セルフィーでパシャり

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お待たせしました! 46歳のバツイチおじさんによるノンフィクション巨編「世界一周花嫁探しの旅」、3か月ぶりの再スタートです。すでにお気づきかと思いますが、この旅日記連載には多少のタイムラグがあり、現在バツイチおじさんは旅先で体調不良を起こし、現地にてしばらく静養中だったのです。しかし、皆さんからの熱い声援もあり、体調もやっと快方に向かいつつあるので、前回の続きからまた執筆を再開することになりました。

さて、ヨガの総本山「アシュラム」で煩悩にまみれながらも己と向き合い、ヨガ美女るりちゃんへの一途な想いに気づいたバツイチおじさん。今回、ついにアシュラムを出てるりちゃんとの二人旅がスタートします。南インドを舞台に繰り広げられるバツイチおじさんの中年恋物語、果たしてこの恋は成就するのでしょうか? るりちゃんとの出会いが綴られている第36話までさかのぼって読んでいただけると、このズンドコ珍道中がより深い味わいを与えてくれること請け合いです!

【第40話 蘇る親友からの言葉】

初恋の人に似たヨガ美女のるりちゃんを追いかけ、入門した南インドの山奥にある「シヴァナンダ・ヨガ・アシュラム」。数週間に及ぶ朝5時から夜10時までの厳しいヨガ修行で、最難関のヘッドスタンディングを含む太陽礼拝がなんとかできるようになった。そこで、ヘッドスタンディングの練習を手助けしてくれたるりちゃんに、俺は完全に恋に落ちてしまった。やがて修行が終わり、るりちゃんを誘って一緒にヒンドゥー教の聖地であるカニャクマリまで旅をすることになった。

アシュラムに預けていたお金やパスポートを受け取り、るりちゃんとアシュラムの階段を降りた。一人で来た時はあんなに不安だったこの階段。まさか帰りに愛しのるりちゃんと一緒に降りることになるとは……。俺は心の中で小さくガッツポーズしながらお世話になったヨガアシュラムを後にした。

俺「あ、あそこにリキシャがいる。荷物重いからバス停まであれに乗ろうか?」
るり「いいですね」

リキシャのところに行き、俺は話しかけた。

リキシャ「どこに行くの?」
俺「バス停まで10ルピーでお願いできる?」
リキシャ「30ルピー」
俺「ありえねー、10」

いつもインドの交渉が始まった。そこまで悪いドライバーではなさそうだ。

リキシャ「バスでどこまで行く?」
俺「トリヴァントラムまで出て、その後、カニャクマリまで行くつもり」
リキシャ「……そうか。今日は暇だからカニャクマリまで700ルピーで連れていってあげるよ。悪くないだろ?」
俺「500」
リキシャ「うーん。じゃあ、600でいいよ」

カニャクマリとはコモリン岬にある南インド最南端に位置する小さな街で、アラビア海、インド洋、そしてべンガル湾という三つの海が交わる極めて特異な地理を持つ場所。そこは、南インド最大のヒンドゥー教の聖地で、敬虔なヒンドゥー教徒たちが巡礼に訪れる重要な宗教都市である。
ここから南インドの最南端のカンニャクマリまで600ルピー(約900円)。二人で割れば一人450円。20キロのバックパックを背負い、気温40度の灼熱地獄を歩くのを考えると悪くない選択だ。

俺「600でカニャクマリまで行ってくれると言ってるんだけど、どう?」
るり「ごっつさん、それは安いです。それで行きましょう」

こんな感じで、るりちゃんとのなんとも甘酸っぱい3時間のリキシャ2人旅が始まった。

アシュラムではなかなか会えなかったるりちゃん。
今は手を伸ばせばいつでも手が届く距離にいる。
それにしても隣に座るるりちゃんの横顔、可愛いすぎるぜ。

⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1377463

るり「わー、ジュラシックパークみたい!」

最南端に位置するカニャクマリに近づいた頃には、木々の葉っぱが大きくなり、街並みもカラフルになっているようにも感じた。そこはまさに南国の様相だ。

カニャクマリに到着すると、20キロを超えるバックパックを担いで歩き始めた。

俺「これ、暑すぎて死ぬ〜」
るり「これはヤバイです」
俺「そう考えるとアシュラムは山の上だったからから涼しかったね」

気温はどう考えても40度を超えてるように感じた。昼間の強すぎる日差しの中、少し歩いただけで滝のような汗が吹き出る。
とりあえず、2人で安宿を探すことにした。あまり良い宿にこだわってると暑さで死んでしまいそうだ。
少し歩くと、海辺から少し離れたところに一泊600ルピーの宿を見つけた。

