成蹊大の墓田桂教授(国際政治学)

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 2010年末に始まった「アラブの春」に伴うイスラム圏の政治的混乱が多くの難民を生み出したが、欧州、とりわけドイツが磁石のように中東・アフリカの人々を引き寄せている。

 ナチスドイツ時代の贖罪(しょくざい)意識が強かったドイツをはじめ、欧州の国々は人道主義に基づいて難民に対応してきた。難民保護に前向きな姿勢は、EUの基本条約にも示されている。欧州での安定した生活だけでなく、欧州の人道的な姿勢も難民を引き寄せる要因となった。

 ここで問題となるのが厳密に難民といえない人たちの存在だ。密航船には難民該当性が低く、就労目的で移動する人たちが紛れ込むことがある。トルコを離れてEUに向かったシリア難民のように、難民であると同時に移民性をもつ人たちも多く含まれる。移動者のプロフィルは多種多様で、受け入れ側の対応を困難にしている。

 難民流入がもたらす影響は複合的である。財政的・行政的なコストにとどまらず、難民問題は多面的に見る必要がある。パリの同時多発テロではテロリストが難民申請者に混入した。

 外国人の流入とともに「社会の景色」が変わり、自国は異国に変わってしまう。イスラム圏からの移民や難民を受け入れてきた西欧の国々では、社会のイスラム化が目立つ。新生児の名前の人気ランキングに「モハメッド」が登場するのはその一端である。

 社会統合が失敗した場合、メインストリーム社会とは異なるパラレル(並立)社会が生まれることがある。ベルギー・ブリュッセルのモレンベーク地区はその典型例だ。イスラム教徒の住民が多く、実際にテロの拠点となった。パラレル社会が生まれたら解体は難しく、メインストリーム社会との融合も容易ではない。

受け入れは「慎重」に

 日本の対応についてだが、2016年、日本での難民申請者は1万人の大台に乗った。このうち難民認定されたのは28人。0.2%の難民認定率であり、認定率の低さが指摘されている。ただ、低い認定率には偽装難民や制度乱用の事例が難民申請の大半を占めているという背景がある。「審査基準が厳しい」という指摘には一理あるが、難民該当性が低い場合には救済できない。

 難民審査参与員として審査に立ち会ったが、技能実習生や退去強制処分を受けた者など、難民該当性の低い申請者が圧倒的に多かった。この点を伝えずに認定率の低さのみを批判しても意味がない。

 日本に大量の避難民が押し寄せる可能性があるとすれば朝鮮半島の有事においてだろう。日本海の距離や船の燃料の有無を考えたとき、北朝鮮から日本まで渡ってくる密航者の人数は限定的になると個人的には見ている。ただ、工作員の混入を含め、あらゆる可能性を想定しておく必要がある。

 難民保護は美しい理念だが、受け入れ側への影響が小さくない。EUは域内での国境の開放や移動の自由という社会実験を行ってきた。多文化主義や難民保護も善とされてきた。しかし、EUは理想主義に走りすぎて自縄自縛に陥ったように映る。

 日本は難民の受け入れに慎重であり続けた。間違っていなかったと思っている。人口減少問題や労働力確保という観点から移民や難民に注目する動きもあるが、社会的なコストに加えて、社会が変容するリスクを忘れてはならない。