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日本の主要な法律の一つ「民法」が改正され、施行に向けた準備が進んでいる。これに伴い国土交通省が「賃貸住宅標準契約書」(賃貸住宅を契約する際の雛型)の改訂を進めている。7月24日には契約書の改訂案が公表され、消費者からの意見(パブリックコメント)を募集しているところだ。賃貸住宅の契約で、いったいどこが変わるのだろうか? 公表された「賃貸住宅標準契約書」の改訂案を見ていこう。【今週の住活トピック】
賃貸住宅標準契約書(再改訂版)(案)に関する意見募集について/国土交通省

借り主のあなたが覚えておきたい改訂点

借り主側にかかわる条項では、主に、次のような項目で大幅な改訂が予定されている。

・(1)賃貸住宅の修繕について
・(2)賃貸住宅が一部または全部滅失した場合の対応について
・(3)敷金と借り主の原状回復義務について
・(4)連帯保証人について

それぞれについて、詳しく見ていこう。

(1)賃貸住宅の修繕

■第9条第1項

第9条 甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。この場合の修繕に要する費用についてはおいて、乙の責めに帰すべき事由故意又は過失により必要となったものは乙が負担し、その他のもの修繕に要する費用は、乙甲が負担するものとするしなければならない。

<要旨>
貸主は賃貸住宅の修繕をしなければならないが、借り主に責任がある要因で修繕が必要になった場合は、借り主が修繕の費用を負担する。

<解説>
もともと貸主に修繕義務があることになっていたが、借り主に落ち度がある場合は、貸主に修繕義務がないことが明記された。

■第9条第3項/第4項/第5項

3 乙は、本物件内に修繕を要する箇所を発見したときは、甲にその旨を通知し修繕の必要について協議するものとする。
4 前項の規定による通知が行われた場合において、修繕の必要が認められるにもかかわらず、甲が正当な理由なく修繕を実施しないときは、乙は自ら修繕を行うことができる。この場合の修繕に要する費用については、第1項に準ずるものとする。
35 乙は、甲の承諾を得ることなく、別表第4に掲げる修繕について、第1項に基づき甲に修繕を請求するほか、を自らの負担において行うことができる。乙が自ら修繕を行う場合においては、修繕に要する費用は乙が負担するものとし、甲への通知及び甲の承諾を要しない。

<要旨>
・借り主は修繕が必要と思われる箇所を発見したら、それを貸主に通知して、対応を協議することが求められる。通知をしたのに、貸主が必要な修繕を引き延ばした場合は、借り主が修繕をすることができる。その際の費用は、借り主に落ち度がある場合を除き、貸主が負担する。

・蛍光灯やヒューズ、蛇口のパッキン、風呂場のゴム栓の交換などの日常的な修繕は、借り主が貸主に修繕を要求するか、借り主が費用を負担して修繕を行うが、借り主が修繕を行う際は貸主と協議する必要はない。

<解説>
原則として賃貸住宅の修繕を行うのは貸主だが、借り主も一定の範囲で修繕を行うことができることが明文化された。ただし、事前に取り決めた日常的な修繕のほかは、基本的に貸主と協議なしで修繕することはできず、借り主が修繕に至る原因をつくった場合は、修繕費用を負担することになる。貸主に通知したが、相当期間放置された場合か、急迫の事情がある場合は例外とされている。

(2)賃貸住宅が一部または全部滅失した場合の対応
災害などで賃貸住宅が使えない状態になったときのルールが設けられた。被災した賃貸住宅が住宅として機能していないのに、賃料を払わなければならない事態を回避するためだ。

■第12条第1項

(一部滅失等による賃料の減額等)
第12条 本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、それが乙の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用できなくなった部分の割合に応じて、減額されるものとする。この場合において、甲及び乙は、減額の程度、期間その他必要な事項について協議するものとする。

<要旨>
借り主に責任がない理由で一部滅失などにより賃貸住宅の一部が使用できなくなった場合、その度合いに応じて賃料は減額される。

<解説>
現行民法の「減額請求できる」から改正民法では「当然減額される」に変わる。当然減額となるので、使用できなくなった部分の賃料は発生しない。この場合は、トラブル回避のために減額割合や減額期間、減額方法をきちんと決めておくとよい。

■第12条第2項/第13条

2 本物件の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、残存する部分のみでは乙が賃借をした目的を達することができないときは、乙は、本契約を解除することができる。

(契約の消滅終了)
第1213条 本契約は、天災、地変、火災その他甲乙双方の責めに帰さない事由により、本物件の全部が滅失その他の事由により使用できなくなったした場合には、当然に消滅これによって終了する。

<要旨>
・一部滅失などで住めない場合は、借り主は契約を解除できる。
・全部滅失の場合は、賃貸借契約は終了する。

<解説>
契約解除や契約の終了については、借り主に責任がある理由で滅失した場合でも適用される。ただし、貸主から損害賠償請求される可能性は残る。

(3)敷金と借り主の原状回復義務
■第6条第2項/第3項

2 甲は、乙が本契約から生じる債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって賃料、共益 費その他の当該債務の弁済に充てると相殺をすることができない。
3 甲は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、敷金の全額を無利息で乙に返還しなけれ ばならない。ただし、甲は、本物件の明渡し時に、賃料の滞納、第154条に規定する原状回復に要する費用の未払いその他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には、甲は、当該債務の額を敷金から差し引くことができる差し引いた額を返還するものとする。

<要旨>
敷金は、明け渡しがなされた際に借り主に返還する。ただし、借り主に家賃滞納などがあった場合に貸主は敷金を充てることができる。(入居中の借り主が、敷金を家賃に充てるように求めることはできない)

■第15条第1項

第1415条 乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗及び本物件の経年変化を除き、本物件を原状回復しなければならない。ただし、乙の責めに帰することができない事由により生じたものについては、原状回復を要しない。

<要旨>
借り主は、通常の使用による損耗や経年劣化(貸主が負担)を除き、原状回復をする義務を負う。ただし、借り主の責任によらないものは原状回復しなくてよい。

<解説> 
民法改正で、名目を問わず敷金の定義に該当する金銭を返還することや原状回復義務の範囲が明記された。ただし、すでに賃貸住宅標準契約書は、国土交通省が判例等に基づいて作成した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に準拠しているので、大きく変わるものではない。原状回復については、特約を定めることができる点に留意したい。

連帯保証人を頼みたい、頼まれたあなたが覚えておきたい改訂点

連帯保証人に関する項目は大きく変わる。

賃貸住宅を借りるときには、貸主から保証会社か連帯保証人による保証を求められる。連帯保証人に過剰な負担をさせることのないように、民法改正が行われた。賃貸住宅標準契約書の改訂案で目に付くのが「極度額」と呼ばれる「責任限度額」だ。

【画像1】国土交通省「賃貸住宅標準契約書(再改訂版)(案)」より「連帯保証人」に関する部分を抜粋

■第17条

第1617条 連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。
2 前項の丙の負担は、頭書(6)及び記名押印欄に記載する極度額を限度とする。
3 丙が負担する債務の元本は、乙又は丙が死亡したときに、確定するものとする。
4 丙の請求があったときは、甲は、丙に対し、遅滞なく、賃料及び共益費等の支払状況や滞納金の額、損害賠償の額等、乙の全ての債務の額等に関する情報を提供しなければならない。

保証人が個人の場合に限定したルールだが、【画像1】の「極度額」という欄に、「借り主と連帯して保証するのはどの程度の額までか」を記載することで、連帯保証人自身が負担することになる限度額を認識できるという仕掛け。限度額は、例えば「●●円(契約時の月額賃料の〇カ月相当分)」などの記載が想定されている。

賃貸借契約を更新する場合も限度額が継続されるので、更新後に賃料が上がってもそれに応じて限度額が増額されることはない。

しかし、連帯保証人は借り主が賃料滞納をしていることを知らなければ、突然多額の負担を求められることになる。今回の改訂案によって、連帯保証人が貸主に情報を提供するように求めることができるようになる。連帯保証人を親戚や知人に頼む場合、連帯保証人を頼まれた場合などは、改正された民法が施行されてからは、限度額の記載が必要となることを覚えておきたい。

ここでは「賃貸住宅標準契約書」の改訂案に基づいて、どこがどう変わるかを見ていった。ただし、これはあくまで契約書の雛形の話。実際の現場で使われる契約書では、法律に反しない範囲で雛型とは違う内容になっていたり、特約が付いていることもある。

最終的には、締結した契約書の内容に縛られることになるので、確認をおろそかにせず納得した上で契約をすることが、今もこれからも重要だ。

■取材協力
・弁護士 江口正夫さん〇民法改正に関する記事
・民法改正で住まいの売買/賃貸はどう変わる?

〇原状回復義務に関する記事
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※記事中の条文については、国土交通省「賃貸住宅標準契約書(再改訂版)(案)」より抜粋


(山本 久美子)