名門アヤックス復活を支えるアカデミーの育成改革

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昨シーズン、21年ぶりに欧州カップ戦の決勝に駒を進めたアヤックス。快進撃を支えたのは17歳のオランダ代表CB デ・リフトや19歳のデンマーク代表FWドルベリら生え抜きの若手たちだった。いよいよ今週末に開幕を迎える17-18シーズンのエールディビジの勢力図を占う上でも知っておくべき、名門復活を導いた育成改革の秘密についてアヤックスに在籍している白井裕之氏に聞いた。

インタビュー・文 浅野賀一(月刊footballista編集長)

前倒しの育成
成長すれば上のカテゴリーに上げるオーダーメイドの育成プラン

──17歳のCBデ・リフトのオランダ代表入りが象徴ですが、名門アヤックスの復活は育成の成功が大きいのでしょうか?

「若手にチャンスを与えるアヤックスのカルチャーは昔から変わっていません。変化したのはヨーロッパサッカーの環境です。95年のボスマン判決以降、EU内での移籍が自由化しお金を持っているクラブが自由に選手を買えるようになりました。この間もスナイダー、ファン・デル・ファールト、デ・ヨンク、ハイティンハなどの才能を育ててきましたが、20歳前後ですぐに引き抜かれてチームは再構築を迫られる。その繰り返しでした。そこでアヤックスが考えたのは、10代でトップチームのレギュラー定着を目指す前倒しの育成です。それによって、1年でも長くトップチームでのプレーが可能になりました。17歳で主力に定着したマタイス・デ・リフトやユースティン・クライファートはその象徴です」

──具体的には、どう“前倒し”するのでしょう?

「各年代のチームを母体とした育成ではなく、個人にフォーカスした育成に舵を切りました。チームを勝たせるためではなく、あくまで個人の能力を伸ばす。メディカル、パフォーマンス、テクニカルという3つの部門が選手をサポートし、成長すれば上のカテゴリーに上げる。選手に合わせたオーダーメイドの育成プランと言えますね。体の成長やプレーのレベルも考慮して、その選手の成長にとって一番いい負荷を与えられる試合に出させる。17歳のデ・リフトを例に取ると、彼の昨シーズンのスタートはU-19でした。いきなり飛び級だったので、当時からクラブ内では話題でしたね。U-19のリーグやUEFAユースリーグでプレーし、シーズン中にヨング・アヤックス(オランダ2部に所属)と呼ばれるサテライトに昇格。この時点ではU-19のUEFAユースリーグとサテライトの公式戦に出ていたと思います。そして、トップチームにも参加するようになり、CBのレギュラーとして定着。アヤックスのレギュラーになればオランダ代表は当然という流れです」

──同年代のクライファートJr.はどうですか?

「デ・リフトとクライファートは同じ世代で、14歳の頃に一緒に写っている写真があるのですが、片や180cm、片や140cmくらいしかなかった。おそらく2人の間には生物学的に見て、3、4歳の差があるんだと思います。デ・リフトは8月生まれで早生まれということでもないので、単純に成長が早いのでしょう。クライファートの場合はU-17スタートでしたが、デ・リフトと同じように段階的にカテゴリーを上げて行き、トップチームのウイングのサブまで来ました。最近のアヤックスにはいなかったレベルの図抜けたウインガーです」

――おっしゃるように成長には個人差があるので、年齢だけではくくれない。どうやって成長を観測するのでしょうか?

「アヤックスの改革は『プラン・クライフ』という名称の通り、10年ほど前にクライフが帰って来た時に始まりました。クライフはサッカー以外の分野のエキスパートを連れて来て『アヤックス・ラボラトリー』という組織を設立し、各分野のパフォーマンスを客観的数値として出せるようにしました。現在は『プラン・クライフ』は終わってしまいましたが、その流れを継承しつつ実行と改善を繰り返しています」

──現在トップチームの半分ほどはアカデミー出身者ですよね?

