アメコミヒーロー「スパイダーマン」の新たな映画「スパイダーマン:ホームカミング」が2017年8月11日(金・祝)から日本でも公開となります。監督は「クラウン」「COP CAR/コップ・カー」のジョン・ワッツで、巨額の予算がかかったビッグタイトルを監督するのはこれが初。人気シリーズのリブートを任されたワッツ監督とはいったいどんな人なのか、そしてこの作品にどのように挑んだのか、直接質問をぶつけてみました。

映画『スパイダーマン:ホームカミング』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ

http://www.spiderman-movie.jp/

ジョン・ワッツ監督



GIGAZINE(以下、G):

「スパイダーマン」はこれまでもさまざまな有名監督によって映画化されています。その中で新たに監督の話を持ちかけられたとき、プレッシャーは感じましたか?

ジョン・ワッツ監督(以下、ワッツ):

当然ものすごいプレッシャーはありましたけれども、そんなことを考えてると何もできなくなってしまうので(笑)、とりあえずそれは忘れて置いておき、自分ができる限りの最高のストーリー、最高の映画にしようということだけに集中しました。あとは、なによりも自分自身が観客の目線で楽しめて、一番のファンになってやろうという気持ちがあったので、そこに気分を持っていくよう心がけました。

G:

今作は話の進行に合わせて目まぐるしく展開していく演出が圧巻でした。ワッツ監督は脚本も担当されていますが、完成版の脚本を読んだときの感想があれば教えてください。

ワッツ:

実は、マーベルのやり方には「完成台本」というものがなくて、撮影が終わるまでは撮影中も常に手直しを続けています。なので、完成台本を1ページ目から読み進めていって「よし、よくできた。さあ、映画を撮ろう」というのはなく、撮り始めてからもずっと書いているという状況です。

G:

今回、ヴィランを演じたマイケル・キートンの演技が凄まじく印象的でした。あれは最初からの方針通りでしたか?監督からの指示や、あるいはマイケル・キートンから「こういう風にしよう」という提案があったりしたのでしょうか。

ワッツ:

大きなシーンの展開やセリフは土台となる脚本があります。もちろん、そこに役者から「もうちょっとこういう言い方をした方がいいんじゃないかな?」という提案があって試してみたり、自分がその場で閃いて「こういう風にやってみて」と演出することもありました。基本は脚本通りで、その場その場の雰囲気や感覚で進めていくこともある、という感じですね。



G:

多くの人が関わって一つの形を作り上げていくことになると思いますが、ワッツ監督としては最後の完成形をイメージしてやっているのでしょうか。それとも撮っているときはある程度その場のノリに任せる部分があって、あとで考えて組み上げていくのでしょうか。

ワッツ:

自分としては、完成した映画の本編が丸ごとしっかりと頭の中に描かれていて、それに一番近い形へ現物を持って行く、という仕事をしています。その中で、いろいろなことを試してその場の雰囲気でやっていくこともあるので、気をつけなければいけないのは「統一感を出すこと」。そして「自分が狙った通りのトーンの作品に仕上がっているかということ」です。そういったところは常にチェックして、気をつけながら最後まで仕上げていきます。ただ中には「準備稿の時点からまったく変わっていない」というショットもあります。1つは、ホームカミング・パーティーのダンスパーティーに車で向かうシーンで、あれはコマ割りから何から、すべて自分で描いた絵コンテその通りのショットです。

G:

非常に印象的なシーンで、素晴らしいですよね。

ワッツ:

あとは、ピーター・パーカーがスパイダーマンであることを親友のネッドが知ってしまうシーン。あのシーンもカメラの動きやコマの割り方など、全部自分が最初から予定した通りです。

左がピーターの親友・ネッド。



G:

そうだったんですね。

ワッツ:

一方で、トニー・スターク役のロバート・ダウニー・Jrはアドリブ名人でした。何かをしている途中で「それはちょっとやめてくれないかな?」なんて自分が言えるわけはありませんから(笑)、好きなようにやってもらって、面白いセリフもその場でいろいろと考えてもらいました。



G:

作品を作っていく中で、思っていた以上に難しかった点、なかなか思い通りにうまくいかなかったという点と、反対に予想していたよりもうまくいった点はどのような点がありますか?

