チームを強化する。直接的にその役割を担うのは会長でも監督でも選手でもない。スポーツディレクター(以下SD)の仕事である。ゼネラルマネージャー、強化ダイレクター、強化部長など呼称はいくつかあるが、要はチームのマネジメント役だろう。

 選手の特性を見極め、チームのスタイルを鑑(かんが)み、適応できるか、判断を下す。

<目利きと交渉力>

 このふたつこそ、資質として問われる。

 昨今の世界のフットボール界でSDとして最も名声を高めたのは、スペインのセビージャを強豪に押し上げたモンチ(本名/ラモン・ロドリゲス・ベルデホ)だろう。その実績が評価され、2017〜18シーズンからはセリエAの名門ASローマのSDに就任した。


この夏ローマに加入したトルコ人FWジェンキズ・ウンデルとモンチ

<無名ではないが、飛躍間近の選手に目をつけ、価値を数倍から数十倍に上げる>

 その点でモンチの辣腕(らつわん)は他の追随を許さない。最高のヒットはダニ・アウベスだろう。55万ユーロ(約7000万円)で獲得した彼を、2008年、3550万ユーロ(約45億5000万円)でバルセロナに売却。利益は約65倍と凄まじい。

 バルサはお得意様で、他にもアドリアーノ・コレイア、セイドゥ・ケイタ、イヴァン・ラキティッチ、アレイクス・ビダルをセビージャから売却している。バルサだけでなく、レアル・マドリード(セルヒオ・ラモス、ジュリオ・バチスタなど)、アトレティコ・マドリード(ケヴィン・ガメイロなど)にも多くの人材を供給。これらの取引によって、数百億円の”売り上げ”を計上している。

 スペイン以外のビッグクラブとの取引も活発だ。

 アーセナル(ホセ・アントニオ・レジェス)、マンチェスター・シティ(ヘスス・ナバス)、リバプール(アルベルト・モレノ)との取引は、いずれも下部組織出身選手を売却したもので、3人合計6300万ユーロ(約82億円)の利益を叩き出した。一昨シーズンは700万ユーロ(約9億1000万円)で得たカルロス・バッカを3000万ユーロ(約39億円)でACミランに譲り、昨シーズンは550万ユーロ(約7億1000万円)のグジェゴシュ・クリホビアクを3360万ユーロ(約43億5000万円)でパリSGに売り払っている。

 成長が見込める選手に対して、モンチは高額投資も躊躇(ためら)わない。2009年に1500万ユーロ(約17億円)でレアル・マドリードから獲得したFWアルバロ・ネグレドを、2013年には2500万ユーロ(約29億円)でマンチェスター・シティに売却した。まさに目利きと交渉力の賜(たまもの)だろう。

「モンチが太鼓判を押した選手なら間違いない」

 そう言われるほど、セビージャからオファーがあるだけで選手は「保証書付き」になった。

 セビージャのスカウトは20人近くが活動。日々情報を共有し、複数の代理人と連携を取り合う。毎週のように欧州各国リーグのベスト11を選び、その中で気になった選手を最低でも7人がリサーチ。そこで上位8〜10人に絞って、それぞれがA〜Eの5段階で評価する。例えばAならば「即、契約に動くべき」、Cなら「継続」。多くの目で淘汰することでミスを最小限にし、最終的に”慧眼(けいがん)”モンチが判断していた。

 もちろんモンチとて神ではない。弘法も筆の誤りというべきか、活躍を果たせなかった選手も少なくない。2割程度の契約選手が、鳴かず飛ばずのままでチームを退団している。モンチの失敗例のひとつは、2012年1月にポルトガル1部リーグのマリティモから350万ユーロ(約4億5000万円)で獲得したセネガル人FWババ・ディアワラだろう。

 モンチはババを「フレデリック・カヌーテの再来」と絶賛して迎えた。カヌーテはセビージャで活躍したマリ代表FW。長身でポストワークに長け、貴重なゴールを量産した。つまり、エースの後継者として指名したのだ。

 2009年、筆者はマリティモ時代のババを取材したが、一瞬でマーカーを置き去りにするスプリント力は、周りを圧倒するものがあった。トップスピードでボールをゴールに叩き込む能力も高かったと言える。しかし、運動能力だけで相手を出し抜いている印象で、そこを駆け引きしてくる相手に対しては未知数だった。

「ディディエ・ドログバとサミュエル・エトーの能力を合わせ持ったFW」

 そう言われたババは、セビージャ在籍1年半の間にリーグ戦ではたった3得点に終わった。その後、レバンテ、ヘタフェに貸し出したが、いずれも1年で突き返されている。買い手がつかぬまま契約解除になって、マリティモに戻されることになった。

「セビージャはメディアの関心も高く、そのプレッシャーに潰された」

 当時の監督ミチェルがそう説明しているように、マリティモでは3000人程度の観客でプレーすることが多かったババは、環境に適応できなかった。

 選手を獲得するには能力やセンスだけでなく、人間的な順応性やキャラクターも見抜かなければならない。ただ、これは未知の部分が大きいと言える。不確定要素が強いのだ。

 言い換えれば、SDは失敗を恐れてはいけない。失敗も含め、それをどう解決するか、だろう。例えばセビージャが半年で放出することになった清武弘嗣だが、モンチは支払った額に近い移籍金をセレッソ大阪から取り戻している。交渉力のしたたかさがうかがえる。

「私はどの選手との契約も後悔していない」

 そう語るモンチは現在、スクデットを狙うローマの強化に取り組んでいる。

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