「そうですね。主力の約半分はアカデミー出身ですね。デ・リフトやクライファートは10年近くアカデミーにいますし、19歳のデンマーク代表FWのドルベリも1年半はアカデミーに在籍していました。彼はちょうど私がアカデミーのアナリストをしていた時の選手で物静かなのですが、初めて彼のシュートを見てみんなびっくりしました。“イブラヒモビッチの再来”と期待されている大器です。もう一人、まだレギュラーではないですが20歳のヌーリも覚えておいてほしい逸材です。こちらはイニエスタにたとえられる天才肌のプレーメイカーで、2部のMVPを獲得しています(編注:ヌーリは7月のプレシーズンマッチの試合中に倒れ脳を損傷、選手としての再起は難しいと診断されてしまった)。ファン・デ・ベークという同期の選手ともども、移籍の噂があるクラーセン(編注:エバートン移籍が決定)の後釜として期待されています。クラーセンも10代前半から所属するアカデミーの生え抜きなので、理想的な世代交代ですよね」

──24歳まで主力としてプレーしたクラーセンはアヤックスにとっては功労者というわけですね。

「有望株が買われるのは避けられないのでデビュー時期を早めて活躍期間を延ばすというのが前倒しの育成の目的です。10代後半にデビューし、3 〜5シーズンはプレーして次世代に入れ替わるというサイクルを確立できれば、今までのようにウィンターブレイク前に欧州カップ戦が終わるのではなく、その先にまで進めるようになるかもしれません」

スカウティングの変化
日本人がアヤックスでプレーするのもそう遠い未来ではない

──アヤックスは国内外でどのようなスカウティング体制を採っているのでしょうか?

「まずトップとアカデミーのスカウトは別々です。今トップのスカウトはルイス・スアレス(現バルセロナ)をオランダに連れて来たヘンク・フェルトマーテが務めています。彼の下に10人のプロスカウトがいるという体制です。一方、アカデミーのスカウトはパトリック・ラドリューという責任者の下に10人のフルタイムのプロスカウトがいて、さらに国内の各州に5人のボランティアスカウトのコーディネーターがいます。彼らにはシーズンカードや試合チケットをプレゼントすることで、アヤックス・ファミリーの一員になってもらっています。膨大な人数に協力してもらっている国内のスカウティングがあるので、少しでも光る才能が出てくれば必ずどこかで網にかかります。国外にもデンマークなどの北欧諸国には2人ずつスカウトを置いています。特にデンマークにはエリクセン(現トッテナム)やドルベリを発掘したスーパースカウトがいますね。他にもドイツ、ベルギー、チェコなどにも専属スカウトがいます」

──なぜ、北欧諸国を重視するのでしょう?

「デンマーク、アイスランド、フィンランドは生活圏が近いので、ホームシックになりにくく、適応しやすいからです。とはいえ、最近は南米やアジアにもターゲットを広げています。昨季トップのレギュラーCBに定着したダビンソン・サンチェスはコロンビア出身の21歳で、すでにビッグクラブから強い関心を持たれている存在です。20歳のブラジル人FWネレスは先行投資の意味合いが強いですが、かなりの移籍金を積んで獲得しています」

──アジアもターゲットなんですか?

「アヤックスのスカウトはよくアンダーのスペイン代表やベルギー代表の試合をチェックしに行くのですが、そこで日本や韓国のチームがここ数シーズンの間に勝ってしまうことがよく起きているんです。クラブ内でアジアの若手への評価は上がっています。即トップ契約となると年俸4000万円が最低額になるのでリスクが高いですが、アカデミー契約ならば南米の若手と同じようにアジアの若手も狙っています。日本人がアヤックスでプレーするのもそう遠い未来ではないのかもしれません」

 
■プロフィール
Hiroyuki SHIRAI
白井裕之
(オランダ代表ナショナルチームU-13・14・15Futureゲーム・ビデオ分析アナリスト)
1977.7.10(40歳) JAPAN

18歳から指導者としての活動をスタート。アヤックスのサッカーに魅了され、指導者ライセンス取得を目指し2001年にオランダへ。アマチュアクラブで13歳から19歳までのセレクションチームの監督を経験した後、11-12シーズンにアヤックスのアマチュアチームにアシスタントコーチ兼ゲーム・ビデオ分析担当者として抜擢される。13-14からはアヤックスアカデミーに籍を移し、現在はオランダ代表ナショナルチームU-13・14・15 Futureゲーム・ビデオ分析アナリストを兼任する。

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Photos: Bongarts/Getty Images, E-3