ワッツ:

まず一番大変だったのは、これだけの大規模な作品を手掛けたことがなかったことです。撮影期間が長期間で、1日の撮影も長時間。それを、肉体的にも精神的にも撮影初日からクランクアップまで同じテンションで持っていき、スタミナを維持するということはすごくキツかったです。意外と楽だったのはロバート・ダウニー・Jrの扱いですね(笑)。事前に「彼はすごく暴走するよ」とか「かなり扱いにくい俳優だ」とか、いろんな噂を耳にしましたけど、全然そんなことはありませんでした。彼はどこまでもプロフェッショナルで、とてもユーモアのセンスがあり、自分とはすごく波長が合って一緒に楽しく仕事をすることができました。



G:

ワッツ監督の前作「COP CAR/コップ・カー」と比べると、本作では予算もスタッフの数も、すべての規模が大きくなったと思います。これまでの経験と比較して、「大作」ならではの大変さにはどういったものがありましたか?

ワッツ:

何百人ものスタッフを仕切ることになりましたが、自分でちまちまと低予算映画を撮っていたときよりはるかに楽でした。みんな、業界でもトップクラスの超一流ばかりですから、「束ねる」というよりは「各部署に任せる」という感じです。みんなが最高の仕事をしてくれると信頼していましたから、自分にとっては全然楽なことでした。以前、自分が撮った低予算作品2本のときは、チームは監督である自分、そしてプロデューサー、以上。というように、2人で何もかもやらなければならず、「ちょっと、コレやってくれないかな?」って助けを求める先もないぐらいでした。それが、何百人も助けてくれるスタッフがいて、「これが欲しい」「あれが欲しい」といえばすぐに出てくるんですから(笑)



G:

今は作品を公開するとインターネットにたくさんの感想が溢れて、それを見てダメージを食らってしまう人もいます。本作を見てみると、ネット系のネタがとても秀逸なものばかりで、なにかネットとの付き合い方のコツみたいなものを掴んでいるのかなと感じましたが、映画監督としてネット上のレビュー・批評・評論との付き合い方を押さえておられるのですか?

ワッツ:

自分自身がYouTube世代であり、それこそYouTubeに動画をアップしたことからキャリアがスタートしているぐらいですから、それぞれコメントについてはそんなに深くは捉えていないというか……嫌なものは読まないようにするということですね。あくまで、見知らぬ誰かが書いているもので、個人攻撃と捉えず受け流すようにしています。

G:

まさに今お話に出たように、ワッツ監督自身、イーライ・ロス監督の名前を勝手に使ってホラー映画のニセ予告編をYouTubeで公開して、それが本当に「クラウン」という作品になりました。

映画『クラウン』予告編 - YouTube

「ホラー通信」掲載のイーライ・ロス監督へのインタビューによると、直接連絡を取ったとき、ワッツ監督が「訴えないでくれてありがとうございます!」というと、ロス監督は「ここはハリウッドだよ。訴えるのは金が儲かってからさ!」と答えたそうですが、こうして「スパイダーマン:ホームカミング」というビッグタイトルの監督になって何か反応はありましたか?

ワッツ:

交流は今も続いていて、「スパイダーマン:ホームカミング」も完成に見てくれました。それでロスは「これのおかげで『クラウン』のリバイバル劇場上映ができるんじゃない?」って猛プッシュしていて「もういいから(笑)」みたいな話を先日もしていたぐらいです。実は「クラウン」は日本では2015年に劇場公開されているんですが、アメリカではビデオスルー作品になってしまったんです。彼はどうしても劇場公開したいらしくて、今回、こうして自分が「スパイダーマン:ホームカミング」の監督になったことで名前が売れたから、「今ならいけるんじゃないか」と言っているわけです(笑)

G:

こうして大作も撮る映画監督になったからこそわかる、かつての自分のように映画監督を目指す人に対して「今のうちにこういうことをしておくべき、学んでおくべき」というアドバイスはありますか?