俺「すみません、今晩泊まれます?」
宿主「2人一緒の部屋でいい?」
俺「………………」
るり「………………」

るりちゃんの沈黙が気になる。
俺は彼女に気づかれないよう、唾をゆっくり飲み込んだ。
本当は一緒に泊まりたい。
これはまたとないチャンスだ。
しかし、るりちゃんはどう考えてるんだろうか。
沈黙が続く。
俺はまた唾をさらにゆっくり飲み込む。
宿主もなぜか唾をゆっくり飲み込む。

俺「…………」

るりちゃん、もしかして……。
この沈黙は、「おまかせ」ってこと?
ごっつにおまかせってこと??
……いやいや、そんなわけないか。

俺「別々の部屋でお願いします。ただし、隣の部屋ね」
宿主「オッケー」

ここは男らしく、隣り合わせの部屋を申し出た。隣同士でも充分だ。いや充分すぎる。

部屋に荷物を置き冷たいシャワーを浴びると、2人で街を散歩することにした。
カニャクマリは南インド最大のヒンドゥー教の聖地だけあって、街全体に巡礼者が溢れかえっていた。金持ちそうなインド人から物乞いまでいろんな人種がごった煮状態になっており、さまざまな建築様式のヒンドゥー寺院があったりと面白い。出店も多く、宗教ビジネスも発達しているようだ。

るり「ごっつさん、舟乗りません?」
俺「舟?」
るり「浮島があって、有名なヒンドゥーの宗教家のヴィヴェーカーナンダさんのお墓があるんです。瞑想する場所としても有名らしいですよ」
俺「へぇー。行ってみよう」

港に着くと荒波に浮かぶ一艘の舟があった。2人でそれに乗り込み、ヴィヴェーカーナンダの墓に向かうことにした。海はかなりの荒波だ。

 俺は舟に飛び乗ると、るりちゃんを手招きした。

るり「ひゃー、怖い!」

俺はさりげなくるりちゃんに手を差し出した。
るりちゃんはそんな俺を無視して舟に飛び乗った。
……まぁ、先は長い。
俺は出した手をるりちゃんに気づかれないようそっと元に戻した。

そのまま船はヴィヴェーカーナンダの墓のある小島に向かった。荒波にもかかわらず多くのヒンドゥー教徒もその島を目指していた。

しばらくすると小島に到着し、舟を降りた。

るり「暑い……ですね」
俺「うん、暑すぎる……」

時刻は13時を少し過ぎたくらい。一番暑い時間帯だ。太陽は俺たちを燦々と照り付けて、日差しが痛い。体感温度は45度を超えていた。

俺「とりあえずお墓のある建物に行って、日陰に入ろう」

2人はヴィヴェーカーナンダの墓のある寺院に向かった。すると、

守衛「ここから先に入るなら靴を脱いで裸足になりなさい」

どうやら靴を履いてヒンドゥーの寺院に入るのは厳禁らしい。さすが宗教の聖地だ。
しかし、直射日光を浴びた石畳は燃え盛る鉄板の上を歩くぐらい熱い。
2人は仔鹿のように飛び跳ねながら何とか寺院のある建物へ到着した。

その時、とんでもないミスに気づいた。

俺「あ! やばい。水持ってくるの忘れた」
るり「え! ……私もです」

あたりを見渡しても売店らしきお店は一軒も見つからない。そりゃそうだ。ここは聖なる場所の境内なのだから。

俺「まぁまぁ、何とかなるでしょ!」

その後、俺たちは小島にある観光地を回り、写真を撮りまくったりと、はしゃぎまくった。調子に乗った2人は汗びっしょりになった。

俺「あれ。やばい。ふらふらする」
るり「大丈夫ですか?」
俺「そういうるりちゃんも、疲れてます!って顔してるよ」
るり「えー。でも、喉カラカラです」
俺「とりあえず、隣の島のティルヴァッルヴァル巨像がある岩に行こう。あっちに水、売ってるかもしれないし」

2人はまた裸足で仔鹿のように飛び跳ねながら境内を出て、ボートに乗り、タミル文学の詩人であるティルヴァッルヴァル巨像のある岩へ向かった。

るり「お水ー、お水ー。どこにも売ってない」
俺「やばい、目の前に蚊みたいのが沢山現れてきた」

脱水症状のせいなのか、足はすでに痙攣していた。
目もチカチカしてきた。これは結構なピンチだ。

るり「ごっつさん、見てください! 子供がアイスクリーム食べてる!!」
俺「本当だ!」

駆け足でインド人の子供の元へ駆け寄った。

俺「それ、どこで買ったの?」
子供「あっちの売店で売ってるよ」
俺「ありがとう! あっちに売店があるみたい。行ってみよう」

2人は駆け足でそれらしき建物へ向かった。

俺「あった! アイスクリームも売ってる」
るり「本当ですか!? アイスクリーム、食べたい!」

2人は1リットルの水を買い、一気飲みした後、俺はイチゴ味、るりちゃんはバナナ味のアイスクリームを注文した。

るり「冷たくておいし〜い」
俺「生き返る〜。このアイスクリーム、人生で一番美味しいかも」
るり「私もです!」

こうして、ある意味命がけのヒンドゥー教の聖地巡礼が終わった。
2人でピンチから脱出したせいか、なんだかその距離感がぐっと縮まったように感じた。

るり「ごっつさん、私、お花買いたいです」
俺「お花?」
るり「ジャスミンの白い花、ヒンディー教徒の女性が髪につけてるんですけど、すごく可愛いんですよ」
俺「へぇー」

その後、るりちゃんは海岸近くのヒンドゥー寺院のおみやげ屋さんと上手に交渉し、白いジャスミンの花でできた髪飾りを買った。

るり「ごっつさん、髪にお花を飾り付けるの手伝ってもらっていいですか?」
俺「え? いいよ。もちろん」

るりちゃんは上手な手さばきで黒髪に白いジャスミンの花を飾った。
そして後ろを向き、どう花を飾るかの指示を出した。
こんな近い距離でるりちゃんを見るのは初めてだ。
後ろ姿の無防備なるりちゃんがとても愛しく感じた。

るり「どうです? ごっつさん」
俺「すごく綺麗だし、よく似合ってるよ」
るり「ありがとうございます。一度ジャスミンのお花、つけてみたかったんです」

また2人の距離が縮まったように感じた。

俺「沐浴見に行かない?」
るり「行きたーい。りー、楽しみにしてたんです」

ん!?
りー??

るり「ピーナッツ売ってる〜。りー、もうお腹ペコペコ」

また、「りー」って言った。
そうか、るりちゃんは自分のことを「りー」って呼ぶのか。
アシュラムまではずっと「私」って呼んでいたのに。
花飾りをつけてあげてから、急に俺の前で「りー」って言うようになった。
俺に大分、心を許してきたのかな?

これは……
もしかして……
もしかしてもしかして……
久々に言うけど…………

「いけるかもしれない!」

それから二人で、アラビア海、インド洋、そしてべンガル湾の三つの海がちょうど交わる場所にある沐浴場に着いた。
岩場の間にある小さな砂浜に、溢れんばかりのヒンドゥー教徒たちが沐浴をしていた。ある者は一心不乱に神にお祈りを捧げ、またある者は家族と楽しそうに海に浸かっていた。

2人はインドズボンをまくり上げ、水に入った。そして、目をつぶり神様にお祈りをした。こういうとき八百万(やおよろず)の神を持つ神道が身についた日本人は便利だ。どんな神様にも神聖な気持ちでお祈りを捧げられる。

「るりちゃんとの恋が成就しますように」

俺は一心不乱にお祈りを捧げた。

るり「ごっつさん、そんなに長く何をお祈りしてたんですか?」
俺「秘密」

るりちゃんは首を傾げながらクシャリと笑った。
それから2人で夕日を見に行った。

ここカニャクマリが神聖な宗教スポットである理由は、三つの海が交わるということの他にもう一つ理由がある。実はここ、昇る朝日と沈む夕日が同じ海で見れるという世界でも類をみない摩訶不思議なスポットなのである。

俺たちは30分ほど歩き、俺たちは海辺の塔に陣取ることにした。
それから他愛のない話をしながら夕日が沈むのを待った。
やがて、空の太陽が段々と海のほうに落ちてきた。
太陽と海の色が変わり、街全体が神秘的な色合いに変わっていった。
いよいよ日の入りだ。

るり「太陽が大きーい」
俺「本当だ。なんでだろう?」
るり「不思議〜。こんな夕日見るの生まれて初めてかも」
俺「…うん」

もし俺がヒンドゥー教の神様なら、きっと「ここに聖地を創ろう」という気持ちになっただろう。
その太陽や空はゴッホが描く絵のような独特な味わいがあった。
2人は沈みゆく太陽を静かにじっと見つめた。
ロマンティックとはまた違う、経験したことのない空気が2人を包む。
ふと、神様に心をぎゅっと鷲掴みされるような感覚に陥った。
気づくと目には涙が溜まり、溢れ落ちそうになっていた。

俺「……帰ろうか」
るり「……はい」

2人は宿までの道を、あまり会話をせずに歩いた。
空の色は紺碧色で、宇宙にいるような感覚を覚えた。
やがて2人の会話は完全になくなり、黙々と歩くだけになった。

宿に到着し、るりちゃんとしばしのお別れをすると、電気もつけず一人でごろりと横になった。
そして、天井を見上げながら、ふとこの旅について考えてみた。

「世界一周花嫁探しの旅か……。何やってんだろう、俺……」

旅をする前に博多の屋台で飲んだ、中学高校と同じバスケ部の親友、中道の言葉を思い出した。

中道「あ? 世界一周花嫁探し? 調子乗るなよ。そんなブログを見た奥さんの気持ちも考えろ」

静かに目を閉じた。
時の流れを感じた。
時はランダムなピアノ音を立てながら移ろっている。
やがて、ピアノ音は消え、俺は静寂に包まれた。

「……最低だな、俺」

その時、ドアをノックする音が聞こえた。
俺はベッドから飛び起き、ドアを開けた。
ドアの向こうには笑顔のるりちゃんが立っていた。

るり「ごっつさん、お腹空きません?」
俺「……う、うん。すいた」
るり「ご飯行きましょうよ」
俺「そういえば、朝からほとんど何も食べてないね」

夜の街に繰り出すと、街は巡礼者たちでごった返していた。まるでお祭りの夜のような喧騒だ。どの食べ物屋さんも多くの人で溢れかえっている。

るり「ごっつさん、屋台で何か買ってお部屋で食べません? 疲れちゃって、あの人ごみの中で食べるパワーないです」
俺「いいよ。今日、クソ暑いなか散々歩いたもんな」

2人はインドの軽食であるサモサやドーサカレーなどを買い、宿に戻った。

俺「るりちゃん、俺の部屋で食べる? 共用スペースないもんね」
るり「はい。5分後にお部屋に行きます」

俺は脱ぎ捨てられたTシャツやタオルなどをバックパックの中に押し込んだ。そして、テーブルに買ってきた食べ物を並べた。

中道「あ? 世界一周花嫁探し? 調子乗るなよ。そんなブログを見た奥さんの気持ちも考えろ」

またもや中道の言葉が頭によぎった。

俺「うるせー中道! もう別れたし、捨てられたんだよ、俺は!」

気持ちを切り替えるために、部屋でバスケのフリースローの練習をエアーでした。
激しい試合の最中、確実にシュートを決めるには冷静さを取り戻すことが一番の秘訣である。
高校時代何度も部屋でイメージトレーニングをしたものだ。
俺はイメージで2本シュートを決め、最後にダンクシュートを決めた。
もちろん、167センチしかない俺にダンクシュートは無理だが、ここは気持ちを切り替えるためスラムダンクをぶち込みたかった。
最後に両手で両頬をビンタし、気合を入れた。

「よっしゃー! やるし(こ)ないんだ!」

すると、なんとかいつもの自分に戻ることができた。我ながら単純な自分が嫌になる。

「今からるりちゃんが部屋に来るんだ。気合を入れないと!」

そうだ、大好きなるりちゃんと部屋で二人っきり。
聖なる街の個室で二人っきり。
聖なる街は毎晩が聖なる夜だ。
そして、聖なる夜は何かが起きる。
何があってもおかしくはない。
そう考えると、めちゃくちゃ緊張してきた。

「コンコン」

ノックの音が聞こえた。

俺「どうぞー」

ガチャリとドアが空き、るりちゃんが部屋に入ってきた。
るりちゃんも少し緊張した面持ちをしている。

るり「わー、ご飯食べる準備してくれてたんですね〜」
俺「うん。まぁね〜」

気まずい雰囲気を打ち消すため、二人ともわざとテンション高めで会話をした。

俺「椅子がないから、ベッドに座って食べよう」

一瞬、ピリピリとした空気になった。

るり「そうですね〜」

それから二人はベッドの上であぐらをかいて座った。

憧れのるりちゃんとベッドの上で二人っきり。
胸がドキドキ高鳴った。
俺は食事なんかそっちのけで、るりちゃんを見つめた。

俺「……るりちゃん」

しかし、ベッドの上のるりちゃんは、

るり「おいしそう〜」

ご飯に夢中だった。
ご飯しか眼中になかった。

そりゃそうだ。今日は移動もして、島巡りをし、日が暮れるまで歩き続けた。
しかも、朝からろくな物を食べていない。

「るりちゃんはきっと、腹ペコなんだ!」

そう考えると俺も急にお腹が空いてきた。

2人「いただきま〜す」

俺はサモサに、るりちゃんがカレードーサに食らいついた。

俺「うまい!」
るり「おいしい〜」

あっという間にすべてを平らげた。お腹が収まると、ヨガアシュラムのこと、日本での仕事の話、将来の話など2時間ほど話した。

るり「ごっつさん、明日の朝、日の出見に行きますよね?」
俺「もちろん。カニャクマリに来て、日の出を見ないはないでしょう」
るり「じゃあ、明日も早いんで寝ますか。4時半起きですよ」
俺「そ、そうだね」
るり「じゃあ、部屋に戻りま〜す」
俺「……うん、おやすみなさい」
るり「おやすみなさ〜い」

そう言うとるりちゃんは爽やかな笑顔で部屋に戻って行った。

「せっかくのチャンスだったのにな……。う〜ん」

その夜は疲れてるのにもかかわらず、なかなか寝付けなかった。

翌朝4時30分。

るり「ごっつさーん、起きてますかー? 朝ですよ〜」

ドア越しに聞こえるるりちゃんの声で目が覚めた。
嗚呼、なんて幸せなんだ。

俺 「今、起きた〜! すぐ用意する〜!」

速攻で着替えをした。男は楽でいい。
今日は朝陽を撮影するため、インドのバンガロールで再購入したカメラを用意した。カニャクマリの景色はインドの他の街とは全然違い、ディレクターとして「撮りたい」という欲求を想起させる。そして、この街に溶け込むるりちゃんをどうしてもカメラに収めたかった。

るり「すごい人ですね」
俺「お祭り並みの人だね。ここに着いてから一番人がいるかもね」

朝陽が出る前のカニャクマリの街はものすごい人だった。全員が早足で朝陽を礼拝する海岸沿いの沐浴場であるガートを目指していた。俺たちも人並みに身を任せ、足早にガートを目指した。

るり「わー、すごい人!」
俺 「すごいね〜」

朝陽を礼拝するガートから、交錯する三つの海を挟み、ヴィヴェーカーナンダの墓とティルヴァッルヴァルの巨像が見えた。そこにはものすごい数のヒンドゥー教徒が朝陽を待ちわびていた。すでに海に入り、沐浴を始めている人も多い。巡礼者を目当てにチャイや軽食を売りに来る人、写真を撮ってお金を取る人などもいた。たくましいインド人の商売人と敬虔なヒンドゥー教徒のコントラストが面白く感じた。

俺たちは朝陽が出るのを温かいチャイを飲みながら待った。そして…

るり「ごっつさん、朝陽です」
俺「おーーーーー!!!」

御来光だ! 金色の朝陽が海を照らした。三つの海がちょうど交わる場所は潮が激しくぶつかり合い、大きな白い波を立てていた。その波しぶきに金色の朝陽が差し込み、幻想的な光景を醸し出している。
ヒンドゥー教徒たちは一斉にお祈りを始めた。波打ち際で沐浴をするカラフルな服を着たインド人たちは、その景観に完全に溶け込んでいた。

俺は太陽に向かい目をつぶった。
ここで、個人的なお祈りはしなかった。
ただ目をつぶり太陽の力を感じた。
いや、感じたかった。

るり「ごっつさん、そんなに長い時間、何をお祈りしてたんですか?」
俺「秘密だよーん」
るり「ふふふ(笑)」

可愛い。
素敵すぎる笑顔だ。
なんて自然な笑い方をするんだろう。
るりちゃんの蒼い洋服と金色の朝陽の光のコントラストが、彼女を一層かわいく見せた。
金色の朝陽を浴びてるからナウシカにも見える。

少女「ひめねえさま、真っ青な異国の服を着ているの。まるで金色の草原を歩いているみたい」
大婆様「おおお……、その者蒼き衣を纏いて金色の野に降りたつべし。古き言い伝えはまことであった」

そうか、るりちゃんは清き心を持つ聖女なんだ。
ナウシカなんだ。
きっと、心が透き通るように綺麗なんだ。
だからあんな自然な笑い方ができるんだ。
俺はるりちゃんを好きになった理由に初めて気づいた。

「そうか、るりちゃんの笑顔には一片の曇りもないんだ」

ずっとお笑いに携わる仕事をやってきた。
25年間お笑いのことだけを考えて仕事をしてきた。
趣味もお笑い番組や舞台の鑑賞。
旅のあいだもずっとTBSの深夜ラジオJUNKをダウンロードして聴いている。
俺はお笑いが好きだ。
ずっと、お笑いのことばかり考えてたからこそ気づくこともある。
人は社会に出ると笑い方が変わる。
媚びた笑いが習性になっている人もいる。
人の暗部だけを見て笑う人もいる。
俺の場合い気狂いっぽい変なとこで不自然に笑ったりする。
笑い方を忘れてしまった人もいる。

皆、高校時代くらいまでは誰もが屈託のない笑顔が自然とできていたはずなのに。

改めてるりちゃんの笑顔を見た。
るりちゃんは笑顔は本当にナチュラルだ。

「好きだな〜、あの笑顔」

一瞬、胸が締め付けられるような想いがした。
だが、その瞬間、自分の中に変な感情が湧いてきた。
いや、これはきっと俺の中の煩悩であり欲望と呼ばれるものだろう。

「俺もるりちゃんから笑いを取りたい」

そのくらいの煩悩、神様も許してくれるだろう。
俺は頭の中を凄まじく回転させた。
そして、ある答えが出た。

俺 「朝陽を見ながら、ヨガの太陽礼拝してくる!」
るり「えーー!(笑)」

よし、ウケた!
るりちゃんが笑った。
素敵な笑顔だ。

俺はサンダルで岩場を歩き、三つの海が交わる場所のほうへ歩いた。
崖沿いの波打ち際に近づいた、その時だった。

空がよじれた。
地球がぐるぐると回った。
時の流れを刻むランダムなピアノ音が、速いリズムで不旋律を奏でながら悲鳴をあげた。
「!?」

何が起きたんだ?
俺「痛っ!」

突然のことでよくわからなかったが、
どうやら岩にダイナミックに滑って半回転したようだ。
急いで起きあがろうとした。しかし、

ジャッポーン!!!

大波が崖際まで到達し、その水しぶきで全身がビショビショになった。
状況が飲み込めなく、俺は一瞬パニック状態に陥った。
なんども焦って立ち上がろうとするも、岩に滑りまくって立ち上がることができない。
周りを見回すと、みんなが大きな声を出している。
ふと遠くを見ると、大波が俺のほうに向かってきていた。

やばい!
このままだと大波にのみこまれる!
立ち上がらないと死ぬ!
焦って立ち上がろうとするも、濡れたサンダルと岩ではまったく立ち上がることができない。
やばい。
今度こそ正真正銘のピンチだ。

インド人「俺の手に掴まれ!」

インド人2人が俺の元に駆け寄り助けに来てくれた。
俺は彼らの手を握りなんとか立ち上がった。
そして3人で一目散に走り、波打ち際から離れた。
そこに、大波が到達した。

ジャッポーーーン!!!!!

あぶねーーーー!!!

俺「ありがとう。助かった」
インド人 屮痢璽廛蹈屮譽燹どこから来たの?」
俺「日本です」
インド人◆崢舛靴い福一緒に写真撮って良い?」

さすがインド人、こんな状況でも写真か。
インド人のカメラでセルフィースタイルの3S写真を撮った。
彼らにお礼を言い握手をし、お別れをした。

「るりちゃ〜ん」

全身がビショビショの状態でるりちゃんの元に戻った。

るり「えっ!? ごっつさん、大丈夫ですか?」
俺「岩が滑って、全然立てなくって、大きな波が来て、とにかく大変だった。見てた?」
るり「遠くのほうで、ごっつさん急に消えたなーって思ってたんです」
俺「そう、ずっこけてた」

俺はるりちゃんの顔をよく見た。
るりちゃん、全然笑ってない。
むしろ引いてる。
正真正銘のドン引きだ。
とにかくまったく笑ってない。

るり「怪我はないですか?」
俺「たぶん。少し擦りむいたぐらい」

かっこわりー!
なんでいつも肝心な時にこうなんだ……。

るり「ごっつさん、カメラ……」
俺「あーーー!」

スリランカで盗まれ泣く泣くインドのバンガロールで購入したデジタルカメラが、岩に打ちつけたらしく、半分がぐちゃぐちゃになっていた。ついでに波に濡れてビショビショの状態だ。

俺「壊れた……。うんともすんとも言わない」
るり「…………」

俺は苦笑いを浮かべながらるりちゃんの顔を見た。
るりちゃんは哀れみの表情を浮かべていた。

俺「神様がもうこの旅で写真を撮るな!って言ってるんだと思う。これ、何かのメッセージだよ」

本来、無心でお祈りをするべきヒンドゥー教の聖地・カニャクマリの日の出。
そこで、「るりちゃんにウケたい」というよこしまな気持ちを吐露してしまったばかりに受けてしまった神様からの手厳しい洗礼。この旅で花嫁になる女性を撮るためのデジタルカメラというまさに「煩悩のカタマリ」をも神様は破壊してしまったのだ。

ふと、元嫁との結婚式の時の神父の言葉を思い出した。

神父「演出家は結婚式を演出してはいけない」

俺は元嫁との結婚式のときに、神父からこう言われた。
ディレクターである俺は新郎の立場に専念し、式を演出しようとしてはいけないと。
思えば、「花嫁を探しながらそれを連載に書く」ということ自体、自分自身や恋愛をどこか客観的に見ている。
そして、冷静にカメラに収めている。
俺はいま休業中だが、テレビのディレクターだ。
旅の始まりに「仕事をしたくない」という理由でカメラを置いてきた。
カメラを持つと、俺は仕事の鬼になり、人の気持ちも考えずズケズケと被写体に近づいていく。

「良い画が欲しい! もっと強い画が撮りたい!!」

撮られる側にとっては、はた迷惑な話だ。
ふと気づいた。
カメラを置いたとしても、この連載を書き続けてる限り、同じことをやっているのも同然だ。
常に人を観察してしまっている。

バスケ部の親友、中道の言葉がまた脳裏をよぎった。

中道「あ? 世界一周花嫁探し? 調子乗るなよ。そんなブログを見た奥さんの気持ちも考えろ」

さすが親友。俺の心の奥にある陰部を一瞬で見抜いていた。
元嫁だけではない。この旅で出会った女性はどんな気持ちで俺を見ていたんだろう?

「最低だな、俺」

そんな俺を見るるりちゃんの目は、どこか哀れんでいるかのように感じた。
そして、金色の太陽もまた、冷ややかな目で俺を蔑んでいるように感じた。

次号予告『また自己嫌悪に陥ったバツイチおじさんに最後の試練が!? るりちゃんとの恋の結末、すべて書きまくります』を乞うご期待!

●後藤隆一郎(ごとうりゅういちろう)
IVSテレビ制作(株)のADとして「天才たけしの元気が出るテレビ!」(日本テレビ)の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」「トリビアの泉」「学べる!ニュースショー!」など数々の番組制作に携わる。現在はディレクターを休業し、「大体1年ぐらい」という期間限定で花嫁探しの旅に一人で挑戦中。バツイチ、46歳、通称ごっつ。ツイッターは@ikirudakesa インスタグラムはryuichirog

― 英語力ゼロの46歳バツイチおじさんが挑む「世界一周 花嫁探しの旅」 ―