フォークとスプーンのカタチをした鉄道ルートが気になり、東葉高速鉄道の八千代緑が丘駅でSuicaをピッ。
 この駅の自動改札に表示された数字に、思わず、うわっ、高っ。90年代にできあがった第三セクター鉄道の、運賃割高なる覚悟はできていたはずだが……。大人げないぞ、中年男。
 きっかけは、Google地図で八千代市と佐倉市を鳥瞰していたとき。あれれ、何コレ!? 奇妙な鉄道の線が見えてきた。ひとつはフォークのような、もうひとつはスプーンのような線路。グッと近づくと、それらは東葉高速鉄道の車両基地と山万ユーカリが丘線であることがわかった。
 このふたつの鉄路とその間にある京成バラ園に妙な引力を感じ、電車に飛び乗ったというワケ。

赤道を越えるテレポーテーション

 まず、車両基地を目指す。いかにもニュータウン的な、同じ屋根の家が整然と並ぶ八千代緑が丘駅北側の区画を抜け、引込み線の線路を見つける。
「うほーっ。キター!」。
 遠く、草原の向こう、ズラリと並ぶ車両たちを確認、舞い上がる。サバンナで草食獣の群れを発見したときの興奮って、こんな感じじゃないか、と。
 この調子でバラ園までテンポよく歩けると思ったが、甘かった。わずか3キロの道のりを、見事に誤った。バラ園の裏手側に迷い込んだらしく、殺伐とした県道を右往左往していると……。
「あ、あら? なんじゃこりゃあ!」
 誰が何を導いてくれたか知らないが、なんとワタシ、北海道に立っていた。
 軌跡の誤算。そこには、日高のサラブレッドを育てる牧場のような光景が広がっているじゃないか!
 看板に稲垣牧場という文字。ここ、牧場内併設の乗馬クラブらしい。
 バラ園の森の裏手に広がる広大な敷地に、見事な毛並みのお馬さんたちが、草を食んでいる。この景色を携帯電話のカメラで切り取って、《いま北海道にいます》とメールを打っても、ここが都心から電車で50分の千葉県八千代市であるとは誰も思うまい。
 まさかの、サバンナからの北海道。
「ちょっと遠回りですけど……」
 手綱を引く女性がバラ園までの道を教えてくれた。人、馬、緑、風、青空に「ありがとう」の気持ちを込めて引き返す。牛さんにも「じゃあね」と。
 やっとたどり着いた京成バラ園は見ごろを心待ちにしていた老若男女で大賑わい。花より団子の中年男も、その華麗なオーラに惹き付けられた。太陽のチカラとはまた違う、オトナの魅力を放ち、眩しかった。

恋情と未開地のグラデーション

 オーバーナイトセンセーションという情熱的な名のバラに惹かれた。どこかで見たことのあるバラだと思ったら、タカシマヤの袋に描かれた花にそっくり。大女優クラスのバラ対して自分の薄っぺらな印象が申し訳ない。
 恐々、花弁に触ってみると、それはそれは柔らかい。花と一対一になる一瞬だけ、日常のすべてを忘れられた。
 優雅な気持ちのまま帰京してもよかったが、気になっていたスプーン状の鉄道路線へと、アプローチ。
 この線路、不動産業の山万が自前で敷いたユーカリが丘線で、一方通行の単線。起点のユーカリが丘駅を出た車両は、グルッと反時計回りに一周して再び発駅に戻るのだが、これがまた激しく揺れる。アフリカの荒野を走るジープに乗っているみたいで、この揺れが、サバンナ→北海道→タカシマヤと巡った旅の余韻を、増幅させてくれる。
 赤道を越え、地球を半周できるこのフォークとスプーンの旅。妄想次第では、この東葉高速鉄道の運賃も、高いなんて思えなくなってきた。

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2012年7月号に掲載された第4回の内容です。

鉄道チャンネルニュースでは【ラン鉄】と題し、毎週 月曜日と木曜日の朝に連載します。

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