外国人上司への"失礼"を避ける会話のコツ

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職場に外国人の上司がやってきたらどうすればいいでしょうか。専門家は「大事なことは語学力よりも、『相手が日本人ではない』という前提を踏まえること」といいます。たとえば「今度の金曜日」や「今日はありがとうございました」といった言い方はNG。なぜダメなのか、どう話せばいいのか。具体的なポイントを聞きました。

■外国人上司とのコミュニケーションが進むポイント

外国人上司を迎えた際、まずどんなことに気をつけて話せばいいのか?「語学力とは別に、外国人上司と一緒に仕事をする上では、ビジネスの習慣や文化的バックグランドの違いがあることを踏まえたコミュニケーションが大事になる」と話すのは、“仕事の英語パーソナルトレーナー”河野木綿子(こうの・ゆうこ)氏。河野氏は、以下の5点が重要だという。

(1)自己紹介の要素は4つ。最後にプライベートな要素を少しだけ混ぜる
(2)仕事の本題に入る前に「スモールトーク」で心の距離を縮める
(3)名前は大事。知っていると信頼につながる会話マナー
(4)ミスを防ぐ「5ピース」での伝え方
(5)日本の「当たり前」は通用しない。日本独自の商習慣の説明を

「日本では、上司が部下に『お前、これをやっておけ』とか、『だからお前はダメなんだ』といったことを気安く言いますが、英語圏ではあり得ません。こうしたやりとりは、パワハラだと受け取られかねませんから。『部下なんだから何をやらせてもいい』とは考えていませんし、上にいるからこそ、上司はみんなを丁寧に平等に扱っていかなくてはいけないと考えています」(河野氏)

日本人だけの上下関係に慣れていると、思い及ばない部分が多い内容である。以下、くわしく見ていこう。

■1.自己紹介の要素は4つ。最後にプライベートな要素を少しだけ混ぜる

上司とオフィスで初めて会ったときや、キックオフミーティングの場など、英語で自己紹介をしなくてはならない場合。何をどこまで話せばいいか、迷う人もいるだろう。自己紹介では、(1)名前、(2)どう呼んでほしいか、(3)今の仕事をして何年くらいか、またはそのチームの中でどういう仕事をしているか、(4)プライベートなネタを1つ、この4つで十分だという。

名前をフルネームで慌てて発音すると、長いファーストネームだと思われることがあるので、必ず名前のあとに一呼吸置いてから名字を言うといい。例えば「I’m Mariko(一呼吸)Suzuki」という具合だ。

続いて、現在の仕事について簡単に触れる。この時、学歴は不要だ。「オフィスでの顔合わせなどで自己紹介するときに、『私は××大学を出ました』など、学歴は言わないですね。ただ、社外の人にプレゼンテーションをして話を聞いてもらおうと思ったら、取得している学位や資格など、仕事につながる学歴や専門性の話をするのはいいと思います。例えば若くても高い専門性を持っている人が、見た目で判断されてしまう場合もあります。そんなときは、『実は××の学位を持っていて、今日お話しすることは専門分野です』などと説明することは有効です。そうすると、相手は『この人の話を聞いてみよう』と思いますよね」(河野氏)

日本人が意識して話す必要があるのは、(4)の打ち解けやすいプライベートの話だそうだ。『週末にはいつもバーベキューをするのが好き』『映画を見るのが趣味です』といった具合に、どんな趣味がある、最近ハマっていることなどを一言付け加えると、その後のコミュニケーションに効果的だという。

「人間味が感じられるといいですね。それが共通の話題になれば、それをきっかけに仲良くなれるはず。プライベートの雑談は、実はとっても大切なんですよ」(河野氏)

■2.仕事の本題に入る前に「スモールトーク」で心の距離を縮める

仕事で会う場合でも、「日常会話は、プライベートな雑談から始めるといい」と河野氏。1対1で話すときもそうだし、会議の前でも同じだという。これから仕事の話をするというときに、いきなりプライベートの話? と思うかもしれないが、それには理由がある。

「いきなり仕事の話はせずに、まずその場を和ませるんです。ご近所の井戸端会議みたいな話を、ミーティングが始まる直前に1〜2分くらい平気でします。はじめに少し雑談をして和やかな空気になってから、『じゃあ今日はこういうことを話そうか』と本題に入る、という流れですね。これを“スモールトーク”ともいいます。日本人同士ならいきなり仕事の話から入ってもいいかもしれませんが、英語圏にはいろいろな人がいます。互いのテンションや温度を合わせるために、おしゃべりをして場を和やかにして、それから共通の話題で同じ土俵に上がるんです。スモールトークは、張り詰めている空気を柔らかくして、同じ温度感で取り組むためのエッセンスです」(河野氏)