ワッツ:

「経験を積むこと」です。とにかくやってみる、映画をなんでもいいからたくさん撮ること。自分でいろいろ試行錯誤して学ぶのが一番身につく方法なので、なんでもいいからとにかく撮る、いっぱい撮る、ということです。あとは、自分自身もそうでしたが、テイストや波長が合う映画作りの仲間を、少人数でもいいので見つけて、繋がっておくことです。「カメラならこの人」「録音はあの人」というクルー、自分の「組」みたいなものが作れる親しい友人を見つけるのも大事なことです。



G:

監督の場合は、その親しい友人はどうやって見つけましたか?

ワッツ:

通っていた映画学校時代に友達になりました。今は彼らもそれぞれ映画を作っています。

G:

どんな人でも「面白いものを作りたい」とは思いはするものの、なかなか思い通りのものを完成させることはできません。監督の経験から、完成させるためには何が大事だと思いますか?

ワッツ:

まず「諦めない」ということ。何よりも大事なのは粘り強さ、根気強さです。同時に、技術面も大事です。仰るように、頭では「こういう映画を撮りたい」と思ってきっちりできあがっているのに、実際に撮ってみると「なんだこれは!?」と全然違うものができあがってしまうことはあります。そのとき、なぜ頭の中のビジョンと、実際にできあがるものが食い違うのか、その原因がわからないと自分が作りたいものを完成させることはできません。そのためには技術面、映画でいえば仕組みや映画作りの基本をきちんと学び、理解することも大事だと思います。

G:

今作の制作中に受けたVarietyのインタビューに「私は高校生の成長物語を撮影したいと思っていました。その種の映画は一通り観ていたので、図らずも、高校生の成長物語に関して提案をする準備がかなり整っていたのです」と書いてありましたが、「高校生の成長物語」として本作に影響を与えた映画はどういったものがありますか?

ワッツ:

今回、リサーチのために「この世の中に存在するありとあらゆる青春映画を見たかもしれない」というぐらいに、それこそ1960年代の「華氏451」をはじめ、たくさんの青春もの・学園ものを見ました。見返したものもあれば初めて見たものもありますが、いま36歳の自分にとって青春ものというと、1980年代のジョン・ヒューズ監督作品が最初に頭に浮かびます。実際に映画の中に1カット登場しますが「フェリスはある朝突然に」とか、「ブレックファスト・クラブ」とか、個人的に一番好きな「プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角」です。あとはちょっとマイナーな映画ですが「ロケット・サイエンス」にもすごく影響を受けていますし、テレビシリーズだと「Freaks and Geeks」、日本では「フリークス学園」というタイトルで放送されたマイナーな番組ですが、そういう、ありとあらゆる青春ものに影響を受けたといえます。

G:

いま青春時代を過ごしている中高生もきっと見に来るだろうと思います。

ワッツ:

自分にとってジョン・ヒューズの作品がそうであったように、今の中学生、高校生が見て「青春スーパーヒーロー映画の決定版」のようにみんなの記憶に刻まれ、お気に入りの作品になればすごく嬉しいです。



G:

なるほど。本日はお話をありがとうございました。

映画『スパイダーマン:ホームカミング』日本語吹替予告編 - YouTube

◆作品情報

監督:ジョン・ワッツ(『コップ・カー』)

トム・ホランド(『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『白鯨との闘い』)

ロバート・ダウニーJr.(『アイアンマン』『アベンジャーズ』)

マイケル・キートン(『バットマン』、『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』)

マリサ・トメイ(『レスラー』)、ジョン・ファヴロー(『アイアンマン』)

ゼンデイヤ、トニー・レヴォロリ(『グランド・ブダペスト・ホテル』)

ローラ・ハリアー、ジェイコブ・バタロン

2017年8月11日(祝・金)全国ロードショー

2017年7月7日全米公開

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