『自分が信じていることを疑う勇気』の著者である長谷川雅彬さんは、証券会社に勤務後、スペインのIE Universityで日本人初のVisual Media Communication修士号を取得。イスラエルでソフトウェア会社のチーフエバンジェリストとして働いたり、アメリカやスペインで書籍を出版するなど、輝かしい経歴を持っています。

本書では、そんな彼がさまざまな経験から培った「疑う」という思考についてまとめられています。自身の世界だけに捉われて盲目になっていると、ビジネスやプライベートでもチャンスを逃してしまいます。

では、そうならないためには?

「経験」を疑う

未経験のことを実行する際、私たちは体験したことの範囲だけで物事を判断しようとします。

人間の学習システムは過去から学ぶようにデザインされているので、これは自然なこと。特にビジネスでは、失敗したら金銭的な損失が出たり責任を問われるリスクがあるので、成功するかどうかを経験から占いたくなるのも当たり前です。

誰かと新しいアイデアについて話していると「それをどうやって実現するの?」と質問されることがありますが、恐らく答えられないでしょう。それで良いのです。「現時点でアイデアの実現方法を知らない」ということと「そのアイデアを実行できる」ということは無関係ではないでしょうか。

スマートフォンが良い例です。物理的に考えれば宇宙ができた時点で、私たちはスマートフォンを作ることが可能でした。では、なぜ生み出せなかったのか…。それは、スマートフォンの作り方に気づけなかっただけ。単にスティーブ・ジョブズがiPhoneのアイデアを実現しただけの話なのです。

アイデアは現時点で生み出せていないからこそ、価値があります。よって、アイデアを思いついたときに、それを成功させる方法を知っている必要などありません。分からなかったら見つければいいだけの話です。この世に完璧など存在しないのですから、アイデアなんて「面白いことを思いついたんだけど、実現方法がまだ分からないんだよね」で十分です。

「常識」を疑う

思い込みによって盲点が生まれ、モノの見方が偏ってしまうことがあります。思い込みが強ければ強いほど、また数が多ければ多いほど、極論に陥りやすくなるのは人間の悪いクセです。

例えば「好きなことだけやって生きてはいけない」という思考も、思い込みです。確かに仕事をしていると好きな時に休めなかったり、嫌なことをしなければならない状況があるでしょう。しかし、日本の憲法十八条は「日本国民は奴隷的拘束を受けない」ことを保証していますし、嫌で仕方がないのなら、その仕事をする必要はどこにもないのです。

もちろん、人によっては「本当はやりたい仕事があるけど就職試験に落ちたから」などという理由で働いているケースもあります。しかし、成人が数年働けば大学や専門学校に行くくらいのお金は稼げますし、奨学金もあります。あなたが真剣に今の状況を変えたいのなら、日本はそのための方法を準備してくれています。

極端な例を出しましたが、ここで言いたいのは、「社会で当たり前だと思われていることのほとんど」が思い込みだということ。つまり、それによって様々なものが見えなくなっていることを分かってほしいのです。何でもかんでも盲目的に信じてしまうと、目の前にチャンスが転がりこんでも、それをゲットすることはできません。好機は常に存在しているのに、掴まなければ意味はないのです。

…とはいえ、自分が信じていることを疑うのには勇気が必要です。「これまで信じていたことが思い込みだった」と気づいて苦悩することも考えられます。しかし常識が崩れても、それまでの人生が無意味になることはありません。むしろ、それまで見えていなかった無限の可能性に気づけるでしょう。

「言葉」を疑う

いきなりですが、自分の言葉を他者に完璧に理解してもらいたい、という考えには無理があります。

私たちは、無意識のうちに誰もが同じ言葉を同じ意味で理解することを期待しています。要は「同じ言葉は誰にとっても同じ意味であるはず」という考え方です。これは部分(言葉)が全体を作っているという構造主義的な考え方で、言語の世界では「統語論」と呼ばれています。しかし、実際のところは文章全体の意味が先にあって、部分の意味は後で決まるはず。同じ言葉を使っても、人によって受け止め方はバラバラなのです。

例えば「川」という言葉を聞いて、日本人なら幅が数メートルくらいの小川を思い浮かべるでしょうが、中国人の多くは対岸が見えない大河をイメージするでしょう。

今まで日本人は、同じ思考や同じ物の捉え方をしてきました。しかし、現在は国籍が日本でも海外育ちの人がいますし、インターネットの発達で日々吸収している情報の量も傾向もバラバラです。日本人同士だからといって、同じ捉え方をしていると思うのは大きな間違いなのです。このことを認識しておけば、コミュニケーションでストレスを抱えることはなくなります。

価値観は人それぞれですし、時が経つにつれて変わるもの。まずは「こうあるべきだ」という思いから距離を置き、すべてを「フィードバック関係(自分が何かをすると何かしらの反応が返ってくること)」だと捉えると、世界が一変するでしょう。自分の考え方や言動を変えると、違った反応が返ってきます。あなたが望む返答を得るためには、自分が他者に働きかける方法を変えればいいのだと理解できるはずです。

今の状況を自分の思い通りにしようとするのではなく、どんな場合でもあなたが望む結果を得るためにはどうすべきかに意識を集中させてください。まずは「言葉の伝え方」について考えてみましょう。

目的、価値、現実、悩みなど…自分が当たり前だと思っている概念や物事に「あえて」疑いを持ち、多角的な目線でビジネスやプライベートに取り組むことを推奨している一冊。「限界を決めているのは自分自身である」と考えさせられるだけではなく、目に見えないチャンスを掴むための思考術がまとめられています。