人間国宝で落語家の柳家小三治

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 7日に直撃取材した人間国宝、柳家小三治の“告白”は衝撃だった。5日にツイッターで師匠が病気療養する情報を見つけ、担当記者を中心にチームで情報を集め、その理由が頸椎の手術と判明したのが6日。一夜明け、本人に事実を確認しようと出演中の「8月上席」が行われている東京・池袋演芸場に記者を派遣させたのだが、その報告に度肝を抜かれた。

 こちらが「師匠は答えてくれた?」と電話でのんきに質問すると、記者は「あの、アルツハイマーの疑いがあると突然、高座で明かされて…」と即答。頸椎の手術に意識がいっていたので、一瞬「?」と思ったが、話を聞くと大真面目だった。

 報道陣が直撃する前に、記者は高座を鑑賞。さすが人間国宝だけに、立ち見の大盛況だったといい、その話芸も楽しみにしながら主役の登場を待っていたという。

 落語の本編の前に観客をひきつける噺の導入部分のまくらに定評がある小三治だが、そこで「今年に入ってからか。頭がおかしくなる。何て言ってましたっけね、忘れたな…ああ、アルツハイマー」と淡々と告白。さぞ観客も驚いて沈黙したかと思ったが、記者によると、みんな大爆笑しており、“冗談”に聞こえたという。

 まくらでは、安倍晋三首相の名前がすぐに出なかった一幕もあったようだが、観客はそれも師匠のサービストークとしてとらえていたようで、本編では得意ネタの「小言念仏」を軽妙に披露。記者も本人に真偽を確かめるまで半信半疑のようだったが、終演後に丁寧に取材に応じてくれた師匠は「アルツハイマーの疑いがあるってこと」と病院で検査を受けたことをあっさり明かしたという。さらに頸椎の手術をすることも認め、小三治は「大丈夫ですよ、元気だから」と報道陣を安心させる言葉で締めくくったとの報告だった。

 一般人だってアルツハイマーという病気の疑いがあればうろたえてしまうが、よどみなく言葉を紡ぐ落語家にとって記憶力はそれを支える大きな武器であり、あまりにもつらい現実だ。苦悩のまっただ中にいるに違いないが、常にひょうひょうとした小三治はそんな“大ニュース”をさらりと言い残し、演芸場をあとにしたという。

 こんな言い方は大変失礼だが、何にも動じないように見せる大物の“粋な姿”が目に浮かび、自身の“不安”で観客を爆笑させてしまう人間国宝の懐の大きさを感じてしまった。

 慢性の肺疾患で休養・復帰を繰り返す桂歌丸も、鼻から酸素チューブを入れた姿で高座に上がり、テレビにも出演し続けている。

 77歳の小三治も、80歳の歌丸も、どんな状況であろうと、芸道にかける執念とそれを笑いに変えようとするプロ根性がすさまじい。

 世間的には完全にリタイアしてもおかしくない年齢でも、大物落語家たちは今も若いときに以上にあがき続け、自分の道を模索しているのかもしれない。改めて壮絶な“生きざま”を取材させてもらっているということに感謝する思いだ。

 8月下旬から休養に入り、9月中旬に復帰予定の小三治。無事に休養を終えて高座に上がったとき、入院話などのまくらでどんなふうに観客を楽しませるのだろうか。そのときもしっかり取材しなければ。(記者のきもち)