケンカになると片手でツルハシやらバスの停留所を引っこ抜いてブン回し、大型トラックにはね飛ばされても普通に生きています。『北斗の拳』だったら、ラオウクラスの存在ですね。


■ページを開くたびに名ゼリフが飛び出す! バイオレンス感あふれる“族”ポエム

 そして『特攻の拓』といえば、インパクトがありすぎる名ゼリフの数々が挙げられます。あまりに多すぎるため、特に有名なものを厳選して紹介しておきます。

「俺らに“上等”コクんだら “10万光年”早ぇーんだよ!!」

 拓と同じ爆音小僧のメンバー、カズのセリフです。「上等コクんだら」というフレーズからしてすでに難解ですが、「ケンカ上等こいてんじゃーよ」ってことだと思います。もうここから先はフィーリングで理解するしかありません。

「俺らァ死んでも“狂乱麗舞”(キョーランレーブ)…」

 朧童幽霊のリーダー、リューヤの名ゼリフです。よくラーメン屋さんが「一杯入魂」みたいな信条を店内に掲げていることがありますが、朧童幽霊の信条は「狂乱麗舞」というわけです。言葉の意味はよくわかりませんが、字面はカッコイイですね。

「てめェの頭ぁ…潰れたトマトみてーにしてくれんゾ…?」

 爆音小僧7代目頭、マー坊の名ゼリフです。チビで金髪で子どもっぽいルックスのため、知らないヤツからは舐められがちなマー坊ですが、「相原勇に似てる」と言われると激ギレ。悪魔のような凶暴さを見せます。ちなみに、ほかにも「あんまチョーシくれてっと ひき肉にしちまうよ!」というのもあります。トマトとかひき肉とか、ちょっと洋食屋のシェフっぽいですよね。

「オレが手に入れてやる…! “その領域”…“スピードの向こう側”を… !?」

 これもマー坊のセリフです。「スピードの向こう側」というキーワード自体は本作品のいろいろなキャラクターがこぞって使っており、バイク乗りとして真の速さに目覚めたものだけが到達できる(らしい)領域として都市伝説的に語られています。たぶん死にそうな時に、三途の川が見えるのと同じような感じです。

「“支配する者”、“統べる者”、“武丸”さんがお帰りになりましたってよォ…」

 目を合わせると即ボコられるようなアブない人ばっかり出てくるイメージのある本作ですが、やはりその中でもダントツのアブなさを誇るのが魍魎の武丸です。その武丸のキングたる貫禄を象徴するセリフがこちら。でも、一番の驚きは武丸さんが「統(す)べる」などといった高度な漢字の“読み”を知っていることなんですが……。

「“事故”る奴は…“不運”(ハードラック)と“踊”(ダンス)っちまったんだよ…」

 名ゼリフの多すぎる本作ですが、その中でナンバーワンを挙げるとしたらこれでしょう。横浜最大の族「夜叉神(やしゃがみ)」を統率する総会長、鰐淵春樹さんのセリフ。このセリフのポイントは、「不運」を「ハードラック」、「踊る」を「ダンス」と当てて読ませるところにあります。「ダンスっちまう」とか……どう考えても普通に読んだほうが読みやすいんですが、無理やり押し通すあたりがワニブチさんらしさなのです。

 ここまで読んですでにお気づきとは思うのですが、セリフの目立たせたい単語を「“ ”」でくくる技法も本作の特徴となっています。

 そんなわけで、伝説の暴走族マンガ『疾風伝説 特攻の拓』をご紹介しました。この作品はヤンキーマンガ、ツッパリマンガを敬遠している人ほど、むしろ読んでほしいです。読み終わる頃にはあなたも、ちょっとしたことですぐキレる、中二病マインドあふれる素敵な大人になれるかもしれません。
(文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん)