体内で分泌される、ある種の生殖ホルモンに対する抗体療法が、体脂肪の大幅な減少と骨量の増加を促すことが米国の研究チームによって発見され、科学者の間で大きな関心を呼んでいる。

●“Researchers Track an Unlikely Culprit in Weight Gain” The New York Times, AUG. 7, 2017

上記NYT記事によれば、この研究はあくまでマウスを対象にした実験だが、その効果があまりにも劇的であったため、研究チームは早速これを人間に応用する取り組みを始めたという。もしも成功すれば、従来とは全く異なる肥満治療薬につながると期待されている。

肥満を誘発するホルモンを発見

研究を行ったのは、米マウントサイナイ医科大学のMone Zaidi教授らの研究チーム。彼らは脳下垂体から分泌される「F.S.H.(卵胞刺激ホルモン)」に着目した。このホルモンはその呼称に「卵胞」とあるので、女性に特有のホルモンと思われがちだが、男性でも分泌される。

卵胞刺激ホルモン〔PHOTO〕wikipedia

以前から、閉経した女性ではこのF.S.H.の分泌量が増加することが科学者の間で知られていた。また同じ時期から、女性の(特にお腹の辺りの)脂肪量が増加し、骨量が減少し始めることも一般に知られている。ただし両者の相関関係はこれまで証明されていなかった。

そこでZaidi教授らの研究チームは、このF.S.H.を抑制する抗体をマウスに投与したところ、骨髄の健全化と同時に、体脂肪の大幅な減少や骨量の増加が確認された。その効果があまりにも劇的であったため、これを俄かに信じ難かったZaidi教授は追試の必要性を感じ、米メイン医学研究所の科学者らに追試実験を要請した。

ここから2年半の歳月をかけ同様の実験を実施したところ、彼らもZaidi教授らの研究チームと全く同じ結果、つまり「(マウスの)脂肪の大幅減少と骨量の増加」という実験結果に辿り着いた。

さらに、この抗体療法を受けたマウスは、酸素消費量や身体活動が増加することも確認されたという。つまり活発に動く身体へと、ある種の若返り現象を見せたのである。

彼らは今年5月、この研究成果(http://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/11910)を英国の科学誌ネイチャーに発表したところ、大きな反響を呼び、その後も著名科学誌に次々と関連の論文が発表されたという。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcibr1704542

http://www.cell.com/cell-metabolism/abstract/S1550-4131(17)30441-2

これまでの治療薬との違い

とはいえ、マウスによって確かめられた実験結果が必ずしも人間に適用できないことは、科学界ではよくある事だ。それでも今回の研究成果が科学者の間で並々ならぬ関心を呼んでいるのは、従来と全く異なる根本的な肥満治療薬につながる可能性があるからだ。

これまでの肥満治療薬は、むりやり人間の食欲を減退させたり、栄養の吸収を阻害することを目的としてきたが、その効果には限界があり、副作用を生じることもあった。

これに対し、今回発見された生殖ホルモンへの抗体療法は、従来の不健全なアプローチに頼ることなく、自然かつ効果的に体脂肪を減らすと期待されているのだ。

Zaidi教授らの研究チームは現在、マウスで発見されたこの治療法を人間でテストする準備を進めているという。もしも成功すれば、画期的な肥満治療薬が登場することになる。

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