参議院議員 松沢成文氏

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地方自治体で長期政権が目立ち始めている。今年7月には兵庫県の井戸敏三知事(71歳)が5期目の当選を果たした。8月には茨城県の橋本昌知事(71歳)が全国最多の7期目を目指して立候補する。当選すれば橋本県政は28年という超長期政権になる見込みだ。長く続ければ権力は必ず腐敗する。神奈川県知事として全国初の「多選禁止条例」を制定し、自らも2期8年で知事の座を退いた松沢成文参議院議員に、多選の問題点と多選を防ぐ方法について聞いた。

■知事にゴマすり、利益誘導に励む議員たち

――松沢さんは神奈川県議会議員の頃から知事など首長の多選について警鐘を鳴らしてきました。多選はなぜいけないのですか?

【松沢】私が県議会議員になったのは5期20年も続いた長洲一二知事の時代です。あの頃の県政を経験したことが私の多選批判の原点になっています。「権不10年」といいますが、長く続けば権力は必ず腐敗します。長洲県政も例外ではなかった。共産党を除いてオール与党といわれた議会では、知事による行政運営をチェックするのではなく、知事とのパイプを誇り自分の選挙区に利益誘導を図る議員が目立ちました。その姿が健全であるわけはありません。

多選による弊害はいくつも指摘されています。たとえば意思決定の独善化、側近政治の横行、職員の士気低下、いま述べたような知事と議会との癒着、さらには県が補助金を出している利益団体との癒着というものです。そのため自民党、民進党、公明党といった主要政党は、4期目以降の知事・政令市市長候補の公認や推薦をしないという方針を打ち出しています。

――しかし問題があると言われながらも、毎回正当な選挙で選ばれるのだからいいじゃないかという意見もありますね。埼玉県の上田清司知事(69歳)は自ら連続3期を上限とする多選自粛条例をつくりながら、2015年、「県民の期待」を理由に4期目に立候補し当選しました。

【松沢】上田さんをはじめ安定的な政権運営をしている知事はほぼみなさん、県議会や県内市町村長から「ぜひ知事を続けてほしい」という要請を受けて1期ずつ任期を延ばしていきます。知事自身に邪(よこしま)な考えがあるわけではないでしょう。しかし問題なのは、絶対的な権力者である知事を長く務めれば議会によるチェックが効かなくなり、知事の判断に異を唱える者もいなくなることです。知事によっては「いいものは長持ちするんだ」とうそぶき、長期県政を正当化するようになる。つまり裸の王様になっているのですから、これが一番怖いことです。

そして選挙戦に当たっては、知事としてのそれまでの仕事が事実上の選挙活動となりますから、知名度の低い新人候補に対して現職は圧倒的に有利です。これが各地に多選知事が生まれてしまう背景です。現職が強いのはそういう構造があるからですが、選挙に勝ってしまうため関係者は「民意は長期政権を望んでいる」と勘違いしてしまう。埼玉県だけではなく兵庫県、茨城県も事情はまったく同じでしょう。

■知事の多選化を防ぐために「条例」の制定を

――つい混同してしまいますが、日本の場合、国は議院内閣制であるのに対し、地方は大統領制に近い首長(知事、市長など行政の長)と議会との二元代表制。日本の有権者が地方の長期政権に甘いのは、地方議会が国会のように行政をチェックしてくれると勘違いしているからでは?

【松沢】そうかもしれません。議院内閣制では国会が首相を指名し、首相が内閣を組織して行政に当たります。一方、日本の地方自治制度はアメリカの制度にならった二元代表制、つまり大統領的な首長と議会が両方とも民意を反映するものです。このふたつは原理的に異なります。

議院内閣制では国会の多数派(与党)が内閣を支え、少数派が野党として批判的に行政をチェックします。もちろん与党は首相を支える立場ですが、その支えがなければ首相の地位はないわけですから首相は与党の声を聞かなくてはならない。ところが二元代表制だと、首長は選挙で選ばれていますから議会には厳密な意味での与党も野党もありません。ですから首長は首相と違って“与党”の声をさほど気にする必要はないのです。

しかも知事など首長の権限は強大です。役所の人事権はもちろん予算編成権、条例提出権を握っています。すると先に述べたとおり、長期政権下では議会のオール与党化が進み、議会は行政をチェックするどころか、絶対権力者である知事とのパイプを生かして選挙区に利益誘導することばかりを考えるようになってしまうのです。

――知事などの地方権力はそもそも権限が強いうえ、構造的に多選化しやすく、それに対するチェックも甘くなりがち。そこで法律なり条例で多選を禁じる必要があるということですね。

【松沢】そうです。アメリカのような大統領制をとる国では、大統領の任期をほとんどが2期までと憲法などで制限しています。また州知事や市長といった首長についても、アメリカでは多くの自治体が多選を禁じています。これは前にあげた長期政権の弊害を防ぐためです。そこで私は神奈川県知事になってからすぐに多選禁止条例をつくりました。

■多選制限は憲法に違反しない

ただ、自治体首長の多選禁止法案はこれまでにも国会に提出されてきましたが、いずれも廃案になっています。そのような経緯があるため、総務省と協議のうえ、「法による首長の多選制限は必ずしも憲法に違反しない」という専門家の見解を受けて条例化したのです。

なぜ法律ではなく条例で縛るのかといえば、ひとことで自治体といっても都道府県や政令指定都市のような大規模な自治体がある一方、人口数百人レベルで誰もが顔見知りというような村もあります。都道府県知事や政令市長は多選禁止をルール化すべきですが、小さな村ならほとんどの村民が村長と直接対話することもできますから、わざわざ多選禁止をルール化するまでもない。また、小さな村だと村長のなり手が少ないという事情もあります。そのため自治体独自の条例で対処するのが適当だと思っています。

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松沢成文(まつざわ・しげふみ)
参議院議員
1958年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。松下政経塾3期生。神奈川県議会議員、衆議院議員、神奈川県知事(2期)を経て現在は参議院議員(神奈川県)。最近の著作に『始動!江戸城天守閣再建計画』(ワニブックスPLUS新書)がある。

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(参議院議員 松沢 成文 聞き手・構成=プレジデント編集部・面澤淳市)