ただ、雑談慣れしていない日本人にとって、ましてやそれを英語で、となるとかなりプレッシャーに感じるだろう。しかし難しく考える必要はない。「Hi. How are you doing?」「It’s hot today.」といった簡単なあいさつやお天気ネタ、週末にどう過ごしたか、家族のこと、好きな食べ物の話など、話題は何でもいい。

「今日のネクタイはステキですね」など相手の持ち物や洋服などを褒めてみるのもいい。身体的な特徴を話題にするのはよくないが、装いを褒められれば、悪い気はしない。『その先に話を広げられない』と心配しなくても、褒めれば相手は「妻にもらったんだ!」などと、どんどん話してくれるだろう。

「相手が話す内容を聞き取れなかったらどうしようと心配かもしれませんが、そんなときはニコニコ聞いているだけでもいいですよ」(河野氏)

■3.名前は大事。知っていると信頼につながる会話マナー

仕事で英語を話す際、会話マナーの観点で特に気をつけたいポイントが4つある。(1)相手の名前をできるだけ正確に発音する(2)本人のいる場所ではheやsheを使わず、常に名前で呼ぶ(3)身ぶり手ぶりや語調に注意(4)お礼は具体的に、である。

(1)相手の名前をできるだけ正確に発音する

自分の名前を呼び間違えられたら不愉快な思いをするのは万国共通。よくある落とし穴は「名前を間違ってローマ字読みされてしまう」ことだ。

日本人向けに、英語のほかにカタカナでも名前が書かれた名刺を持っている場合もあるが、そのカタカナ表記が本人が望んだ発音になっているとは限らない。日本人は発音しにくいとつい日本語風にローマ字読みをしてしまいがちだが、名前の場合は避けたほうがいい。本人に直接名前の発音を聞き、できるだけ本人の発音に近づけて呼ぶことを心掛けよう。

「名前は、なるべく本人が慣れている本国での発音で呼んであげたほうが、本人はうれしいです。私もかつて、名刺に書かれた名前と、本人が自己紹介で話した名前が一致していないケースを経験しています。『本当は違うんだが、みんなそう呼ぶんだ』とその方は大変気にされていました。確かに日本人には発音しにくい名前だったのですが、私は意識して正しい発音を心がけていました。すると、私が名前を呼ぶとパッと顔が明るくなるんです。その方とは仕事上よくぶつかる立場でしたが、普段はとても気に掛けてもらえましたよ。

自分の身に置き換えたらわかりますよね。自分の名前をずっと間違って呼ばれ続けたら、誰だっていい気持ちはしません。ビジネス英語に限らず、人間対人間の付き合いとして大事なことです」(河野氏)

ちなみに呼びかけるときの敬称は、「スミスさん」など、さんづけでいい。「日本では相手の名前に『さん』を付けて呼ぶ」という習慣は、ビジネスで日本にやってくる人たちにはよく知られているためだ。ファーストネームで呼ぶか名字で呼ぶかは社風によるそうだ。

(2)本人のいる場所ではheやsheを使わず、常に名前で呼ぶ

名前に関してはもう1つ、日本人に盲点がある。それが2つめの「本人のいる場所では名前を呼ぶ」ということ。日本人同士では、目の前に本人がいても「彼は」「彼女が」と三人称を使いがちだが、英語圏では本人を前にして三人称(he/she)で呼ぶのは部外者扱いになり、失礼にあたるという。

もし本人を前に「This is Mariko.」といったら、その後は「Mariko is a friend of mine.」など何回でも名前で呼ぶのが鉄則。つい「She is〜」と言いたくなってしまうかもしれないが、“本人がいる前では必ず名前”と肝に銘じておこう。

(3)身ぶり手ぶりや語調に注意

「海外の人は日本よりも身ぶり手ぶりが大きい」と思っている人も多いかもしれないが、会話の最中に大げさな身ぶり手ぶりを好まない人も相当数いる。手をあまり動かすのは下品と考える人もいるそうなので気をつけよう。

また、話し方の語調も気をつけたい。「語尾が尻上がりになるのは、子どもっぽい学生言葉と思われます。しきりに“you know”などを付けるのもそうです。例えばイギリスのメイ首相のスピーチなどを見ると分かりますが、政治家など、きちんとした人が話す英語は、全部語尾が下がります。それを練習する本があるぐらいです。身ぶり手ぶりとあわせて、落ちついた印象を持ってもらうためには大事なポイントです」(河野氏)

(4)お礼は具体的に

コミュニケーションが進んでくると、ホームパーティーなどに呼ばれることもあるかもしれない。もし呼ばれたら、ぜひ進んで参加しよう。ここで大事なのが、帰るときの一言。お礼をいうとき「今日はありがとうございました」「Thank you for today.」ではお礼を言ったことにならないのだ。

「『今日のあの話が面白かった』『あの料理がおいしかった。今度レシピをください!』など、何が良かったのかを具体的に言う。それくらい言わないと、褒めたことにはなりません。『サラダのドレッシングがとても気に入った』といったことでもいい。 “I loved it!”など、簡単でいいんです。相手が言われてうれしいことを、具体的に細かく伝えてあげる。それがお付き合いの基本です」(河野氏)

■4.ミスを防ぐ「5ピース」での伝え方

細かく具体的に、というのは、仕事上の指示や連絡、依頼でも同じく意識すべきこと。「あれ、やっといてね」ではなく「**さん、**を**までに**しておいてくれますか? 大丈夫ですか?」と想像の余地を残さないレベルで具体的に全部伝える、というのが情報伝達の基本だ。それは、自分なりの解釈に任せると、人によって結果が違ってくるからである。

「例えば『帰るときは机の上をきれいにね』といったとします。机の上がきれいだと思う感覚は人によって違います。自分がきれいだと思えば片付けないで帰るケースもあります。電話以外置かないように、パソコンは引き出しにしまって鍵を掛ける、など、誰が聞いても間違いがないくらい具体的に指示することが大事です。部下から上司に話すときも同じことが言えます。できるだけ具体的に言った方がいい」(河野氏)

こうした伝え方は、あらゆる場面に当てはまる。上司に相談する時間が欲しいときに「今度お時間いただけますか」では、あいまい。「今日の午後に、30分、どこかでお時間いただけますか」という聞き方をする。サッとしゃべって判断を仰ぐような話なら、3分が妥当だ。

やりがちだが避けたいのが「今度の金曜日」「次の月曜日」などの言い方。どの日を指すのか人によって解釈が異なることがあるので、ミスを防ぐために曜日だけでなく日付を添えて伝えることが求められる。時間を表記する際は、日本時間か、どこの時間なのか、GMT(グリニッジ標準時)などと明確に書く。日本国内だけでやりとりしていると意識しないことだけに、覚えておきたいポイントだ。

その上で、お互いに分からないことは分からないと伝えることも大事だ。『聞いたら悪いかな?』などと思わず、正直に話そう。

結論+3つの理由+プラスアルファの「5ピース」

これらを踏まえた上で、上司に報告する際などに便利な手法が「5ピース(Five Pieces)」である。これは結論を先に述べてから、3つの理由を挙げ、最後にプラスαの情報を添えるという手法だ。

例えば、「8月は定例ミーティングを休みにしたほうがいい」と上司に進言する場合。まず、「8月は休みにしましょう」と提案内容(結論)を言う。「その理由は3つあります。8月はお盆休みがあります。子供の夏休みで家族旅行にでかける人も多いです。最後に他の部門もいないので、何か決めても先に進みません」と理由を説明する。最後に「だから8月は定例ミーティングを休んで、大事なことは7月中に計画を立てておきましょう」と添える。これで進言内容がより説得力を持って伝わるというわけだ。

「話すときは先に結論を話します。そのあとで、理由のアウトラインを示すと、しっかり耳を傾けてくれますね。さらに『10分でしゃべります』と言うのもいいでしょう。この習慣を身につけておくと、ふだんの日本語での会話も要点を押さえたトークができるようになるはずです」

以上、外国人上司とのコミュニケーションが進む4つのポイントを紹介してきた。最後の「(5)日本の「当たり前」は通用しない。日本独自の商習慣の説明を」は、外国人エグゼクティブにとって最大の悩みを解決するためのものだ。次回の記事で詳しく説明する。

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河野木綿子 (こうの・ゆうこ)
仕事の英語パーソナルトレーナー。1960年生まれ。2000年ロンドン大学心理学部大学院卒。83年上智大学卒業後、西友入社、その後モルガンスタンレー、バクスター勤務を経てロンドンに留学。帰国後、2001年ファイザーにて人事部企画課長、採用課長、2009年シーメンスで採用・人材開発シニアマネージャーを兼任。2014年に独立後は管理職とビジネスオーナーの英語のビジネスコミュニケーション力開発を中心に活動。著書に『仕事の英語 いますぐ話すためのアクション123』『読むだけでTOEIC(R)テストのスコアが200点上がる本』などがある。

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(仕事の英語パーソナルトレーナー 河野 木綿子、すずまり)