グーグルが多様性否定の人物を解雇 正解か判断ミスか

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ナリーナ・エガート、BBCニュース

米グーグルは、多様性確保のための社内制度や雇用慣習を否定する社内文書を書いた従業員を解雇した。同社のスンダル・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は、「攻撃的な」文書が「危険な性別のステレオタイプ」を推進したと話した。グーグルの対応は正しかったのだろうか?

そもそも社内文書の内容は

米国メディアは問題の従業員を上級職の「ジェームズ・ダモア」と伝えている。この人は、業界内の女性を増やそうと多様性制度に取り組んでいるIT企業は、物の見方を間違えているのではないかと、社内文書で主張した。

IT業界には女性より男性の方が多いのは、採用方法や教育、差別のみが原因ではなく、生まれついて持つ能力が違うからだというのが、この男性の主張だ。

女性は得てして物よりも「人間に関心を持つ」ことが多く、女性は「より協力的」で「より心配しがち」だと、この人は言う。女性のこうした特徴はいずれも、IT業界で働いたり頂点に登り詰めたりすることに歯止めをかける要素だというのだ。

さらにこの男性は、グーグルで働く人たちは「イデオロギー・エコーチェンバー」や「辱めの文化や解雇の可能性」から、こうしたことを普段、口にできないでいると書いた(「エコーチェンバー」とは同じ主義主張の者同士が似た意見を言い合い、異論が聞こえなくなる状況のこと)。

社内文書全文はここに掲載されている。

この文書が世界的に注目を浴びた数日後、ダモア氏は解雇された。同氏は法的措置を検討中だという情報もある。

この社内文書とダモア氏の解雇は、ソーシャルメディアで大きな話題となった。ダモア氏に同意する声もあれば、採用したいと申し出る人もいる。一方で、ダモア氏に考え方に唖然(あぜん)とする人もいる。

解雇は間違いという声も

「単に意見を述べたからというだけで解雇するのは、会社として間違っていると思う」。言論の自由の保護活動を行う圧力団体インデックス・オン・センサーシップのジョディ・ギンズバーグ氏はこう言う。

ダモア氏の解雇は検閲かと尋ねると、同氏はそうだと答えた。

「自分の信念や意見を自由に表現できない、というメッセージになってしまっている。自分が賛成しない意見は、ただ黙らせればいいのだという意思表示になっている」

「そういう意見は、オープンに話し合う方がずっといい」

米ニューメキシコ大学の進化心理学者ジェフリー・ミラー准教授は、グーグルがダモア氏を解雇したせいで自分の中のグーグルへの評価が下がったと言う。

「この文書の筆者は当然ながら、自分の主張が尊重され、主張を発表しても一定の安全は確保されると期待したはずだ」

「グーグルにとってはひたすらみっともない事態だ。自分はかつて、グーグルは地球でいちばんかっこいい会社のひとつだと思っていた。色々なグーグル・ソフトウェアをたくさん使っているが、今では、巨大な力でイデオロギーをゴリ押しする集団を支持しているような気分だ」

「イデオロギー・エコーチェンバーだと言われて、あんな風にムキになって自己弁護するのは、組織に偏見があることのかなり強力な証拠だと思う」

グーグルの解雇は正しいという声も

一方で、テクノロジー・ライターでラジオやテレビにも出演しているケイト・ベバン氏は、社内文書が女性スタッフにとって敵対的な環境を作ったと指摘する。

「クビにしろと煽る群集心理はいかがなものかと思うけれども、今回のこの男性は同僚に有害となる行為をしていた」

「世間に向かって、自分の同僚の多くが染色体のせいで仕事に向いていないと思うと宣言するなら、それは同僚に向かって『あなたは能力不足だと思う』と言っているようなものだ」

これは、ピチャイCEOが社員向けの文書で書いた、「同僚の一部が、生まれつき仕事に向いていないなどと示唆するのは、不愉快で不適切だ」という主張に近い。

ベバン氏はさらに、「最も有能なエンジニアは必ずしも男性だと決まっていない。もし雇用対象を1種類の人間に限定し続けるのなら、可もなく不可もない人もいくらか採用することになる」。

多様性のある職場の方が、事業にとっても有利だとベバン氏は言う。「限られた労働力しかなければ、限られた製品しか作れない」。

文書が根拠にした科学は妥当か

前述のミラー准教授はBBCに対し、ダモア氏が「科学的根拠をほぼ正しく理解して」おり、「私たちが何を知っていて何を知らないのかについて、かなり適切に峻別している」と話した。

ミラー氏は、ダモア氏の文書が「心理学修士課程で少なくともAマイナスは取れただろう」と書いた。

しかし英バーミンガム・アストン大学で認知神経イメージング研究を主導するジーナ・リッポン教授は、異を唱える。

「この男性は、科学的知見のかなりの部分を誤解している。私にはそこがポイントだ」とBBCに話した。

「主張の土台が間違っている。彼が誰の本を読んできたのか知らないが」

実際、社内文書で言及された研究の著者は今回の騒動に反応し、人の性別をもとにその人の性格を判断しようというのは、「まるで手術に斧(おの)を使うようなもの」だと書いている。

リッポン教授は「おそらく研究成果を世間に伝えるよりも早く、科学的知見がどんどん先に進んでしまう分野」だと釘を刺し、「この男性は、生まれついての特徴は変えられないと言おうとしているようだ」と指摘する。

男女の脳の機能の差を示す例としては、空間認知能力がよく取り上げられる。しかしこの能力は、調査対象となる人がどれだけビデオゲームをしたかに影響され得ると、教授は言う。さらに、ビデオゲームで遊んだ回数や、周囲の環境が、個々人の脳に影響を与えることもある。

「生まれながらにしてある程度の違いがあるという考えを受け入れたとしても、その違いはあまりにも小さく、グーグルで明確に見られるような男女格差の説明にはならない。どんな研究者でも、そう断言しただろう」とリッポン教授は言う。

グーグルが公表しているによると、同社技術職における女性の割合はわずか20%だが、非技術職では半数近くが女性だ。

「Inferior: How Science got Women Wrong(劣った者――科学はいかに女性を誤解したか)」の著者アンジェラ・サイーニ氏も、同意見だ。

「性差による違いは私たちが思うほど大きくはない。社会に現存する男女の違いは、生物学的な違いによって説明されていない」

しかし、グーグルのようなIT企業で働く男性の数は、女性よりもはるかに多いという事実は依然として残る。

シリコンバレーで働く女性に対する2016年調査では、質問された女性の半数が、攻撃的すぎると繰り返し言われた経験があり、また半数近くの女性が、メモ取りや食事の注文など、男性の同僚が頼まれもしないような低レベルの仕事をするよう言われた経験があることが分かった。

多様性否定の文書に端を発して、グーグルは現在、会社広報的に危い綱渡りを渡っている状態だ。これがひと段落した後、グーグルは間違いなく社内の女性の扱いについて、あらためて取り組むことになるのだろう。

(英語記事 Was Google wrong to fire anti-diversity memo author?)