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その昔、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』が話題の三池崇史監督による『忍たま乱太郎』(11)を観た時に、これほどまで成長しない主人公がいたものかと、主人公の成長神話を真っ向から否定しにかかる痛快作に、なるほど確かにたかだか2時間で人間など成長しないものだと再認識した記憶がある。是枝裕和監督の『そして父になる』を観た時も、なかなか成長しない主演の福山雅治を観ながら、映画に成長神話など要らない、とまでは思っていないが、映画の前半でちょっと苦労したくらいで、その後半、突然スーパーヒーローになってしまうのはうそもうそ、と言ってもいいはずだ。その点、今回紹介する『スパイダーマン:ホームカミング』(8月11日公開)の主人公も、そう簡単に成長などしない。そう、ヒーローへの道のりは、超遠いのだ。

日本でもすっかり市民権を得たマーベル・シネマティック・ユニバース(=MCU)に本格参戦するということで、15歳の高校生スパイダーマンとアイアンマンの豪華競演で、2017年最大の話題作と言っていいスパイダーマン新シリーズ『スパイダーマン:ホームカミング』。海外ではスパイダーマン映画として最高のオープニング成績を記録しており、我らが日本市場にも期待がかかるというもの。カンタンに言うと過去のスパイダーマンは一旦置いておいて、15歳の少年=ピーター・パーカーがスパイダーマンを目指して奮闘する物語だ。スパイダーマンの生みの親であるスタン・リーも「(主演の)トム・ホランドはスパイダーマンの役をやるために生まれてきた」などと激賞され、これまでのことがなかったことになっている感も否めないが、MCU的に考えると、とても重要な作品にもなっているのだ。

15歳の少年が主人公なので、新聞社に勤めて、みたいなくだりもなく、主人公のピーター・パーカーは、普通の高校生としてハイスクールライフをエンジョイ中だ。スパイダーマンであるという自分の正体を隠してはいるものの、部活のノリでご近所パトロールの日々を送っている若者で、仲がいいダチにあっさり正体を見られてしまうほど、物語は牧歌的にスタートする。そのピーターの目標は、アベンジャーズの仲間入りをして、一人前の"ヒーロー"として認められることにある。放課後はあこがれのトニー・スターク=アイアンマンにもらった特製スーツに身を包み、街を跋扈するチンピラたちを成敗する日々を送るが、ある日、トニー・スタークに恨みを抱いているバルチャー(マイケル・キートン)が立ちはだかる。彼は普通の人間だが、自分で開発した巨大な翼を装着してニューヨークを飛び回り、街の犯罪を助長している。トニーに認められる絶好のチャンスを逃したくないピーターはトニーの制止を聞かず、無謀にもバルチャーに立ち向かってしまうのだが……。

今作では、ヒーローにあこがれるもいまだなりきれてはいない最年少の"ヒーロー"がしゃにむに頑張る姿を描いていて、観る者すべてが感情移入してしまう共感要素が高い作品だ。その上、アクション満載のヒーロー作品の枠にとどまらず、15歳の少年が繰り広げる恋愛、友情など、誰もが味わったことがある甘ずっぱい高校生活をも描く青春ムービーの側面も強く、過去のマーベル・シネマティック・ユニバースの世界観を描いた作品の中でも、ダントツに"それ以前"を描いている。それゆえ人並み外れたパワーを持っていたとしても、なかなか成長しないことは当たり前で、主人公の奮闘物語に大いに感情を持っていかれる。そのために、主人公ピーター・パーカーの人間性も大きく掘り下げているのだ。

その人間スパイディを描いた監督が、弱冠36歳のジョン・ワッツ監督だ。転機となった作品が、すぐ裸になってしまうケヴィン・ベーコンを主演に迎えた監督2作目『COP CAR/コップ・カー』(15)で、この作品で名もない少年俳優の演技力を引き出したことが評価され、今作への大抜てきにつながったという経緯がある。その手腕は今作でも遺憾なく発揮され、よくある青春映画よりも主人公の青春を描き上げ、過去のどのスパイダーマン映画よりもリアリティーがある葛藤ドラマを生み出した。そこに上手いことマーベル・シネマティック・ユニバースの世界観までも絡め、もはや非の打ちどころがない作品になっている。

また、悪役が実にいい。トニー・スタークに激しく恨みを持っているバルチャー=エイドリアン・トゥームス役を、マイケル・キートンが演じている。彼は公開中の映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』でもマクドナルドを乗っ取る実在のビジネスマンを気持ちよく怪演しているが、己の正義を強く主張しまくるキャラクターは、今作でもパワーアップ! "やっていることは間違っているが、言っていることがわからなくもない"という観客を翻弄する役柄を演じたら、最近では右に出る者はいない。その昔、バットマンとして街の悪を成敗していた彼が、反対側に行ってしまったという見方も実に興味深い。トニー・スターク=アイアンマンに恨みを持っているという背景も、MCU的に本当に最高だ。

ちなみに今作の主人公ピーター・パーカー=スパイダーマン、彼を日本に紹介するにあたっては、実にさまざまな媒体でオタク、ギーク、中二病、サエない男子との表現が踊っていて、それはそれで否定するつもりはないが、筆者の印象ではここまで真っ直ぐなピーター・パーカー=スパイダーマンはかつて観たことがない。彼はトニー・スターク=アイアンマンに認められたい一心で不器用ながらも日々頑張っている好青年で、それをトム・ホランドが時にコミカルに、時に実直に演じ上げている。いずれヒーローとして活躍してほしいキラキラの原石とも評したい主人公の青春をこの夏、スクリーンで見届けてくれ!

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