いかにして職業はジェンダーを帯び、それが「女」だと権威が減るのか

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著:Sarah Thebaud(カリフォルニア大学サンタバーバラ校 Associate Professor of Sociology)、Laura Doering(マギル大学 Assistant Professor of Strategy and Organization)

 「わたしボスぶってるんじゃなく、実際にボスなの。」

 #banbossy(ボスぶってると言わないで!)キャンペーンをサポートする動画で、ビヨンセ氏は宣言する。このキャンペーンでは、男の子が何かを仕切ると「リーダーシップがある」と称賛されるのに、女の子が同じことをすると「生意気だ」と怒られやすい現状をクローズアップしている。

 これはしかし大人にとっても重大問題だ。学術調査やメディア報道を見ると、ジェンダー・ステレオタイプ(男女それぞれに対する画一化された見方)が女性リーダーにどれほど不利益をもたらすかという実例で溢れている。女性管理職は、部下たちから相応の敬意をもって扱われない傾向にある。

 男性が他人に命令すると、積極的で有能だと見なされる。しかし女性が他人に命令すると周囲から嫌悪感を持たれ、不愉快だ、生意気だ、などと言われることもしばしばだ。

 私たちの最新の研究は、この話題に新たな知見を付け加える。それは、「ジェンダー偏見は、女性のみならず男性にも不利益を与える」というものだ。なぜか? 世間はただ単に男・女をステレオタイプに扱うにとどまらず、職業もステレオタイプに扱うからだ。

◆消防士と看護士
 経済社会の多くの職業はジェンダー・ステレオタイプされている。たとえば消防士は男の仕事と考えられているし、看護は女の仕事と見なされている。

 これまでの研究で、男性・女性が特定の職務に適するかどうかの期待を形づくるこれらのステレオタイプは、雇用の結果に大きな違いをもたらす点で、きわめて影響力が強いことがわかっている。たとえば仮に、とある男性または女性がある仕事に応募した場合、まずもって雇用されるかどうかという部分、次には、その人が受け取る給与額、そしてその後の昇進を左右する業績評価にまで、この影響が及ぶ。

 しかし、まずもってこれらのジェンダー・ステレオタイプは、いつ、どの時点で職業に付着してくるのだろう? また、そういった固定観念が、ある職務に携わる男性または女性に付与される権威と尊敬のレベルに、どの程度影響するのだろうか?

◆職業が、いかにしてステレオタイプ化されるか
 これらの疑問に答えるため、私たちはジェンダーイメージが曖昧な職種である中米のマイクロファイナンスのローン・マネージャーを対象に研究を行った。

 当地域において、そもそもマイクロファイナンスのローン・マネージャーという仕事自体が新しいものであり、そこで働く労働者の男女比は均衡している。強度にジェンダー・ステレオタイプされた消防士や看護士と違って、私たちが今回研究対象にとりあげたマイクロファイナンス・バンクのローン・マネージャーの男女比は、ほぼ1:1だった。

 商業マイクロファイナンスというビジネスの性質上、そのマネージャー職のジェンダーイメージは比較的曖昧だ。マイクロファイナンスは、伝統的に「男の仕事」と見られている金融業界に関連していると同時に、一方では社会奉仕と貧民救済の系譜とも繋がっており、こちらは「女の仕事」と見られがちな活動領域である。

 また、今回の調査地域においては、ローン・マネージャーという役職自体が、できてからまだ10年未満の役職だ。したがって、クライアントが「この役職は男の仕事」あるいは「女の仕事」という強い先入観を最初から持っている可能性はきわめて低い。

 今回私たちが焦点を当てた銀行のローン・マネージャーは、ひとりのクライアントから別のクライアントへと、頻繁に配置換えになる。この、ほぼランダムに近いシャッフリングのおかげで、男性のローン・マネージャーが担当した時と、女性マネージャーが担当した時との、クライアントの返済行動の違いを観察することができた。たとえば借り手であるクライアントが、最初に男性マネージャーと組み、そのあと女性マネージャーに担当替えになったとする。この切り換えプロセスにおける唯一の変更要素がマネージャーの性別であった場合に、クライアントの返済率がどう変化するか、調べることが可能となる。

ローン・マネージャーが女性の場合、借り手が期限通りに支払わない傾向が強まる Kittisak Jirasittichai / Shutterstock.com

 私たちは、借り手の支払不履行率を、クライアントが担当マネージャーに付与した権威レベルを示す尺度とみなし、検証を行った。時間経過に従って順当に支払いを履行することはつまり、クライアントがローン・マネージャーの権威を正当と見なし、その指示に従うべきだと考えていることを意味する。その逆に、支払い不履行は、クライアントがマネージャーに対する支払い責任をもう少しゆるく感じているサインだと考えられる。したがって借り手が支払いを履行しなかった場合には、マネージャーがクライアントにルールを守らせる能力の不足、すなわち権威の不足が示唆される。

 私たちは、たった一度の折衝だけでも、クライアントがこの職種にジェンダーを割り当て、その性別に応じて支払い行動を変化させるという事実を発見した。要するに、ローン・マネージャー職が「女の仕事」と見なされた瞬間に、その権威が目減りするのだ。クライアントの最初の担当マネージャーが女性だった場合、最初に男性マネージャーと組んだクライアントとの比較において、返済が滞る傾向にあった。その後に男性マネージャーに担当が変わってもこの延滞傾向は変わらず、所得額やローン額など、返済に影響しうる他の要因を考慮しても結果は同じだった。

 「ローン・マネージャーは女の仕事」という認識を持つクライアントを担当した男性マネージャーは、「男の仕事」と認識するクライアントを相手にした場合と比べ、特に大きな不利益をこうむった。

 最初に男性のローン・マネージャーが担当したクライアントは、次に担当になった別の男性マネージャーの指示に対しても非常に忠実だった。しかし、最初に女性のローン・マネージャーと組んだクライアントは、そのあと担当した男性マネージャーに、格段に少ない権威しか認めなかった。また、そういったクライアントたちは、最初に男性のローン・マネージャーがついた顧客の場合と比べ、返済ルールを遵守する度合いが明らかに低かった。

元Yahooの社長兼CEOのマリッサ・メイヤー氏は、メディアが自分の仕事をジェンダーの色眼鏡を通して報道していると非難した Giorgio Montersino / Flickr

◆職業のジェンダー付けは、誰にとっても有害
 ジェンダー・ステレオタイプがひとつの職業に付加されると、その役職で働く男女が本来持つべき権威が不当に減らされる。かくして、以前女性が務めていた役職についた男性は、そこで好ましくない影響を実体験することになる。

 今回の調査結果から、世間が「男の仕事」とみなす管理職に男性が就くと、彼は顧客に対して相応の権威を持つことができるが、「女の仕事」と見なされている管理職に就くと、彼が本来持つべき権威はそれよりずっと少なく見積もられる、という事実が示された。

 別の言い方をすれば、「女の仕事」というステレオタイプ化、男性よりも女性の権威が低いという社会の偏見―― この二つの組み合わせは、男女を問わず我々全員に有害だということだ。私たちの研究はそのように示唆している。

 理想としては、各自がそれぞれの能力に最も適した仕事に励み、権威ある地位にある人には、男女を問わずその地位に見合った尊敬が与えられる―― そんな世界に住みたいと、私たちの誰もが願っている。もしも一般的なジェンダーイメージと逆の立場で働く男性・女性の両方を、社会全体でサポートすることが可能になれば、各自が勝手気ままに古臭いジェンダー・ステレオタイプを当てはめて一部の労働者を過小評価することは、今よりはるかに少なくなるだろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac