「勤続10年」、今のご時世で10年も同じ会社で働いているのは幸せなことでもある。が、しかし、同時に新しい挑戦や可能性に踏み出せていないケースもある。

就職氷河期と言われ続けている中、今年の春に大学を卒業した女性の就職率は98.4%を記録した。しかし、新卒で就職したものの、3年以内の離職率は30%近いという調査結果もある。

今、アラサーと呼ばれる世代は、大卒で入社した場合、職場ではちょうど10年選手。正規雇用にこだわらず、派遣やパートを選んで働く女性も増えてきた中、同じ職場で10年間働き続けてきた「10年女子」の彼女たちは、いったい何を考えているのだろうか?

「キャリアアップは?」「結婚は?」「貯金は?」そんな「勤続10年女子」たちの本音に迫ってみた。今回、登場するのは、都内で保険会社の事務職の社員として働いている横山祥子さん(仮名・32歳)。

祥子さんは、黒髪をひとつにまとめ、太めの眉毛に一度塗り程度のマスカラ、色味が薄く唇の色味を生かしたグロスを塗っていた。首元にパールがついたアイボリーのツインニットと、紺色のひざ丈のフレアスカートを合わせ、足元はストッキングに3cmヒールのプレーンパンプスという、パッと見の印象は、片付けコンサルタントの近藤麻理恵さんのような、清楚な雰囲気。髪型やファッションが保守的なのも「10年女子」によく見られる傾向だ。

彼女はメイクが得意ではないため眼鏡で出社し、マスクで顔を隠しているときもあると言う。「10年女子」は、手堅く学生時代からの彼氏とつきあっているケースも多いが、彼女のように“女子力”がそんなに高くないために恋愛の機会を減らしているタイプも多い。

しゃべり方もおっとりとしている祥子さんは、彼氏も10年近くいないそう。周りから「焦ったりしないの?」とよく言われるそうで、いたって本人にはその自覚はないようだ。この「マイペース」な部分も、「10年女子」にはよく見られる。

東京都杉並区で生まれ育ち、今でも実家のマンションで両親と暮らしているせいか、周りが合コンや、婚活パーティーへと精を出す中、そこまでして結婚願望はない。

サラリーマンの父は未だに嘱託社員として会社勤めをしており、母親もたからくじ売り場の店員として働く。2つ上の姉は就職と同時に出て行ってしまったため、まだまだのんびり実家にいられる。

活発だった姉とは違い、家で本を読んだり手芸をしたり静かに過ごすのが好きだった。東京出身者なのに、大学で初めての彼氏ができるまで、後楽園ゆうえんちや、東京タワーにも行ったことがなかった。地方から出てきた友人から、東京暮らしを羨ましがられるが、実際は駅から15分以上離れた住宅街にある築30年近いマンション暮らし。でも、実家を出て一人暮らしをするほど、給与の方は多くはない。

高校は、自由な校風の都立に進学した。学校帰りにカラオケに行ったり、年齢を偽って居酒屋に飲みに行ったりしているグループとかを横目で見て、“ばれたら退学なのにバカだな”って思っていたと言う。学生時代から羽目を外すことなく、真面目な生徒だったのが伺える。

就活がきっかけで、彼氏と険悪なムードに……

教職を取ろうと大学の国文科に進学したが、教員になれる可能性を考えたら入学した大学からは難しそうだったので、あきらめて地道に就活をすることを決意。「とくにやりたい仕事はなかった」という祥子さん。大学を卒業する頃にリーマンショックが起こり、 “無難な会社には入れたらいいな”と思い始めたとか。親からの“潰れない企業にしなさい”という勧めもあって、長く働けそうな業界を選んだ。

このように、就活で「マスコミ」やキャビンアテンダントのような「子供の頃からの夢だった」分野に挑戦せず、地に足の着いた企業を選ぶのも、「10年女子」の傾向。彼女の場合は、不動産と、金融と、保険に絞りエントリーし、SPI対策や、大学から卒業生がどれくらい希望の企業に就職しているのかなど就職課で調べて、入りやすそうな会社を狙った。

その結果、祥子さんよりも成績が良かったり、サークルなどの文化的活動で優秀な同級生も同じ企業をエントリーしている中、最終面接まで彼女だけ進むこともできた。彼女にとっては、圧迫面接の時に“特にアピールできるものがないんですね”と言われたのが心に残っているそうだ。

同じ大学の同じ学部の彼氏とは、就活がきっかけで仲が険悪になってしまい、卒業後に別れた。要領を抑えた彼女自身の就活はうまくいったが、彼氏が就活で惨敗という結果に。テレビでCMをしているような有名企業ばかり受けていた元カレは、“俺は〇〇の何次まで通った”“お前なんか、誰でも入れる会社じゃん”と嫌味を言ってきた。

大学も3年生までにほとんどの単位を取り終えていたため、就活に専念できたという。希望していた保険会社から内定が貰えたあとは、家でゴロゴロしたり、単発でケーキ屋でバイトしたりしていた。今思えば、まとまった長期の休みは、この大学4年の時の卒業までの期間が最後だと言う。

新卒で入社した企業では、部署替えもなく同じ部署に10年配属されている。仕事は主に内勤で、営業をサポートする事務。全体で同期が8人いたのに、彼女以外の女性社員はみんな退社してしまって同期がいない。

ある飲み会で“まさか君が(最後まで)残ると思わなかったよ”と、部長から驚きながら言われた。みんな入社したときは“〇〇を達成したいです”と野心に満ちていたので、ただルーティンをこなす彼女は消極的に見えたらしい。そんな彼女も、一時は異動届を書いたものの上司から説得され、そのままの部署に残ることになったそう。

仕事に対しての悩みなどもあるが、周りからは順風にみられる。転職を繰り返している友人から“ずる休みしたことないの?”と聞かれたが、祥子さんは心の中で “仕事をずる休みする人がいることが信じられない”と驚いたと言う。 “人生つまらなくない?”と、たまに周りから言われたりもする。

そんな仕事を優先する生活が災いし、人間関係にトラブルが起きる。いつも次の日に会社があるから“明日、早いので帰ります”と言って、女子会も合コンも帰っていた。すると祥子さんは、友人から“一緒にいてつまらないならそう言ってよ、もう誘わないから”と言われてしまった。彼女にとっては、本当に仕事で朝が早いので断っていたのに、不本意だったそう。アラサーを過ぎて、だんだん友人関係も狭くなっていく。

アフター5や休みの日に、友人や恋人と過ごす予定が少ないのも、この「10年女子」からよく聞かれる。しかし、本人たちにその自覚はあまりない。

再就職しようにも、特にアピールできる特技や資格はない。

気づけば同期はみんな退社!部署でお局に。月曜の朝が来るのが憂鬱だけれど、身体は会社へ。その2に続きます。