サニブラウン・ハキーム【写真:Getty Images】

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100mでミスも200mで“ボルト超え”最年少決勝…専門家が挙げたメダル獲得の「2つの鍵」は?

 陸上の世界選手権(ロンドン)は9日(日本時間10日)、男子200メートル準決勝で18歳5か月のサニブラウン・ハキーム(東京陸協)が20秒43で2組2着に入り、決勝進出。ウサイン・ボルト(ジャマイカ)の18歳11か月を更新する世界最年少でファイナリストとなった。100メートルのスタート失敗を修正して果たした歴史的な快挙について、専門家は「100メートルの決勝と同じ価値がある」と話し、メダル獲得のポイントを挙げた。

「世界記録を持つヨハン・ブレーク選手(ジャマイカ)と同組で、しかも彼に勝っての決勝進出だから、率直にすごいことだと思います」と話したのは、アテネ五輪1600メートルリレー代表でスプリント指導のプロ組織「0.01」を主催する伊藤友広氏だ。レース当時は雨が降り、気温も低かった。

「そういうコンディションが悪い条件で自己ベストに近いタイムで走った。100メートル準決勝のスタートで失敗しましたが、今回は加速も良く、本来の彼のスタートに戻っていた。人によってはひきずることもありえますが、本人、コーチも含め、メンタルをしっかりとコントロールしてきたことも素晴らしいと思います」

 サニブラウンは100メートル準決勝のスタートでつまずき、日本人初の決勝進出を逃していた。本人が「やらかした」という「技」のミスを「心」の強さで修正。きっちりと立て直した18歳の強さが見て取れる。

 国内では100メートルが最も注目されるが、世界選手権の200メートルファイナリストになることは100メートルと同等の価値があるという。

「『100メートルの9秒台』ということが話題になることが多いですが、100メートルを走るスプリンターは200メートルの記録が単純に2倍になることがほとんど。つまり、9秒台を出さないと200メートルで19秒台は出せない。今回、決勝のメンバーはサニブラウン選手以外、ベストは全員19秒台。そう考えると、9秒台の選手と100メートル決勝に残るのと同じ価値があると言えます」

 日本では03年エドモントン大会の末続慎吾以来の決勝進出。伊藤氏とともに「0.01」でJリーガー、プロ野球選手など現役アスリートのスプリント指導を手掛ける200メートル障害日本最高記録保持者の秋本真吾氏は、200メートルのハイレベル化が進む中で決勝に残ったことに価値があると語る。

「ボルト出現で、あの頃とレベルは全く違う」…メダルの鍵は隣の選手にあり?

「末続選手が銅メダルを獲得したこも歴史的ですが、あの頃と200メートルのレベルは全く違います。07年大会では予選から従来のメダルを獲れるようなタイムが出始めてきた。ボルト選手の出現によって、どんどんレベルが上がっている。それは100メートルの上がり方より大きいくらいです。その中で18歳という年齢と悪条件で決勝に残ったのは、すごいのひと言です」

 秋本氏は「前半100メートルの入りが素晴らしかった。スタート自体は今大会の100メートルと200メートルの中で一番良かった。100メートル準決勝の失敗が影響なかったと思えるくらいに完璧でした」と修正力を評価し、ボルトを超える18歳5か月という世界最年少記録を作ったことも称賛する。

「彼はレース後に『メダルを狙っていく』という発言をしましたが、18歳でそんなことを言える時点でスケールが違いすぎるなと思います。これまで我々の想像をいく走りをずっと見せてきていますが、彼の場合はただのビッグマウスじゃない。普通の選手のマインドじゃないというところに、彼ならやれるという期待感が持てます」

 では、本人も宣言したメダル獲得はなるのだろうか。伊藤氏は「かなりの接戦になる」とレースを展望し、ポイントを挙げた。

「準決勝のタイムを見る限り、3着から5着ぐらいまで0秒1差にひしめくような展開になるのではないか。カギは彼が8レーンに入ったこと。隣の9レーンのアミール・ウェブ選手(米国)は準決勝もトップでコーナーを回ってきたくらい前半が速い。彼のについていくような形でコーナーを抜け、3番手以内にいると後半の減速が少ない彼にとってはメダルの確率がかなり高まると思います」

 さらに「あとはいかに自分の走りに徹するか」と話し、最終盤のヤマ場について分析した。

「ゴール前50メートルくらいは横並びになることが予想される。そうなった時、他の選手が視界に入ると走りに力みが出て、最後に脱落することになる。最初の100メートルでコーナーを何番手で回るか、残り50メートル地点でいかに自分の走りを貫けるか、この2つがポイントになると思います。しかし、彼なら3番手に食い込む可能性は十分にあるとみています」

10日決勝、メダル獲得のボーダーは?「自己ベスト更新できればチャンス生まれる」

 一方、秋本氏も「コーナーの出口を回った瞬間に結果が見えるのではないか」と語り、メダル獲得のボーダーラインを予想した。

「準決勝と同じようなコンディションであれば、メダル圏内は20秒0から1台。晴れて条件が良くなれば、19秒台の決着もあるとみています。彼もウェブ選手について引っ張られるような展開で波に乗って自己ベストを更新できれば、チャンスは生まれる。世界の決勝で更新することは本当に強い選手であることの証明にもなると思います」

 こう話した上で「厳しい戦いになると思いますが、彼がメダルを狙えると思う根拠をどんな走りで見せてくれるのか。期待の上をいく走りをしてほしいです」と語り、伊藤氏は「通過タイムは決勝8番手で通過ですが、末続選手も8番手でメダルを獲っている。準決勝は別物。彼ならやってくれるんじゃないか」と話した。

 両氏によれば、アイザック・マクワラ(ボツワナ)、ラミル・グリエフ(トルコ)、ウェイド・バンニーキルク(南アフリカ)あたりがメダル争いのライバルになるという。

 18歳によって、今大会日本勢初のメダルはもたらせるのか。当然、それは同種目世界最年少メダルとなる。決勝は10日(日本時間11日)。20秒の熱き戦いは必見だ。

◇伊藤 友広(いとう・ともひろ)
高校時代に国体少年男子A400m優勝。アジアジュニア選手権の日本代表に選出され、400m5位、4×400mリレーではアンカーを務めて優勝。国体成年男子400m優勝。アテネ五輪では4×400mに出場。第3走者として日本過去最高順位の4位入賞に貢献。国際陸上競技連盟公認指導者資格(キッズ・ユース対象)を取得。現在は秋本真吾氏らと「0.01 SPRINT PROJECT」を立ち上げ、ジュニア世代からトップアスリートまで指導を行っている。

◇秋本 真吾(あきもと・しんご)
2012年まで400mハードルの陸上選手として活躍。五輪強化指定選手選出。200mハードルアジア最高記録、日本最高記録、学生最高記録保持者。2013年からスプリントコーチとしてプロ野球球団、Jリーグクラブ、アメフト、ラグビーなど多くのスポーツ選手に走り方の指導を展開。地元、福島・大熊町のため被災地支援団体「ARIGATO OKUMA」を立ち上げ、大熊町の子供たちへのスポーツ支援、キャリア支援を行う。2015年にNIKE RUNNING EXPERT / NIKE RUNNING COACHに就任。現在は伊藤友広氏らと「0.01 SPRINT PROJECT」を立ち上げ、ジュニア世代からトップアスリートまで指導を行っている。