大竹しのぶの演技が胸をえぐる「にんじん」

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 60歳の女優が14歳の少年を演じることは可能か−。その答えが東京・新橋演舞場で上演中のミュージカル「にんじん」(27日まで)だ。先月還暦を迎えた大竹しのぶが、そばかすで赤毛の少年を演じている。

 大竹は1979年8月、22歳でこの役を演じている。あれから38年、結婚や離婚、出産などを経験した女優は「前よりも、役の気持ちが分かるし、(登場する)お父さんやお母さん、おじさん、みんなの気持ちがもっと分かるようになりました」と人生で培った効果を語っていた。

 原作は仏作家、ジュール・ルナール。家族や周囲から「にんじん」と呼ばれる少年が直面するつらい現実と自立を描く。物語には、子供への虐待やいじめも含まれる。

 「(わが子を)いじめているんです」という母親役は女優のキムラ緑子(55)。宇梶剛士(54)の夫との仲は冷え込んでいる。

 今でいう産後うつのため、にんじんは親戚に預けられ育った。そのため中山優馬(23)の兄、秋元才加(29)の姉ともぎこちない。

 母親にいじめられ、兄や姉からは泥棒の罠にはめられ、孤立無援のにんじん。父親は家族に無関心だ。自分はきっと、本当の子供じゃないんだと思い込み、やがて自殺を考えるように。ピュアな心はズタズタ…。

 何度も食卓の団らんシーンが登場する。大抵はぎくしゃくしたやり取りが繰り広げられ、殺伐とした場面になり、みんなそこからいなくなる。それでも家族が集まる象徴としての団らんに、求めても手に入れられない当たり前の幸せが重なる。

 学校でのいじめは後を絶たず、自殺に追い詰められる中高生もいる中、「生まれて来なければよかったんだ」というにんじんのせりふが見る者の心をえぐる。

 けいこ場で大竹は、実年齢と役の年齢差を気にしていたという。

 「自分の出ている場面の芝居が終わると『おばさんに見えなかった?』と気にしていました」と明かしたのはキムラ。「最初から14歳でした」とたたえる。

 脚本と作詞は7月24日に亡くなった作詞家の山川啓介さん。大竹は「見てくれていると思います」としのんだ。

 名作は手を加えられつつ生き続ける。つらくても人生を降りてはいけない。そんなメッセージを次世代に伝えるために。