私たちが月について知っていることなんて、ほんの一面でしかないのかもしれない。(写真:)


 2017年7月24日、月の地下には水が存在するという研究結果が科学誌『ネイチャー・ジオサイエンス』上で発表されました。
(http://www.nature.com/ngeo/journal/v10/n8/full/ngeo2993.html)

 これまで、月は地中まで乾いていて、水はほとんど存在しないというのが定説でした。もし月に水があり、火山活動もあるなら、温泉も存在するかもしれません。早急にボーリング調査を行なうべきでしょう。

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空に浮かんだ岩の塊

 見上げれば空にぽっかり浮いているおなじみの月ですが、私たちは月について何を知っているんでしたっけ。知識をおさらいしてみましょう。

 月は地球から38万km離れたところに浮かぶ直径3500kmの岩の塊です。もし地球をメロンの大きさに縮めると、月は約4m離れた梅の実に相当します。

 月は地球に同じ面を向けています。そのため地球からは月の表面の同じ模様が常に見えます。模様の白い部分は「陸」、黒い部分は「海」と呼ばれます。

 陸の正体は白っぽい斜長岩(しゃちょうがん)質の地形、海は黒っぽい玄武岩(げんぶがん)質の地形です。斜長岩は玄武岩よりも密度が小さいので、陸の部分は海の部分よりも高く、月の表面から出っぱっています(氷山が海から顔を出しているところを想像してください)。

 逆に、海と呼ばれる地形はへこんだ地形です。もしも月の表面に大量の水を流すと、海と呼ばれるへこんだ地形には水が溜まって本物の海となり、陸と呼ばれる部分は実際に陸となるでしょう。

 これは地球も事情は同じで、地球の表面の(斜長岩よりも水を多く含む)花崗岩(かこうがん)質の地形は出っぱって大陸になり、玄武岩質の地形はへこんだ大洋になっています。地球から大気と海を剥ぎ取ると、ほとんど色のない白黒灰の惑星になりますが、元大陸だった部分は白っぽくて月人(?)から「陸」と呼ばれ、大洋だった部分は黒っぽい「海」と呼ばれるでしょう。

 現在の月は、大気も水もない、白く乾いた世界です。表面に水がないだけでなく、地中にも水はほとんど存在しないと考えられてきました。

渇きの海はそれほど渇いていなかった!?

 2017年7月24日、アメリカ・ブラウン大のラルフ・ミリカン准教授とハワイ大の李帅(リー・シュアイ)研究員は、月の地下にはかつて大量の水が存在していたという研究結果を科学誌『ネイチャー・ジオサイエンス』に発表しました。
(http://www.nature.com/ngeo/journal/v10/n8/full/ngeo2993.html)

 月探査機「チャンドラヤーン1号」の観測データを用いて、月表面の「火砕堆積物」を調べたところ、そこに水の成分が含まれているのを見つけたというのです。

 火砕堆積物とは、月の火山活動による噴出物で、月の地下深くから出てきた物質です。月には現在活動中の火山はありませんが、過去の火山活動の痕跡が表面にあり、かつての噴火口や噴出物を見ることができます。

 火砕堆積物の成分は月の地下の成分を表していると考えられます。水の含有量は150ppm〜400ppm、つまり1%の100分の1程度という微量です。また、水といってもほとんどは水酸化物イオン(OH-)で、残念ながら飲んだり顔を洗ったりできるような形態ではありません。

 しかし比率がわずかでも、月はなにしろ直径3500kmの岩なので、含まれる水の総量は莫大なものになります。単純に掛け算すると約1京トンとなります(地球の海水量は約100京トン)。もし全部液体の水として取り出して、月表面にぶちまけると、水の深さは平均200mになります。

 地中の水分を全部液体の水として見積るのは乱暴だとしても、地下資源というものは、あるところに集中して存在していたりするものです。月の地下のどこかには、氷をたたえた洞窟や、岩盤の下の水分に富む地層があって、井戸が掘れるかもしれません。井戸が隠されているとなると、がぜん月の砂漠が美しく見えてきます。

チャンドラヤーン1号

 チャンドラヤーン1号は、インド宇宙研究機関が2008年に打ち上げた月探査機で、月を周回して2009年まで観測を行ないました。「チャンドラ」は「月」、「ヤーナ」は「乗り物」を意味します。

チャンドラヤーン1号。(写真:)


 チャンドラヤーン1号は11の観測装置を搭載していました。今回用いられた近赤外分光器は、月面の岩石からの反射光を分析して、化学成分を調べるものです。例えば反射物質の中に水が含まれていると、水分子はある波長の近赤外線を吸収するため、反射光からその波長の成分が失われます。そこで水が存在することが分かるのです。

 ちなみに「チャンドラ」のつく宇宙機はもう1台あります。NASAのX線天文台「チャンドラ」で、こちらは現在活躍中です。インド出身の偉大な理論天文学者スブラマニアン・チャンドラセカール(1910-1995)にちなんで命名されました。(月を名に持つ天文学者と、それにちなんだ天文台衛星とは、もう格好よすぎて目が眩みそうです。)

月に温泉を

 月には、現在、火山活動がないと述べました。月の火山活動は30億年ほど前にピークを迎え、10億年ほど前に衰退したと考えられています。

 しかし一方、月の火山活動は完全には死んでいないという見方もあります。地表に残る火山活動の痕跡を丹念に調べると、比較的新しい数千万年前のものが見つかるため、現在でも活力がわずかに残っているという説です。

 これが本当ならば、月の地下のどこかには、まだ熱いマグマが潜んでいるかもしれません。もしも月の火山活動が観測できたら大発見です。

 そして地下に水とマグマが存在するならば、温泉だって期待できます。適切な場所に穴を掘れば、熱水が噴出するかもしれません。

 宇宙産業は現在成長中ですが、そのうち特に観光業は発展が見込める分野です。大金を払ってでも宇宙に行きたいという人が大勢、ロケットの順番を待っています。

1969年の月ツアー旅行で撮られた写真。温泉に漬かりながら地球を眺める日も来るかもしれない。(写真:)


 宇宙で製品を生産したり、月で資源を掘ったりするのは、可能かどうか分かりません。宇宙工場や月の採掘はコストを考えると儲からないかもしれません。しかし、月ツアー旅行は1969年に行なわれています。原理的に可能なのです。

 月はなにしろ遠く、月観光旅行が売り出されるのはだいぶ先と思われますが、その時にはパッケージに温泉も入れるべきでしょう。月面の湯船に漬かって見上げれば、空にぽっかり浮いているのは地球です。視直径は月の4倍、アルベド(反射能)は4倍の地球がまばゆく輝いています。

 間違いなく月は太陽系一の温泉地になるでしょう。

*ただし筆者が李研究員に月温泉の可能性について問い合わせたところ、今回の研究は10億年以上前の堆積物についてであり、しかも検出物質の多くは水酸化物イオンなので、温泉開発は有望とはいえないという返事でした。天然温泉100%は難しいかもしれません。

追記(2017年8月11日): 月の花崗岩についての記述を斜長岩に修正しました。花崗岩は生成に水が関与していて、斜長岩よりも水の含有量が多い岩石です。(御指摘いただいた大阪大学寺田健太郎教授にお礼申し上げます。)

筆者:小谷 太郎